

下町ホスト#36
久々に帰ってきた古びたオレンジ色の実家は、だあれも居らず、まだ温かそうな飲みかけのお茶がテーブルに置いてある
リビングにあるテレビの上にポツンと見知らぬ観葉植物が置かれていて、エアコンをつけると風で靡いた
この日は珍しく晴れていて、出勤までかなりの時間があったので、近くの緑臭い公園を散歩する
私は青白い顔で、ありったけの酸素を吸いながら、公園と公園を繋ぐ小さな橋を二つほど渡った
その先に、なんちゃら池という地元民が勝手に名付けたような池がある
私は幼少期の頃、同じ地域に住んでいるであろうたまたま良く会うメンバーと、この池でザリガニや様々な生き物達を捕まえていた
とあるちょうど今日のような梅雨のたまたま晴れた糞暑い日に、恰幅の良い少年が私達に提案をする
「暑いからこれから毎日池に入ろう」
私達は恰幅の良い少年の提案を聞き入れた
それから三日間、多少の雨は気にせず、ザリガニや様々な生死と共に池に浸かって沢山遊んだ
翌日から大雨が続き、暫くあの池に行くことが出来ず、退屈な日々を過ごしていた
強烈な尿意で真夜中に目が覚める
目を擦りながら、廊下を進み、トイレの扉を開けて、パンツとズボンを同時に下げて、便座に座る
尿が出ない
強烈な尿意は次第に強烈な激痛へ変わり、陰部に電撃が走る
私は悲鳴を上げた、尿が一滴垂れた
経験したことのない痛みに私は悲鳴を上げたのだ
母親が心配して駆け付けてきたが、特有の恥ずかしさから、何でもないと渇いた唇で告げた
そのまま、激痛と共に自分の布団に戻ってうずくまった
痛みで意識が何度か飛んで、朝が来た
酷い痛みは、限界を超えて、ようやく涙に変わり、母親に弱々しくこっそりと打ち明けた
母親と共に改めて私の陰部を確認すると、異形な形に膨れ上がっていて、母の顔が鮮やかに青ざめた
家に常備してある痛み止めを飲み、数年後に売却されるファミリーカーで、病院に駆け込む
慌てている母親の形相のお陰で、そのまま待つことなく、診察室へ案内された
私の異形なものを見たロン毛の医師はすぐに手術室へ連れてゆき、冷たい手術台へ寝かせる
下半身を露出した状態の私のそばに看護師が三人近寄る
安価な恥ずかしさは、次の瞬間消え去った
ロン毛の医師が異形なものを力一杯、ひん剥く
私は泣き叫びながら、体を捻る
必死で看護師が三人かがりで私を押さえ込む
「いやー、すごいな、君」
地獄のようにどろどろと悍ましい姿をしている私の陰部に手を添えたままロン毛の医師が呟く
「もう少し我慢ね」
返答する気力はなく、その辺りで記憶がプツリと切れた
無事に処置が終わり、診察室のベットで私は横になっている
母親とロン毛の医師の会話が聞こえてくる
「あと一歩遅かったら、大きな手術になっていたかもですね」
「すみません、ありがとうございました」
ロン毛の医師は、髪の毛を結び直して、奥の方へ消えていった
それ以降、恰幅の良い友人達とは、一度も会っていないが、無事を願う
そんな思い出の池は、とてつもなく綺麗になっていて、ぎらんとした太陽の光を反射させる
吸い込まれそうな青空に溜息を吐いてから、私は今日もスーツを羽織る
「過負荷」
応答無入力信号低強度 嗅覚、味覚、切断しました
反応がなかったわけじゃないからさ、君の呼気では過負荷になるね
体液を胃袋に入れ百円の珈琲を飲み鮮やかに吐く
数シーズン過ごした君の顳顬にやっと届いた二発の無慈悲
美しく蛆が溢れる口角をそっと忘れて傘を開いた

歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
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