
8月10日、夏の甲子園5日目。朝8時にプレイボール。
弘前学院聖愛の試合でした。
VS.西日本短大付。負けました。競り合って延長戦で。
格上と言われる強いチームを相手に、いい試合で、いい戦いで、最後までどちらが勝つかわからないような接戦でした。
しかし、悪魔が現れた!? と思いたくなるような終わり方を迎えました。
【高校野球 西日本短大付が弘前学院聖愛に延長で競り勝ち2回戦へ】
(相手チームのホームランで2点先取されるも、その裏で、タイムリーヒットを連発して、3-2に逆転! その後、1点返されて同点で延長戦に突入するがーー結果は、3-4で敗退)
動画で見られる機会があれば、ぜひ見てほしいです。試合そのものが、見ごたえのある、すごい試合だったので…。
さて、試合終了から数時間後、監督から来たメッセージは、シンプルな思いの吐露でした。
「勝ちたかった……」
このシンプルな言葉が胸を鋭く突き、涙が出ました。
聖愛は、よく打ち、よく走り、よく守り、よく考え、よく話す、心も表情も豊かな、とても美しいチームで、知れば知るほど応援したくなるチームです。
だからこそ生まれた、「いい試合」でした。
応援する人たちに希望を見せる、可能性を見せる、そういう試合でした。
正直、相手チームの選手の体はバキバキで、見るからに強そうで。
日本代表の候補になるようなすごい選手もいるらしく。
聖愛の特徴は、ノーサイン野球です。
監督がサインを出さない、そういう野球です。
それで、ここまで来たんです!
「ひとりひとりが考える野球」で、強豪ぞろいの青森県の熾烈な戦いを勝ち抜いて県代表になり、今日も西日本短大付と接戦。
こんなチームを、作った原田監督のことが、ますます気になってきました。
しばらくして、監督から、再びメッセージが届きます。
「これから、すぐに新チームが始まるのです。 来週の日曜日には、秋の大会があります。 ってことで、 休んでられないのですよ!!泣」
ほんとだったら、なりふり構わず落ち込みたいし、泣き暮らしたいし、叫びたいし、地団駄踏みたいのではないでしょうか。
それでも監督は前を向かないといけない。未来を見て、新しい選手たちと、走りださなければいけない。
といっても、監督は、魔法使いでもスーパーマンでもありません。
「1年で一番成熟したチームから、 1年で一番未熟なチームへ移るこの時。毎年、このギャップが……」
監督はこうやって、毎年毎年、頑張った選手たちを讃え、同時に、新しい「ひよこ」たちを育てることを繰り返しているのです。
毎年、新しいメンバーに、勝つことを教えて、考えることを教えて、野球の面白さを教える。
毎年出る結果がどんなに残酷なものでも、受け入れなければならないし、
その都度生まれる選手たちの悔しさや悲しさを、全部背負わなければならない。
創部以来、そうやって重ねてきた25年。
津軽弁で、のんびりした話し方をする監督の、いつも明るい対応で忘れてしまいそうになりますが、
監督の人生は、ずっと傷だらけの戦いです。
それも、自分一人のための戦いではありません。たくさんの夢と希望を持った子供たちのための戦いを、繰り返しています。
それでも、ちょっとだけ、弱音も聞きました。
「毎年毎年、神経がすり減ります」と。「自分でもよくやってるなって思います。いつまでやるんだろう」と。
それでも、こう〆ました。
「子供は日本の宝。これからの日本のために、 がんばります!!」
これが原田一範監督です。
お金のある強豪校は、ボールもバットも、新しいものがどんどん揃うそうです。
練習時間も、多いチームは一日7時間も8時間もやってるそうですが、聖愛では毎日3時間。
室内練習場を持つ学校もあるそうですが、聖愛にあるのは、グラウンドに立てた、大小2つのビニールハウス。
本書(『1年で潰れると言われた野球部が北国のビニールハウスから甲子園に行った話』)の取材・構成をしたライターの井上健二さんが、今日の試合を見て言ってました。
「泣きそうになったところがあって。
聖愛がランナー2、3塁でヒットが出て、2塁ランナーまでホームインして同点にしました。
あの際どい本塁突入プレーって、冬にビニールハウスでやってた練習が生きた場面ですよね。
本当に感動しました。」
聖愛を知ることができてよかった!
試合の結果は残念でしたが、こんなにも応援したくなるチームがあるということは、確実に残った真実です。
原田監督は、どうしてそんなチームを作れたのか!?
ビニールハウスから甲子園に行ったんだから、すごすぎるって話です。
そうです、この本を改めて今、読んでほしいと思います。
#ビニールハウスから甲子園
1年で潰れると言われた野球部が北国のビニールハウスから甲子園に行った話

校長からは「野球に力を入れるつもりなら、あなたのような無名な人を監督に呼ばない」と言われ、ようやく集めた部員からは、「キャッチボールも、生まれて初めてです」と言われた。
それが、このチームの始まりだ……。
1年の3分の1は雪に閉ざされるため、近所の農家の協力でグラウンドにビニールハウスを建て、冬はその中で練習。
それでも、気持ちは「絶対甲子園に行く!」
しかし、こんなチームでどうやって?
学歴も人脈もナシ! 無名の監督の、思考と検証と挑戦の記録!
弘前学院聖愛高等学校野球部は、優れたスポーツマンシップを発揮した個人・団体を表彰する「日本スポーツマンシップ大賞2025」の「ヤングジェネレーション賞」を受賞している。
(取材・構成:井上健二 撮影:干田哲平)