
人気怪談系YouTuberナナフシギが、子どもたちに届けたい、実話怪談をセレクト!
児童向け怪談集『5分怪談』から、夏にピッタリな怖い話をお届けします。
油断していると、大人でも眠れなくなるかも……?
* * *
もう帰ってるよ
その日の飯田は、朝からどこか様子がおかしかった。
授業中もそわそわしているというか、とにかく落ち着きがなくて、何度もスマホを確認している。俺の席はあいつの後ろだから、机の中でこっそりいじっているのがよく見えた。
(めずらしいこともあるもんだ)
飯田は、うちの高校で学年トップの優等生だ。テストじゃいつも満点近い点数を取っているし、先生からの信頼もあつい。まちがっても授業中にスマホを見るようなヤツじゃなかった。
黒板にもくもくと説明を書いている先生だって、あの飯田がこっそり校則違反をしているとは思わないだろう。となりの席の山本も、飯田の珍行動に気づいておどろいた顔をしていた。
俺としては、授業中にクラスの誰が何をしていようが、どうだっていい。バレたら怒られるのはそいつだし、サボってテストで痛い目を見たとしても、俺には関係ないからだ。
ただ、今日の飯田はどこかおかしい。休み時間のたびにあわてて教室を出て行くし、授業中も5分おきぐらいにスマホを確認している。なにかあったとしか思えなかった。
「おまえ、今日どうしたの?」
昼休み。あまりに様子が変だから、俺はとうとう飯田に声をかけた。
「どうって?」
「スマホ、ずっと見てるだろ。なんかあったの?」
「あぁ、うん……」
飯田は目を泳がせて言葉をにごす。俺に話すべきか、まよっているみたいだった。
「話したくないなら、無理に聞かないけどさ」
「いや、そうじゃなくて。あんまりいい話じゃないからさ……」
そう言って飯田は、スマホで大手新聞社のニュース記事を見せてきた。トップには、デカデカと『大規模脱線事故! 死者100人以上を確認』と書かれている。
「事故……?」
「この電車、離れて暮らしているおれの兄ちゃんが大学に行くときに使ってるやつでさ。今朝、脱線事故が起きたんだ。心配だから一応連絡したんだけど、返事がなくて」
「それで、ずっとスマホを見てたのか」
「うん」
休み時間のたびに教室を出ていたのも、トイレでこっそり電話をかけていたからだった。それでも、今のところお兄さんから連絡がないのだという。
「電車なんて何本も出てるから、事故車両に乗ってた可能性は低いと思うんだけど」
「そうだよな……」
想像より重たい話で、俺はだまりこんでしまう。
こういうときになんて返すのが正解なのか、俺にはわからなかった。
次の日。
俺の心配をよそに、飯田は明るい顔で学校にやってきた。
お兄さんから連絡があって、一度こっちに帰ってくることになったそうだ。
「よかったな!」
「昨日、話聞いてくれて助かった。ありがとな」
「いいって、いいって」
これで、いつもの高校生活がもどってくる。俺は安心して、授業に専念することにした。
でも、話は簡単には終わらなかった。
事故から数日たつと、飯田がまた授業中にスマホをいじるようになったからだ。
背中からはどんよりと暗いオーラがただよっていて、近よりがたい雰囲気がある。
「……大丈夫か?」
放課後になるのを待って、俺はうつむいてスマホを見ている飯田に声をかけた。
放っておいたほうがいいかもしれないと思ったけど、列車事故の話を聞いてしまった手前、無視することはできなかった。
「お兄さん、帰ってきたか?」
飯田はゆっくりと首を横にふる。
「また連絡つかなくなっちゃって」
「電話は?」
「今日はまだかけてない」
飯田の話では、お兄さんは昨日の夕方の新幹線で帰ってくる予定だったらしい。でも、約束の時間になってもお兄さんはあらわれず、遅れる連絡すらなかったんだそうだ。
