
青森県南部町で自給自足生活を送る田村ファミリーの妻・田村ゆにさん。電気・ガス・水道は契約せず、廃材で建てた手づくりハウスに家族3人、ニワトリ12羽と暮らしています。お金の不安が尽きない都会の生活から抜け出し、田舎に移住して気づいた“本当の豊かさ”とは。初のエッセイ『わたしを幸せにする0円生活』より、一部をお届けします。
* * *
3枚のソーラーパネルでまかなう電気
わが家の電気は、たった3枚のソーラーパネルでまかなっています。これでも最初よりは増えていて、はじめは1枚のソーラーパネルを台車にのせ、太陽の向きに合わせて動かしていました。1枚でもなんとかなるけど、それだと1日中太陽を追いかけて過ごすことになるし、くもりが続く日は十分に発電できないこともあって、今の3枚に落ち着いています。
ソーラーパネルで発電した電気は2台のポータブル電源に溜まります。難しいことはなく、ふつうの2口コンセントからUSB、12Vのシガーソケットまで、家電の電源プラグをそのまま挿すだけです。
最初に購入したポータブル電源(SUAOKI/容量400Wh)は一般的にはキャンプ用で、スマホの充電や照明に使う分には1日くらいなら過ごせるけれど、ふだん3枚のソーラーパネルでまかなう電気の生活ではほとんどの家電を非電化にしないと足りません。実際にこれだけで暮らしていたとき、二層式の洗濯機がときどきエラーで止まるので、ポータブル電源とこどもと空模様を見ながらの洗濯はなかなかハードでした。
この暮らしをスタートしてからの7年間で、キャンプブームや防災意識の高まりのおかげか高額だったハイスペックのポータブル電源が一気に手の届きやすい存在になりました。これまではコストを抑えて自作するにも知識が必要で、つくれたとしても持ち運びはできないサイズ感。買うとなれば一家の電気をまかなうのに、何十万からヘタすると100万円以上の資金が必要でした。それが今やカンタンにつなげられて、コストも半分以下で電気の自給が叶うようになったのはありがたい技術の進歩です。
わたしたちもちょうど、コロナ給付金が出るころにクラウドファンディングのサイトで見つけた、当時では画期的なポータブル電源(Monster X /容量1700Wh)で暮らしのアップデートに成功しました。いつでもストレスなく洗濯できるようになり、さらに夏場のミニ冷蔵庫やミキサー、パソコンに工具のバッテリー充電まであらゆる家電を使える暮らしが実現しています。毎月の電気代0円のために、最初に必要なコストをかけてよかったと思う点です。
また少し前までは、ソーラーパネルはリサイクルできないという問題がありましたが、99パーセントのパネルリサイクルを可能にしている日本の企業もあるそうです。さらに買うしかないポータブル電源も、炭を利用した蓄電池の研究があるそうで、いつか身近な素材からつくれたらいいなと夢見ています。
ソーラーパネルは環境に悪い、設置が難しい、リサイクルの問題がある。そんな不安を抱えていた過去から、これからは電気が照らす明るい未来を感じています。
まだ夫の実家にお世話になっていたころ。たまには小屋に泊まってみようと、ロウソクやランタンに火をつけ、ごはんを食べて寝るだけの夜は、まるで動物になった気分でした。うす暗い明かりは、ふだん言いにくいことを伝えるいい機会になり、自然と眠くなるので夜ふかしの理由がありません。ただ、ロウソクとはいえ火事のリスクや、こどもが生まれたことなどもあり、今は電気の明かりを使っています。
電気=照明と考える人も多いのですが、夜の明かりに電気はそれほど必要ありません。うちの照明はLEDで、ぜんぶつけても10W程度と全体的にはうす暗いです。ごはんを食べる場所や台所にはスポットライトがあり、不便には感じません。はじめて部屋に電気がついた日は感動的でした。ロウソクの灯りでは見えなかった部屋の隅が夜でも見えるようになり、電気の力を感じる出来事でした。

電気が高いのはぜいたく品だから
そのほか、電気が必要になるアイテムというと、スマホやパソコン、バッテリーの充電です。洗濯は週に2~3回、冷蔵庫の使用は夏場だけなので、くもりや雨が続いても電気がなくて困ることはありません。むしろ今は電気が余っている状態なので、家電を増やしてもっと暮らしを便利にすることもできます。
ただこれ以上家電を増やそうとは、今のところ考えていません。とくに熱を発生させるものは、たくさんの電気を消費すると知ったので火に置き換えています。電気ストーブやIHコンロ、炊飯器、オーブントースター、湯沸かしポットなど、これらは火でまかなえるものが多く、電気の使い道としてはぜいたく品なのです。
一般の電気は火力発電が主で、石炭・石油・天然ガスなどを燃やしてつくられます。さらに、これらの燃料は90パーセント以上が外国からの輸入です。単純に熱エネルギーが100パーセント電気に換わるのであれば、ムダはありません。しかし実際には熱を電気に換えて、さらにその電気を家庭に運ぶまでに、たくさんのロスが発生しています。そんな貴重な電気を、火で代用できるものに使うのはもったいないように感じます。せっかく電気を使うなら「電気にしかできない使い道」を選んだほうが、地球の資源を燃やしてまで使う意味があると思いませんか。
自分たちでソーラーパネルやポータブル電源を使うことで電気が数字として見えると「この家電はこんなに電気を消費するんだな」「一度に使う電気は少ないけど、つけっぱなしだと夜の電気が足りなくなるよね」など、電気は限りがあるものだと実感して、より大切に扱うようになりました。
電気を完全に手放したり、便利さに罪悪感を持たなくても、そのバランスを選べる時代がやってきています。ボタンを押せば沸くお湯や、スイッチひとつでつく明かり。自動で完了する、掃除、洗濯、食器洗いに、場所を問わず人や情報とつながれるのも電気のおかげです。
しかし一方でSNSやゲームでいつの間にか時が経ち、いつでも世界とつながれることでストレスが生まれるようにもなりました。夜なのに昼間のように明るい照明は、人間の活動できる時間を増やし、その分仕事も増えたのです。電気によって生じた活動時間をどう使えば、バランスのいい暮らしになるでしょうか。便利すぎる世の中で、あえて火のある暮らしを選ぶことで癒やしと安らぎが生まれました。

わたしを幸せにする0円生活

電気・ガス・水道は契約なし!自給自足ファミリーの妻・田村ゆにさん初の著書『わたしを幸せにする0円生活』より、試し読み記事をお届けします。