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書くこと読むこと

2025.08.30 公開 ポスト

水見はがねさん 『朝からブルマンの男』:ひとつの謎について いろんな人が 話し合う ミステリが好きです。瀧井朝世

「書くこと読むこと」は、ライターの瀧井朝世さんが、今注目の作家さんに、「書くこと=新刊について」と「読むこと=好きな本の印象的なフレーズについて」の二つをおうかがいする連載です。

今回は、デビュー作『朝からブルマンの男』を刊行された、水見はがねさんにお話をおうかがいしました。

小説幻冬2025年9月号より転載)

 

*   *   *

水見はがね:1985年、埼玉県生まれ。2023年、「朝からブルマンの男」で第1回創元ミステリ短編賞を受賞。同作を収録した本作で書籍デビュー。

〈喫茶まほろば〉に最近奇妙な客が来る。週に三度、一杯二千円もするブルマンを注文しては飲み残していく青年だ。店のアルバイト、冬木志亜は所属する桜戸大学ミステリ研究会の会長、葉山緑里とその謎を解こうとするが──。水見はがねさんの『朝からブルマンの男』は、そんな第1回創元ミステリ短編賞受賞作を収録した短編集。

「推理小説好きの母の影響で、子供の頃からミステリが大好きだったんです。四年前、コロナ禍で家にいる時間が増えた時に、ちょっと子供の頃からの夢を追いかけてみようと思って書き始めました。ミステリと言えば東京創元社さん、という気持ちで投稿していました」

同社の短編賞に応募を続け、四回目で見事受賞した。

トリックを考えることが好き。執筆に際しては、謎を解いていく過程が書きたかったという。

「アシモフの『黒後家蜘蛛の会』のように、ひとつの謎についていろんな人が話し合うミステリが好きです。ただ、受賞作で書いた謎は場面転換が多いので、たくさんの人に話し合わせると短編の枚数に収まりそうもなくて。それで相棒感のある二人組にしました」

志亜と緑里が謎を推理し合う様子が実に楽しい。志亜は派手で(時にビミョーな)推理を好む行動派。緑里はロジカルで鋭い推理力を持つが、腰が重いタイプ。これは、「都筑道夫先生の〈物部太郎〉シリーズが好きで、モデルにしているところがあります」。

緑里は自分を「ぼく」と呼び、論理的な口調が特徴だ。

「いかにも探偵らしい喋り方をする主人公に憧れがありました。それに、『名探偵コナン』に出てくる世良さんが好きなんです(笑)」

受賞後、編集部から提案されてからシリーズ化が決まったというが、暗号、オカルト、時刻表、密室など、実にバラエティ豊かな謎が並んでいる。

「ストックにあったネタを、この二人に合う話に変えた感じです。犯罪に絡むネタを身近な話に変えたものもあるし、逆に『ウミガメのごはん』はミニマルな話なので、この二人にぴったりでした」

という「ウミガメのごはん」で扱う謎は、緑里の友人の〈おかんが作るご飯が、金曜日だけまずい〉というもの。深刻とはいえない謎を真剣に検証する志亜たちの様子がなんとも楽しく、可愛い。

「自分でご飯を炊いている時に“これって……”と思ったことをネタ帳に書いてあったんです。私としてはそこまでユーモアを出したつもりはなかったんですけれど、担当さんから“二人のすっとこどっこい具合が良かった”と言われました(笑)。読者さんからも評判が良いみたいで、自分がどういう世界観を作っているのかを、周囲の方の反応から教えてもらった感じがしています」

この話では、有名な水平思考ゲーム「ウミガメのスープ」の新解釈に「なるほど」と唸る。他の短編も、意外な知識や知見が盛り込まれていて、これまた楽しい。

「ひとつずつ“知らなかった”と思ってもらえることがあるように意識しました。いろんなことを調べるのが好きなんです。たとえば学生寮の幽霊の話は、建築基準法が気になって調べていた時に気づいたことを膨らませました」

最終話の、鉱物研究会のサークル室でダイヤが盗まれた謎では、鉱物の硬度の違いの知識が重要な鍵に。ちなみにこの話、最後のシーンがなんとも愛おしい。

「いろんな鉱物があるようにいろんな人間がいて、相手を傷つけてしまうかもしれないなか、一緒にいて楽しいなんて奇跡みたいだよね、ということをテーマにしました。なのであのラストシーンは最初から考えていました」

読後感軽やかな青春ミステリである本作。暗号や間取り図など図版もあり、謎解き欲もくすぐる。

「図版ってミステリならではのドキドキ感を生むので、自分の本にも入れたくて入れたくて。特にこのぺージがお気に入りです」

と、時刻表のページを開いてみせる水見さん。続編の執筆も決定しており、今後二人がどんな謎に遭遇していくのか、今から楽しみ。

好きな本の印象的なフレーズに選んでくれたのは、十代の頃に読んだというアンソロジー『競作 五十円玉二十枚の謎』より。

解かれなかったとはいえ、謎は一つの種子となって、違った色の実を結んだのである。

競作 五十円玉二十枚の謎』若竹七海ほか著(創元推理文庫)より

若竹七海さんが実際に遭遇した謎に対し、プロアマ十三人が解答を競作した一冊で、この引用部分は若竹さんの言葉だ。

「正確な答えを出すことより、いろんな人が考えてそれぞれの物語が作られていくことに意味がある、ということを表現した、いいフレーズだなと思って。実際にひとつの魅力的な謎から、こんなにたくさんのお話ができるのが面白くて、ずっと大事にしている本です」

水見はがね『朝からブルマンの男』東京創元社/1980円(税込)

店で一番高いコーヒーを注文しては飲み残していく客、幽霊が出現する学生寮、途中下車したのに目的地に同時に着いた友人、金曜だけまずい母のご飯、鉱物研究会のサークル室で消えたダイヤ……。桜戸大学ミステリ研の二人が謎に挑む作品集。

取材・文/瀧井朝世、撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)  

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書くこと読むこと

ライターの瀧井朝世さんが、今注目の作家さんに、「書くこと=新刊について」と「読むこと=好きな本の印象的なフレーズについて」の二つをおうかがいする連載です。小説幻冬での人気連載が、幻冬舎plusにも登場です。

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瀧井朝世

フリーライター。多くの雑誌などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009~13年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。現在は同コーナーのブレーンを務める。著書に『偏愛読書トライアングル』(新潮社)、『あの人とあの本の話』(小学館)、『ほんのよもやま話 作家対談集』(文藝春秋)など。

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