変な話だ。予定が変わったなら、普通は連絡くらいするだろう。それができないってことは、急にスマホがこわれたか、なにか事件にまきこまれたか……。
「電話、かけてみろよ。どこにいるかわかんないって一番マズイだろ」
「うん……」
交通事故、誘拐、拉致、暴行……。俺の頭のなかで物騒なワードが飛び交う。最悪の場合、警察沙汰だ。ていうか、今の時点で捜索願を出したほうがいいんじゃないだろうか。
飯田はキョロキョロと辺りを見わたして、先生がいないことを確認してから電話をかける。
プルルルル、プルルルル。
スマホのスピーカーから小さくコール音が聞こえて――
「もしもし。あ、兄ちゃん……?」
向こうの声は聞こえない。でも飯田の反応からして、無事に電話はつながったみたいだ。
(まったく、自分から連絡くらいしろよな)
普通に電話に出て受け答えをする飯田のお兄さんに、俺はだんだん腹が立ってくる。
(めちゃくちゃ不安になってた飯田がバカみたいじゃんか)
「……えっ。わかった! じゃあすぐ帰る」
飯田は電話を切ると、カバンにせっせと荷物をつめはじめた。
「なんだって?」
「兄ちゃん、『もう帰ってるよ』って。ごめん、先帰るわ」
「おお、そりゃよかった」
また明日と言うと、飯田は飛ぶように教室を出ていった。
* * *
それから一週間。飯田は学校を休み続けていた。体調不良で休みっていうことになっているけど、多分お兄さんの関係だろう。
詳しいことはわからないけど、これだけ連続で休んでいるとちょっと心配だった。
(とりあえず、先生が言ってたテスト範囲だけ送っておくか)
その日の夜、自分の宿題をすませてから、俺は中間テスト用のプリントを写真に撮って飯田に送りつける。
ついでにチャットを送ると、返信じゃなく電話がかかってきた。
『ずっと休んでてごめん。テスト範囲、ありがとうと思って』
「全然。それより、体調は大丈夫か?」
『……あれ、実は体調不良じゃないんだ』
(やっぱり、なんかあったんだ)
『ちょっといろいろあってさ。立川に聞いてほしくて電話したんだけど、今いい?』
改めてそう言われると緊張する。
俺は背筋を伸ばして、うんとうなずいた。
『もう帰ってるよ』と言われたあの日も、お兄さんは家にいなかった。
心配した両親がお兄さんの住んでいるアパートの管理人に連絡をして、家の様子を見にいてもらうと――
お兄さんは首を吊って亡くなっていた。
警察が言うには、脱線事故で大学の同級生が大勢亡くなったことで強いショックを受けて、衝動的に自殺を選んだ可能性が高いのだという。
『でも、おかしなことがあるんだ』
飯田が落ち着いた声で言う。
『死亡推定時刻が、脱線事故よりも前らしいんだ』
「……えっ?」
背筋がゾクッとする。
事故が起こる前から、すでに飯田のお兄さんは亡くなっていた?
「そしたら、あの電話は……」
『わからない。でも、あれは絶対に兄ちゃんの声だった。兄ちゃんのスマホにも、通話の記録が残ってる』
「……マジで言ってるんだよな?」
『こんなうそつかないよ。おれだって、よくわからないんだ』
死んだ人が電話に出て、話してたって? そんなこと、現実にありえるのか?
考えれば考えるほど全身がゾワゾワして、気味が悪い。
どうしてそんなこと――
『あの電話は、兄ちゃんなりのやさしさだったのかもしれない』
電話ごしに聞こえる飯田の声で、俺はハッとする。
『そう思うことにしたんだ』
飯田の声はさみしそうで、どこかおだやかだった。
5分怪談

5分でゾッとする、本当にあったコワい話!
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SNS総フォロワー50万人超の大人気怪談系YouTuber【ナナフシギ】が子どもたちに送る、気軽に読める実話怪談集『5分怪談』より、一部を抜粋してお届けします。