
妹尾ユウカさんの人気連載『マテリアルガールは休暇中』第5弾! 今回は“選挙と若者”について言語化してくださいました。
選挙に行かない若者の本音とは……。
読むだけで政治が少し近くなる。そんなコラムを、ぜひお楽しみください。
* * *
参院選の投開票日が近づくにつれ、さまざまな政党や新聞社から「若者を代表してお話を聞かせてください」といった取材依頼をいただく機会が増えてきた。
しかし残念ながら、私は“今の若者”を代表できるような特別な存在ではない。飛び抜けて若いわけでも、大衆から圧倒的な支持を得ているわけでもない。平均的でもなければ、模範的な若者像からも程遠い。そんな私に依頼が届くという時点で、若者像の捉え違いがあるような気もするが、それはひとまず置いておこう。
一体、彼らは若者に何を聞きたいのか。
もしかすると、「若者の声に耳を傾けています」というポーズを取りたいだけで、実際には特に聞きたいことなどないのかもしれない。詮索しても真意は分からない。けれど、どの依頼にも一つだけ共通している問いがあった。
それは、「どうすれば若者が選挙に関心を持つようになるのか?」という問いである。
どの角度から見ても若者の“代表”にはなれない私だが、それでもこの問いには向き合いたいと思い、「なぜ自分が政治や選挙に関心を持てないのか」を考えてみることにした。すると、いくつかの理由が浮かび上がってきた。
ひとつは、「少しでも公の場で政治について意見や疑問を口にすると、ネットで変な人に絡まれてダルい」という、発信者ならではの理由。政治や宗教の話は、簡単に厄介ごとを引き寄せる。
もうひとつは、「支持者同士だけでなく、政治家同士も互いの過去の悪事を掘り返し合っていて、誰がまともなのかまったくわからない」という点。
そして何より、政治に関心を持てない根本的な理由には、「仕組み自体が複雑で、何がどう繋がっているのかすら見えづらい」という構造的な問題がある。
つまり、興味を持とうにも“入りやすさゼロ”な上に、“首を突っ込んだら変人にロックオンされる”という二重苦が立ちはだかっているのだ。そんな状況で「もっと若者に関心を持ってほしい」と言われても、「いやいや、まずは関心を持たせる側の努力が問われるべきでは?」と思ってしまう。
とりわけ、政治家同士や支持者同士の揚げ足の取り合いや罵り合いは、見ているだけで疲弊する。どちらの主張が正しいのかも判然としないし、調べれば必ず事実にたどり着けるわけでもないからだ。
まるで、歓楽街で揉めている中年の酔っ払いを、視界の端にうっかりとらえてしまったような気分になる。
「コイツが先に殴った」「殴ってねえよ! お前が先に~」と、主張が真っ向から食い違うハゲタコのつかみ合い。その横を「とにかく巻き込まれないように」と通り過ぎていく、通行人たちの冷ややかな視線。そんな中から時折現れる、正義感だけであいだ飛び込み、きっちり泥をかぶる、勇敢な愚か者。
まさにこうした光景を前に、「関わりたくない」と思ってしまったり、関心そのものが薄れていくのは、ごく自然なことではないだろうか。
加えて言えば、「このままでは日本がヤバい!」という実感も、正直あまりない。
というのも、私たちの世代にとっては、その“ヤバい状況”こそが、子どもの頃から当たり前の景色だったからだ。危機的だとされる状態が“初期設定”になっているせいで、何がどう普通ではないのかに気付きにくい。
どうしようもないバカだと思われるかもしれないが、いっそ爆弾でも落ちるか、消費税が80%にでもならない限り、この関心の薄さは変わらないのかもしれない。
危機的な状況が初期設定のまま育ってきた私にとって、実は今の日本はそれなりに快適で、差し迫った困りごとも特にない。
仮に何か問題があったとしても、それを国にどうにかしてもらえるとか、してもらいたいと考える発想自体が、もともとない。何ごとも、自分でどうにかしたほうが早くて確実で、その方がラクだとさえ感じている。
ここ数年で、稼げば稼ぐほど国から乱暴なカツアゲに遭うことはよく分かってきたが、それに本気で異を唱えるくらいなら、その時間も働くか、住みやすい国に移住するほうが合理的だという判断に落ち着いてしまう。
ちなみにこのコラムを書くにあたり、Instagramのストーリーで「なぜ若者は選挙に行かないのか?」という質問箱を設置し、自分以外の若者たちの声を集めてみた。
