
誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。
アスファルトが陽を跳ね返し、街はサイネージの中で反復するリズムを刻むことを放棄した
スクランブル交差点を渡るたびに、靴底がすり減る事が気になって、信号の点滅はキューサインに見えて眠たい
陳腐な感情にさらわれる事にも覚悟と期待が入り混じり、路地裏から漏れる重低音が、君と僕をどこか遠くへ誘ってゆく
昨日買ったレコードが延々と耳の奥で鳴り響いている
甘く透き通った声が不思議なメロディと共に、旅という気まぐれな言葉だけを膨らませてしまう
石畳と海風が、脳裏にふっと訪れて、日本人が少ない真夏の成田、飛行機の窓の外で雲海が騒ぎ、感情の高度も上昇してゆく
雲の上でゆらゆらと踊る光、旋律の過剰なハイが高まると、君は地図の端に書かれた文字を指先でクルクルと遊ぶ
始まる音の旅が、あの頃に恋し焦がれた夢を甦らせた
建築物の曲線、バルのざわめき、ストリートミュージシャンのギター、全てが太陽の光に反射して、聞きなれない語感と美しく重なってゆく
色鮮やかな果物とスパイスの香りの立ち上り、地中海のサンセット、波の音は1000回聞いたレコードよりも愛おしい
心臓の奥にずっと残り続ける波音のフィードバック、目を閉じて青い海とネオンの交差点を、一つの風景として重ねてみたり
湿度を忘れた風が薄化粧の頬をなで、見慣れない楽器が紡ぐメロディが、ストリートの会話に絡みつきながら、街を漂う
喧騒とは対極の柔らかい波動、人の息づかいや笑い声、そして今を刻むことにだけ集中する本能
旅は終わっても、叶えた夢は消えない
此処からの君と僕の生活は、新しく珍しいリズムを刻み始めてゆくはずだから
また叶えるべき夢との出会いに導かれるために
サンディー『DREAM CATCHER』(1994年、エピックレコードジャパン)収録
渋谷で君を待つ間に

誰かを待つ時間、あなたはどんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
この連載では、そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽を、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに毎回紹介していただきます。
- バックナンバー
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- 始まる音の旅が、あの頃に恋し焦がれた夢を...
- 同じ音楽なのに、違う物語を語り始めて -...
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- 心の奥で鳴り響く拍手がある限り - 中谷...
- 取り返せない今を生きているのだから - ...
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