
定年退職後に長野県安曇野市に移住した、元『装苑』編集長の德田民子さん。初のエッセイ『80歳、私らしいシンプルライフ』では、四季のはっきりした安曇野での暮らしやおしゃれの工夫、毎日をごきげんに過ごす秘訣など、80歳を迎えた德田さんの心豊かな日々をご紹介しています。本書より、一部をお届けします。
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建築家に伝えたイメージは「木造・平屋・シンプル」な家
土地探しから着工まで、そして引っ越すまでに2年の月日がかかりましたが、その準備はどれも楽しいものでした。まずはどんな家を建てるのか。周囲に雑木林や畑など、のんびりした風情の残る土地にふさわしい、私たちらしい居心地のいい家とはどんな家かなどなど。
まずは夫婦でイメージをすり合わせようと、インテリア雑誌など参考資料を集め、スクラップのように気に入ったものを集めて並べ、あれこれ話し合ったりしました。
秀逸なのは、長年アートディレクターをしていた夫が、広告のプレゼン資料のような、 本格的な設計のイメージプランを作成したこと。外壁やドアなどの色イメージは、パントーンという、世界共通の色見本まで添えた熱の入れよう、こだわりようでした。
最終的に、友人の建築家に設計の際に伝えたことは3つありました。
「木造・平屋・シンプル」ということ。この周囲の自然に溶け込む木造の素朴さ、平屋という威圧感のない小さな家。そして、シンプルですっきりした空間と間取りに。それこそが自然の中で暮らす、居心地のよさにつながると思ったからです。
例えば、我が家の南と東に張り出したウッドデッキには囲いはありません。理由は、すぐ庭へ出られるようにしたかったことと、そんな周囲の自然との一体感を大事にしたいと思ったから。
また、室内も無駄な装飾は極力省き、マッチ箱のようなシンプルな空間にしてもらいました。玄関のスペースも作りませんでした。
小さな家で、かつシンプルな間取りは、目が行き届くのがいいところ。年をとったら、掃除ひとつとっても、家仕事は大変になっていきます。身の丈にあった無理のない広さであることと、シンプルな間取りにすることにそうした目的もありました。
家の入り口を入ってすぐに土間。手前横の扉を開けたら、すぐメインの部屋です。ダイニング、キッチン、リビング、そしてちょっとしたワークスペース、それらすべてを一間で兼用しています。
いつでも、どこの部屋にもすぐ行けて、どこに何があるのかが見渡せる。そんな間取りを考えてたどり着いたのが、このドアもない仕切りもない「食べる・くつろぐ・遊ぶ」が一間で叶う間取りだったんです。
兼用したことでゆとりも生まれました。室内では、起きてからほとんどの時間を今もここで快適に過ごしています。

80歳、私らしいシンプルライフ

定年退職後に長野県安曇野市に移住した、元『装苑』編集長の德田民子さん。初のエッセイ『80歳、私らしいシンプルライフ』が8月6日に発売となりました。本書より、試し読み記事をお届けします。