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不調の9割は「スマホ首」が原因

2025.07.14 公開 ポスト

肩こり・頭痛・不眠……心身が暴走する原因は「首の神経圧迫」にあった松井孝嘉

不眠・頭痛・意欲低下──その不調、原因は首にあるかもしれません。自律神経失調治療の世界的権威、松井孝嘉先生の『不調の9割は「スマホ首」が原因』は、これらの不調の原因と治療法、日常生活で気をつけるべきことなどを解説した、スマホ時代の必読書。そんな本書の一部を再編集してご紹介します。

*   *   *

「うつむき拷問」を受け続けた首がSOSの悲鳴を上げる

それにしても、首の筋肉にこりや張りなどの異常が起こると、なぜこんなにも多種多様な不調やトラブルが次々に現われるのでしょうか。まずはその点からひもといていくことにしましょう。

みなさんは成人の頭がどれくらいの重量かをご存じでしょうか。

これは、約6㎏だとされています。

6㎏というと、500のペットボトルなら12本分で、大玉のスイカやボウリングの球とだいたい同じくらいの重さです。想像しただけでも、かなりずっしりと来る重さだということが分かりますよね。すなわち、私たちの細い首は、常にこの重量6㎏の頭を支え続けていることになります。

しかも、この6㎏もある頭は、いつも首の上にまっすぐ乗ってくれているとは限りません。前後左右いろいろな方向に傾いて、それを支える首の筋肉にはより大きな負担が加算されることになります。

とりわけ、首の筋肉にとっていちばんつらいのは「うつむき姿勢」をとっているときです。首の身になってみれば、うつむき姿勢を長く続けるのは「6㎏のダンベルをいつまで空中にぶら下げていられるか」を競う長時間耐久レースをやらされているようなものでしょう。とくに、うつむき時にいちばん負担がかかる首の後ろ側の筋肉にとっては、まさに“拷問”に等しい所業なのではないでしょうか。

もし、そんな“拷問”が毎日のように続けられたらどうなるでしょう。首の後ろ側の筋肉がおかしくなるのも当たり前だとは思いませんか?

そこで、みなさんが1日にどれくらいの時間うつむいているかを考えてみてください。スマホに夢中になっているとき、1時間も2時間もうつむきっぱなしになってはいませんか? 仕事でパソコンを使っているとき、勤務時間中ずっとうつむいてしまってはいませんか?

じつは、人の首の筋肉は、もともと非常に我慢強く、かなりの重労働を強いられてもそう簡単には音を上げないようにできています。しかし、そんな我慢強い首でも、連日のように長時間の「うつむき拷問」を受け続けたらさすがに辛抱の限界なのでしょう。日々の“拷問”で疲弊して弱った首は、いよいよSOSの悲鳴を上げ始めます。つまり、そのSOSこそが身体各所に現われる不調やトラブルなどの症状なのです。

要するに、日常生活のなかでうつむき姿勢をとる時間がおそろしく長くなったことで、首の筋肉がSOSを発信せざるを得ないレベルにまで弱ってしまっているわけです。そしてこれは、直立二足歩行で6㎏の頭を支えながら活動しなくてはならない人間としては、その活動自体が危ぶまれる異常事態。かなりの危機的状態に瀕して、SOSが発信されているということなのです。

首の神経が圧迫されると、正しい情報が全身に伝わらなくなる

では、首の筋肉が弱ってくると、どうして身体各所に不調症状が現われるのでしょう。

それは、首がたくさんの神経の通り道になっているからです。

神経は脳中枢の情報を全身に伝える橋渡し役であり、当然、首には無数の神経が縦横に走っています。なかでも、首の上半分は「脳の一部」と言ってもいいくらい、重要な神経が集中している場所です。

首は「神経のスクランブル交差点」だと考えてもらえればいいでしょう。首には「頸部諸筋」と呼ばれるいくつもの筋肉が何層にも重なり合っているのですが、首の神経はそれら何層もの筋肉と絡み合うように走っています。神経のなかには筋肉の合間を縫うように走っているものもあれば筋肉を突き抜けるように走っているものもあり、その状態は、東京・渋谷のスクランブル交差点のように、たくさんの人々がすれ違いながらいろんな方向へ行き交う様子を思い起こさせます。

しかし、この神経の密集地帯で、筋肉が緊張してひどくこるようになったらどうなるでしょう。神経と筋肉は互いに入り組んでいますので、筋肉がカチカチにこったら神経も圧迫されてしまうことになりますよね。そして、神経が圧迫されれば、伝わるべき情報がちゃんと伝えられなかったり、間違った情報が伝えられてしまったりといったトラブルも発生するかもしれません。

つまり、首の筋肉のこりによって首の神経が圧迫され、正しい情報が全身へ伝わらなくなることが、体のあちらこちらで不調やトラブルが頻発する原因だと考えられるのです。

ちなみに、頸筋病の患者さんを治療していると、治っていく過程で、どの患者さんにも共通しておもしろい現象が起こります。それは、首の筋肉の硬さや緊張がとれてやわらかくなってくるのと、不調症状の数が減ってくるのが見事なまでに並行しているということです。これは、首の筋肉のこりがとれて神経の圧迫がゆるんだために不調症状が改善したものと考えられます。

