
先日無事私の漫画原作のドラマが最終回を迎えた。
放送前はいろいろナーバスになり、2週間の下痢に2回の通院、嘔吐1回、便所の床で寝た日1日、となかなか激動であったが、開始してみれば危惧していたような事態は何も起こらず、むしろ世間にも比較的受け入れられたように見えた。
そう思ったところで、放送前に「原作者の下痢を一番長引かせた奴優勝wwスレ」を「これは荒れそう」の1レスで終わらせた夫により「今は受け入れられなかったかもしれないが、今後この作品が受け入れられる未来が来るかもしれない」という総括をいただいた。
いきなり何を言いだすのだと思ったが「エヴァも最初は理解されてなかった」と、己が唯一敬愛しているコンテンツだと公言しているエヴァを引き合いに出して来たところで「本気で言っている」と理解し戦慄した。
いや、割と受け入れられていた、お前はどこの亜空間をみてそう言っているのだ、といいたいところだが、そう言われると「そうかも」となってしまうものなのだ。
確かに、作家にキツイことを言うのがカッコいいと思っている編集者ならこの状況を「好評だけが散見されるのは逆にそれが広い層に見られていないという査証である」と表しそうだ。
しかし、夫の良いところは、仕事で幸運に恵まれた妻が気に入らず、気勢を削いでやろうと思っているわけではなく、むしろ「チア」目的で言っているという点だ。
実際、私のために、慎重に言葉を選びながら、一番言ってはいけない言葉を選んでいく様は見ごたえがあった。
確かに、私は浮足立ってしまいすぎていたかもしれない。よしんば評価がどれだけ良くてもそれはドラマの評価だ、それを自分の実力だと勘違いするのは危険である。
そんなレビテドがかかった足元を地につけてやれるのは身内にしかいないだろう。
身内が一番急所を的確に打ち抜いてくれているのだから、ネットでたまに見かける、どこの誰かもわからない人間の的外れな批判コメントに心を乱される必要もないのだ。
それにドラマの展開自体は知っているのだ。そこに夫の全く予想がつかないコメントがつくことで、よりスリリングな時間を過ごすことができた。
そんなわけで、終わった後もいろいろエキサイティングであり、間違いなく楽しい一か月半であった。
私は長らくテレビをほとんど見ていなかったし、特にドラマ類はほとんど見たことがなかったので、全く知らない世界を見せてもらえたという意味でも貴重な体験だった。
架空の物語を見せる、という意味では漫画もドラマも一緒なのだが、その作り方は対局と言っていいほど真逆であった。
漫画家という職業が、他人と仕事ができない奴が最終的にたどり着く極北の一つであることは有名だが、ドラマは完全にチームプレイであり、むしろ他人と仕事ができない奴は入れない世界である。
一度だけ撮影現場を見学させてもらったのだが、私が一人で描いたシーンをドラマにするために、50人ぐらいが集結しているのだ。
もし私みたいなのが50人で何かをやろうと思ったら、一度も全員集結しないまま終わるだろう。
奇跡的に全員集まったとしても、半分は目的以外のことをやりはじめるし、途中で何人かいなくなる。
だがドラマの撮影は50人揃った上に、全員がドラマの撮影業務にあたっているのだ。
単独制作が可能な漫画と違い、ドラマはこれ以上ないほどの分業とチームプレイであり、携わっている人員も、おそらくかかっている金も桁外れだろう。
しかし、投入している材料も制作過程も真逆なのに、世間に発表され評価を受ける「作品」が生まれるのは同じ、というのが面白いところだ。
だが評価に関しては、正直ドラマの方が厳しいと思う。
例え大赤字になっても、負債を個人が負わなくていい、というのはドラマの良いところだが、評価が後に響くという意味では、ドラマの方が上な気がする。
何故ならドラマは不人気でもニュースにされてしまうからだ。
漫画は100万部突破など、景気の良い数字はニュースにするが「初版800部」みたいなことはわざわざ言わないのである。失敗した漫画は誰にも注目されないまま終わるから失敗なのだ。
だがドラマは「視聴率過去最低むしろマイナスを記録」みたいな低い方もトピックにされてしまうのだ。
しかも制作には何十人も関わっており、失敗理由は複合的であろうのに、主に、俳優、監督、脚本が全ての責任であるかのように言われるのだ。
失敗した時「俺以外に原因がいない」のも漫画の良いところである。
漫画も厳しいが、やはり芸能は凄まじく過酷な世界である、もっと感謝してテレビを見て行きたいと思う。
カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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