

下町ホスト#40
「アタシの買い物も付き合えよ」
過剰に光沢のあるスーツを身に纏い、軽やかに買い物をする眼鏡ギャルを追いかける。
ひとつの店舗に滞在する時間は短く、色鮮やかな薄手の衣服をギョロギョロと物色している。
気に入ったものを幾つか購入し、大げさなサイズの紙袋に纏めて入れて、私が持った。
「時間中途半端だから歌舞伎町散歩して戻ろうよ」
私は眼鏡ギャルの提案に心躍ったが、着慣れないスーツが後ろ髪を引く。
「この格好でいいのかな?」
「いーんだよ 歩け」
そう言って眼鏡ギャルは軽やかに下りのエスカレーターに乗り、手すりに長い爪を突き立てながら出口へ向かった。
中途半端に夜になっていない新宿は、何処へゆくのかわからない人達で溢れかえっている。
大通りから、少々ドブの香りがする小道を抜けて、裏口なのか入り口なのかわからない飲食店を左に曲がる。
まだライトアップされていない看板達が私の視界に入る。
「まだこいついるんだ うける」
眼鏡ギャルは、看板の傷や色焼けを指摘しながら歩き、真新しそうな看板は写真に収めた。
立ち止まっている私達の存在を掻き消すように、強い香水の香りを放つ出勤前の同業者らしき人々が足早に様々なビルに入ってゆく。
「お前、着てるスーツのこと忘れてるでしょ?」
「え?」
「てめー 恥ずかしいとか言ってなかった?」
「忘れてたわ」
「やっぱ向いてるよ歌舞伎町」
「そうかな」
「馬鹿でよかったな」
「え?」
陽が沈んでゆくことに気付かぬまま、点々とネオンが点灯し始めて、以前私が見た歌舞伎町になってゆく。
「アタシちょっと用事あるから、そこで待ってて」
眼鏡ギャルは誰かに電話しながら、看板も特に出ていない雑居ビルに入って行った。
私は男臭い名前の寿司屋の前で大きな紙袋を持って立ち尽くす。
視点がうまく定まらないまま、胸ポケットから煙草を取り出し、押し寄せてくる不安に抗うように火をつけた。
数回大きく吸って、灰を落とす場所に困っていると、真っ白なパンツにピチピチのアルマーニの黒いTシャツを着た男が話しかけてきた。
「君どこのホスト?」
「え?どことは?」
「歌舞伎町でしょ?店」
「違います」
「まぢかよ もったいねー」
「もう少し話聞きたいからどっか行かない?」
「えっと、人待ってるんです、、すみません」
「そっかー じゃあ後で電話するから番号教えてー」
「わかりました」
私はアルマーニ男の携帯に番号を打ち、一回鳴らした。
「ありがとー またなー」
すっかり煙草は根元だけになっていて、そのまま指で弾いて捨てたところに、眼鏡ギャルがさっぱりした顔で戻ってきた。
「誰あれ?きも」
「なんか話しかけられてさ」
「で?」
「もったいないとか色々言われた」
「白パンにあれ着てたらだいたいスカウトだろ」
「そうなの?」
「ちなみに、さっきからアタシのこと見てる、ちょっと金持ってそうなアイツは風俗メインのスカウト」
「へー」
「ってか浮かれてないでさ 改めて鏡で自分の姿見てみ?」
「、、、」
「髪型中途半端 芋臭い スーツだけホスト」
「、、、」
「揶揄われたと思いな」
「うん」
「まず舐められない見た目になれ あっちの店は忘れろ」
「はい」
そう言って力強く歩き出した眼鏡ギャルから仄かにオヤジ臭い香水が香った。
『奉納』
包茎のような頭で聞いている君の学歴、奴のラスソン
柑橘の泡にまみれて擦ってる包皮の裏は静かに黒い
泡立たぬ安価な記憶を洗ったら排水溝に流れる未来
丁寧に乳首をつまみピリピリと快晴すぎる空を見上げる
天井のシミが星座に見えなくて玄関を出る、鍵は閉めない

歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
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