こうした点からも、首の筋肉異常が神経を介してさまざまな症状を引き起こしていると見て間違いないのです。

自律神経が失調して心身がコントロール不能の状態に

首を通っている神経のなかでも、とりわけ重要なのが「自律神経」です。

ご存じの方も多いかもしれませんが、自律神経は、内臓の動きや呼吸、体温、血圧、血流、代謝などの生命活動の基礎部分をコントロールしています。

自律神経には「交感神経」と「副交感神経」の2種類があります。交感神経は心身を興奮させる「アクセル」の働きをする神経です。仕事などで緊張したときや身の危険を感じたときに、より力を生み出せるよう、心拍数や血圧を上げ、呼吸を速くし、血管を収縮させるのです。また、胃腸の動きは鈍くなり、精神は目の前の状況を乗り切るために奮い立ってがんばろうというモードへシフトします。

一方の副交感神経は心身を落ち着かせる「ブレーキ」の働きをする神経。くつろいでいるときや寝ているときに、心拍数や血圧を下げ、呼吸をゆっくりにし、血管を拡張させるのです。また、このとき胃腸の動きは活発になり、精神はゆっくり休息するためのリラックスモードへとシフトします。「幸の神経」と言っていいほど幸せと関係があると私は考えています。

交感神経と副交感神経は、相反して働いていて、私たちの心身のバランスをコントロールしています。言わば、アクセル(交感神経)とブレーキ(副交感神経)をバランスよく踏んでいてこそ、「自分」という車体をうまく乗りこなしていくことができるというわけです。

でも、考えてみてください。このアクセルとブレーキのバランスが崩れたらどうなるでしょう。アクセルがききすぎてスピードが出すぎたり、ブレーキがきかずに止まらなくなったりしたら、自分という車をコントロールできなくなって、大小の事故やトラブルにつながってしまいますよね。

つまり、自律神経の失調状態というのは、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて、心身のコントロールがきかなくなってしまった状態なのです。そして、頸筋病の患者さんはどの人も例外なく自律神経のバランスが失調状態に陥ってしまっています。すなわち、首において自律神経が圧迫され続けたために、自律神経機能が故障してしまい、アクセルがやたらにききすぎたり、ブレーキがろくにきかなかったりというコントロールできない状態に陥ってしまっている。それで、そのコントロール不能によるさまざまな問題やトラブルが体のあちこちで発生し、体温がうまく調整できなくなったり、胃腸の調子がおかしくなったり、急に動悸や息切れがしたり、血圧が不安定になったりといった不調症状が頻発することになるわけです。私がいままで診てきたたくさんの症例から言えることは、首の筋肉異常で多くの問題が起きるのは、副交感神経が働かなくなることが原因だということです。

体のブレーキが壊れるとどうなってしまうのか?

副交感神経というブレーキのききが悪いために、結果的にアクセル役の交感神経が優位になってしまっている……。言わば、ろくにブレーキがきかず、止まって休むことができずに、仕方なくアクセルを踏み続けているような状態に陥っているわけですね。

交感神経は目の前の状況を打開するためにがんばるときのモードです。しかし、その奮い立ってがんばる力は、あくまで“ここぞ”というときのためのもの。いつ何時もこのアクセルを踏み続けていたら、たちまち心も体もヘトヘトに疲れてしまいます。しかも、副交感神経のブレーキがろくにきかないため、休みたいのに休むことすらできないのです。それで、休みなくひたすら走らされているうちに、心も体も疲れ果ててクタクタに弱っていってしまうというわけです。

これは人間の心身にとってたいへん危険な状態です。近年、車の暴走事故が増えているように感じますが、ブレーキが故障してきかなくなると、体内のさまざまな機能が暴走をし始めて心も体もコントロールができなくなってくるのです。

そして、信じがたいことに、現代日本ではそういう怖ろしい危険を背負った人が数えきれないほどいて、いまなおどんどん増え続けているわけです。このままではたいへん怖ろしいことが将来起こるのではないかと私は大いに心配しています。

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この続きは幻冬舎新書『不調の9割は「スマホ首」が原因』でお楽しみください。

関連書籍

松井孝嘉『不調の9割は「スマホ首」が原因』

不眠・頭痛・意欲低下──その不調、原因は首かもしれない。 スマホ使用時のうつむき姿勢が首に大きな負荷をかけ、「スマホ首」に。さらに筋肉がこり固まり神経を圧迫して自律神経が乱れ、全身に不調をもたらすのが〝頸筋病(首こり病)〟だ。 著者は、いまや国民病とも言えるこの病の独自の治療法を開発し、多くの人を救ってきた。 本書では治療法と予防法に加え、「首は冷やすな」「ローテーブルでノートPCは首への最悪の拷問」等、日常に潜む落とし穴も解説。 首こりの自覚症状のない人も手に取るべき一冊。

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不調の9割は「スマホ首」が原因

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松井孝嘉

1967年、東京大学医学部卒業。脳神経外科医。アルバート・アインシュタイン医科大学で脳腫瘍研究ののち、ジョージタウン大学で世界初の全身用CTの開発に従事。帰国後、大阪医科大学助教授、帝京大学客員教授等を経て、現在松井病院理事長・東京脳神経センター理事長。78年に頚性神経筋症候群を発見。30年以上首の研究を続け、自律神経失調症の治療法を世界で初めて完成させた。完治不可能と言われていた16疾患の治療法も確立させている。

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