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先生、俺またバグってます。

2025.09.03 公開 ポスト

躁状態の時には奇跡が起こるGASHIMA (WHITE JAM)

初回から大きな反響を呼んだ、GASHIMAさんの新連載『先生、俺またバグってます。』。

第3回のテーマは、「躁状態」の時のこと。

夢が叶う。奇跡が連発する。
まるで無敵モードに入ったかのような高揚感――しかしそのあとに訪れるのは、決まって深い谷だった。
自身の体験を通して、GASHIMAさんが双極性障害の「光」と「影」のリアルを綴ります。

*   *   *

躁状態の時には奇跡が起こる。

自分で書いたとは思えない曲が書ける。
ずっと憧れていた人と出会って、繋がる。
夢だった仕事のオファーが来る。
思い描いたことが現実になる。

 

スターをゲットしたマリオのような
無敵モードに突入してしまうのだ。

実際、この連載が決まったのも軽い躁状態の時。
ずっと書き物をするのが夢だった。

気の向くままに文章を綴って
知人数人に送ってみた。
すると、幻冬舎さんとお付き合いのある友達が
原稿を見せて、あれよあれよと言う間に
連載が決定してしまったのだ。

それだけでなく、このコラムは初回から
人気ランキングに入るほどの大反響。

Z李さん、草下シンヤさん、松浦秀俊さんを
はじめとする著者の方々からも
身に余るお褒めの言葉を頂いた。

そして、極めつけは先日のライブ
「Lucky Fes ’25」だ。
俺は盟友バンド、ASH DA HEROの
フィーチャリングとして同行していた。

そのフェスには子供の頃からの憧れ
HYDEさんがいたが
出演は僕たちとは離れたステージ。
時間も自分たちの準備と被っていたから、
泣く泣くライブを見ることを諦めた。

そして、迎えた本番直前。
HYDEさんが急遽、ASH DA HEROのライブに
サプライズ乱入することを知らされる。

「もしかしたら、会えるかもね!」

そんなことをベースのSatoくんに
言われて、胸が高鳴った。

無事に自分の出番が終わる。
スタッフさんから、俺のマイクを
HYDEさんに渡すように
指示されたのに、HYDEさんはいない。

俺もスタッフさんもパニックだった。
そんなことはお構いなしに曲が
もう始まっている。

「どうなるんだ、これ……」

スタッフさんと困惑していると
遠くから悲鳴にも似た歓声があがる。

まさかの客席側からの登場だった。
取り乱すオーディエンスの波をかき分けて、
肩車されたHYDEさんが
ステージへと乗り込んでいく。

「ヤバい。本物のHYDEだ……」

その姿を、ステージ袖から
ただ唖然として見ていた。

そして、締めくくりとなるラスト一曲。
急にHYDEさんが俺の元に走ってくる。

目が合ったと思ったら、手を捕まれた。

「え……? どういうこと?」

俺はそのまま腕を引かれて
ステージに連れて行かれた。
もちろん俺はこの瞬間まで
HYDEさんと面識なんてない。

気がついた時には俺は
憧れの人とステージ上で
肩を組んで歌っていた。

その姿はSNSで拡散され、
ウェブニュースにまでなった。

こんなことを「ただの偶然」で
片付けられるんだろうか?

何故、こんな出来事が起きるのかは分からない。
スピリチュアルな人に言わせれば、躁状態は
引き寄せの力が強くなってると言うだろう。

行動科学者に言わせれば、
躁状態で積極的な行動をするから
その結果が付いてきているだけと言うだろう。

でも、科学的理論では到底、説明出来ない。
偶発的に起こっているとしか
思えないことが実際に起きている。

あるいはただの偶然を奇跡と
捉えてしまっているだけなのか?

いくら考えても答えは出てこない。

ただ気が大きくなっている躁状態に
こういう奇跡が立て続けに起こるから

「自分は選ばれし人間だ!」とか
「俺はやっぱり神の子だ!」と

さらに無敵モードに入ってしまう。

別に人を傷つけるワケでもないから
何も問題ないように思える軽躁状態。
問題はここからだ。

躁状態で上がった分、必ず落ちる。
高く上がれば上がるほど、
落ちた時の谷は深い。

躁状態で引き受けた仕事量は
どうやっても捌けないような状態になる。
そこで急に働けなくなって、
周りの信頼を失ったりする。

それならまだマシな方。
最悪、自らの命を断つことになる。

双極性障害は未治療の場合、
約20%の人が自殺すると言われている。
ちゃんと向き合わないと
5人に1人が死ぬ病なのだ。

だからこそ、無敵モードの時に
活動をセーブすることを
覚えなくてはいけない。

俺もアーティストだから調子が良い時は
書けるだけ曲を書きたいと思ってしまう。
その一つ一つのアイデアがよく思えるからこそ
なおさら、手を止められない。

だけど、ここで無敵モードを使いすぎずに
ちゃんとコントロールする。
少し上がったぐらいだったら、
落ちた時も少しで済むのだ。

とかなんとか、偉そうな文章を
書いている今は朝の4時半。
昨夜は全然、眠れなかった。

タイトルをメモするつもりで
スマホを開いた結果、
閃きが止まらなくなって
長々とこの文章を書いている。

危ないよ、ガシマくん。
今日の午後は仕事禁止。
ゆっくりサウナにでも入って
今夜は早めに寝なさい。

君は神の子かも知れない。
でも、必ず鬱はやってくる。

スターの効果はすぐに切れるんだ。
その時にはまたクリボーに倒されるぐらいの
チビマリオになっちゃうんだからね。

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先生、俺またバグってます。

3人組シンガーソングライター・グループ WHITE JAMのラッパーとして活躍するGASHIMA。

そんな彼はある日、「双極性障害」であると診断される。

思い返してみれば、昔から自分はちょっとバグってた。

日本とアメリカで経験した過去、生い立ちと音楽、メンタルヘルスの狭間で感じた「生きづらさ」をパーソナルかつリアルに綴るセルフドキュメンタリー連載。

目まぐるしく変わる環境に対するやり場のない怒り。

振り返ってみれば「若気の至り」だと思っていた破壊的衝動。

あれも、これも、もしかしたら躁状態だったのかも?

 

“ただの勢い”の裏にはちゃんと病理があった。

そう思えると、あの時の俺も少しだけ愛せるようになった。

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GASHIMA (WHITE JAM)

兵庫県生まれ。一橋大学卒。

中学時代をロサンゼルス、高校時代をニューヨークで過ごしたバイリンガル・ラッパー。

2014年、3人組シンガーソングライター・グループ、WHITE JAM のメンバーとしてメジャーデビュー。

日本語と英語を巧みに使いこなすリリックに定評のある作詞家として、

グループだけでなく他アーティストへの作詞提供も多数。

 

海外での孤立体験、日本の音楽業界での挫折、双極性障害の診断など、

複雑なバックグラウンドを持ち、近年はそうした内面を率直に発信。

精神疾患に対する偏見や「生きづらさ」への理解を広げる活動にも力を入れている。

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