寄せられた主な意見は、
- 「どうせ政治では何も変わらない気がする」
- 「仕組みが複雑で分かりにくい」
- 「支持したい政党や政治家が見当たらない」
- 「誰に投票すればいいのか分からない」
- 「ネット投票がないから面倒」
- 「どうせ公約は守られない」
- 「自分たちには恩恵がない」
- 「世代の人口差で、自分の一票には力がないと感じる」
といったものだった。
どれも、もっともだと思う。私自身が感じていた「政治に関心を持てない理由」とはやはり多少異なるが、これらの声にも強くうなずける部分がたくさんある。
中でもダントツで多かったのは、「仕組みが分かりにくい」という声。これは、若者に本気で選挙に来てほしいと考える政党やメディアがあるなら、最優先で取り組むべき課題だと思う。
なぜなら、政治や選挙の制度や仕組み、そして各政党の考え方や違いが、もっとシンプルかつ明確に伝われば、「誰を支持すればいいのか分からない」「自分の一票に意味があるとは思えない」「投票に行くメリットを感じられない」といった問題も、自然と解消に向かう可能性が高いから。
先ほどまで、散々呑気な話や文句を垂れてきたが、こうしてコラムを書いてしまった以上、若者が政治に興味を持つためのきっかけづくりには、私自身もできる限り関わっていきたいし、もっと自分なりに関心を育てていきたいと思い始めている。
ちなみに、私はまだ今回の選挙でどこに投票するかを決めていない。残り数日のあいだに、各政党の公約を改めて読み返し、候補者たちの演説もYouTubeで確認したうえで、「各政党のいまの声」にだけ耳を傾けて判断しようと思っている。
というのも、SNS上には、政党や候補者の過去の失言や失態、フェイクニュース、陰謀論のような情報があふれており、何が事実か分からなくなるからだ。情報を追いすぎれば、かえって判断力が鈍り、きっと疲弊してしまう。
そこで、オトナのみなさんにはお願いしたい。
「この政党は過去に~」とか「この候補者は実は~」といった終わりの見えない話を持ち出すのは、できればやめてほしい。そうした話に巻き込まれると、せっかく持ちかけた関心がしぼんでしまうから。
そして、私たち若者も、そういった話に振り回されるのではなく、自分がどんな未来を望むのかをしっかりと考えたうえで、恋人を選ぶような感覚で投票先を選べたらいいなと思う。
完璧な恋人がいないのと同じように、完璧な投票先も存在しない。だから、恋人を選ぶときに「顔はいいけど、ちょっとだらしないな」とか「優しいけど収入が……」と迷うように、投票でも「この案はいいけど、あの案はちょっと微妙だな」といった悩みがきっと出てくる。
それでも向き合い、なんとか譲れないポイントを絞って選ぶしかない。恋も政治も、答え合わせは後からしかできないのだから、たとえ間違っていたとしても、今自分で選ぶことには必ず意味がある。
自分で選ばなければ、誰かが選んだ相手と無理やり付き合わされることになる。恋ならすぐに別れられるが、政治はそう簡単にはいかない。だからこそ、自分の意志で選ぶことが、何よりも大切だと思う。
7月20日(日)まで、私たちには選ぶ権利があります。投票所入場券(または本人確認書類)を持って、今の自分が信じる「理想」と「最善」に、一票を託してみませんか。
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鋭さとあたたかさが同居する妹尾ユウカさんの言葉の数々を、ぜひお楽しみください。
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マテリアルガールは休暇中

コラムニストとして20代女性を中心に圧倒的な支持を集める妹尾ユウカさん。『マテリアルガールは休暇中』は、お金や物質的な豊かさを追い求め、“理想の自分”や“社会的な成功”を手に入れることに価値を置いてきた“マテリアルガール”が、立ち止まり、そのレールの先にあるものを見つめ直す連載です。
「本当に欲しいものって、なんだったっけ?」
そんな問いに、時に笑いながら、時に真顔で向き合っていく毎日は、意外と悪くない。
鋭くも不思議と腑に落ちる妹尾ユウカの言葉の数々に、あなたもきっと頷かされるはずです。