
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第45回 瀧羽麻子『妻はりんごを食べない』

妻と二人の生活を 気に入っている。
ところがある日、妻が京都の
実家に行ったきり、戻ってこない。
彼女に縁のある場所を探る暁生だったが、
どこへ行っても、彼女は気配だけを残し、姿は無い。
この地で彼女は何をし、どんな顔を見せていたのか?
遠く離れた土地と土地を結ぶ“線”には、
どんな秘密があるのか?
愛の在り方を問う物語。
皆さん、こんにちは。日常と刺身にはツマが必要なアルパカ内田です。
なんとも不穏な空気と違和感に満ちあふれた物語だ。突然消えた妻を追いかけるストーリー。心地よい日常を突然断ち切られた、青天の霹靂のような失踪。東京の自宅から京都の実家の手伝いに帰った妻は、いったいどこへ行ってしまったのか。
信頼関係が失われたショックは大きい。絶妙と思っていた距離感は危険な隙間でもあったのだ。身近にいてもまったく知らなかったその素顔。必死の思いで捜し求めた先には、衝撃の真実が待っていたのである。
人は誰もが十字架を背負って生きているが、これほど鮮やかに心の闇を暴いてみせる作品も稀ではないだろうか。愛する妻を追いかけながらも、実は夫である自分自身も言い出せなかった秘密を抱えていることに思い当たる。夫婦の間に横たわっていた見えない溝。そのあまりの深さに胸のざわめきが止まらない。
タイトルにも大きなメッセージが込められている。禁断の果実の象徴でもあるりんご。その名産地である青森は行方不明の妻にとって特別な場所でもあった。そして妻がりんごを食べない理由。そこに謎を解く鍵だけでなく、揺らぎ続ける人間の深層心理が垣間見られるのだ。
ともあれ伴侶がいなくなるという圧倒的な「不在」をテーマにしながら、次々と現れる疑惑をミステリー仕立てに膨らませ、極めて上質な文学作品にまで昇華させた著者の力量には驚かされる。まぎれもなく新たな代表作となるだろう。

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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