
青森県南部町で自給自足生活を送る田村ファミリーの妻・田村ゆにさん。電気・ガス・水道は契約せず、廃材で建てた手づくりハウスに家族3人、ニワトリ12羽と暮らしています。お金の不安が尽きない都会の生活から抜け出し、田舎に移住して気づいた“本当の豊かさ”とは。初のエッセイ『わたしを幸せにする0円生活』より、一部をお届けします。
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自炊歴ゼロでスタートした畑しごと
一人暮らしのとき、バイト先のまかないや売れ残りのお弁当で食事を済ませていたので、自炊することはほとんどありませんでした。たまの休みにレシピを見て1回分はつくれても、残った材料や調味料をどう使えばいいのかわからず賞味期限が過ぎては捨てるのくり返しです。自炊してもゴミが出てしまうなら、買って済ませるほうがムダなコストにならないという考えでした。料理がニガテで家庭的でもないわたしが結婚できるとは思いませんでしたが、結婚して野菜や調味料をつくるほど料理が好きになったことには、本人が一番驚いています。
そんなわたしが結婚してすぐに料理を始めたかというとそうではありません。最初は夫の実家にお世話になり、食事はお義母さんの手料理をごちそうになっていました。
週に1日は自炊の日と決めていても、そのほとんどは外食に出かけたり買って済ませることも多かったので、結局料理をすることはありませんでした。
これまで夫には、数々のマズイ料理を食べさせてきた歴史があります。本格的なカレーを目指してルーからつくってみたら小麦味の汁になり、米麴づくりに失敗して毎日のようにおかゆを出したかと思えば、パンを黒コゲにしたりと、自分でも残すレベルのものです。それでもイヤな顔ひとつせずに食べてくれた夫には感謝しかありません。野菜も育たない中で、蒸した葉物野菜とご飯だけのようなシンプルな食卓でもありがたく感じていました。こんなわたしが毎日「おいしい!」とうなずく食卓を実現できるようになったのも、畑での野菜づくりが関係しています。
料理では頼りないわたしでしたが、畑しごとは毎日楽しく、結果的には野菜を育てることのほうが向いていたようです。とはいえ、野菜づくりも知識ゼロからのスタートで、虫も苦手です。土を耕せば、なんの虫かわからない幼虫が出てきたりしますし、畑の中で飛んでくる虫におびえながら目を細めて作業していました。
やるだけやってみようという思いで続けていると、少しずつ収穫できる野菜が増えてきました。さらに、水辺でゲンゴロウが泳いでいたり、ホタルを見かけたりと、新しく生きものを発見するたびに「ちょっと来て!」と家族を集めてよろこびをシェアするようにもなりました。
とれたての野菜のおいしさを自分の手で叶えられたよろこびには、何度でも感動できるものがあります。多少虫食いがあったり不格好だったりしても、育てたものを大切に食べたいという気持ちが料理への意欲につながったのです。
はじめのうちはシンプルに塩をかけるだけでもおいしくて、そこから少しずつ、育てた野菜をもっと活用できるようにとレパートリーを広げました。調味料も手づくりが増えてくると、いつしか料理も楽しいものへと変わっていきます。こうして畑の野菜とともに、わたし自身も成長してきたのです。
料理や虫が苦手でも、食べることが好きな人には野菜づくりをおすすめします。とれたての野菜にシンプルな味つけで完成する料理にスキルはいらないし、虫は何度も見るうちに慣れてきます。野菜を育てるよろこびと、おいしくてラクなことが同時に叶う世界があることを知ってもらえたら嬉しいです。

とれたての野菜で料理できるのが畑しごとの醍醐味です。
わたしを幸せにする0円生活

電気・ガス・水道は契約なし!自給自足ファミリーの妻・田村ゆにさん初の著書『わたしを幸せにする0円生活』より、試し読み記事をお届けします。