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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2025.06.12 公開 ポスト

ドラマ化で原作者が下痢する以外にできることはあるのかーまだまだ続くよ実写化日記カレー沢薫

ついに私の漫画原作のドラマ放送開始まで約10日となった。

私は体力も元気もないが、病気はあまりしない方である、だが今月に入ってから謎の下痢が止まらず2回も病院に行ってしまったし、何だったら現在進行形で下り続けている。

 

これがドラマ放送前のプレッシャーが原因だとしたら「体質的にサクセスを受け付けない」ということになってくる。

急に二兆円を手渡しされたら大体の人間が圧死するように、サクセスも受ける側の器にそれなりの強度がなければ粉砕されるだけということである。

しかし、ドラマはドラマであり、私がプレッシャー、まして責任を感じる必要はないのかもしれない。

実際制作にはほとんど関わっていないので、これをきっかけに原作を買ってくれる人が少しでも増えればラッキーぐらいの気持ちでいれば良いのだろう。

例えドラマの評判が悪くても、ペナルティとして原作が3000部づつ回収されるなどということはないし、下がった視聴率×100原作者が殴られるわけでもないので、少なくともマイナスになることはない。

しかし、全員がドッジボールをしている中、教室で一人読書をしている我が子を見て無心でいられる親もなかなかいないのだ、ドラマに対する世間の反応を気にしないのは無理である。

放送前でこれなのだから、放送開始後は失語を患っている可能性がある、逆に言いたいことがあるなら今の内に言っておいた方がいいのかもしれない。

この連載の原稿は掲載日の前日制作が当たり前なのだが、多くの人間が関わるドラマはそういうわけにはいかない、ドラマ化決定自体はもう1年半ぐらい前になる。

ちょうど漫画原作のドラマに関し、とんでもない事件が起こっていた頃である、そんな時にドラマ化が決まり、正直不安も大きく、家族も心配していた。

しかし、初のメディア化に対し「だから断る」と言えるほどストイックでもないのだ。

私にとってはメディア化というのは一つの目標である、その実績が解除されるだけでもういい、動いていればOK、もはやボラギノール状でもあり、ぐらいの気持ちである。

そんなに不安であれば、その不安が解消されるよう、原作者としてドラマ制作に積極的に関わっていくべきなのかもしれないが、正直それも難しいのだ。

まず、漫画の時点でこれがどうやったら面白くなるのか未だにわかっていないのだ、まして畑違いのドラマがこうすれば面白くなるなどわかるわけがない。

実写化の批判ポイントとしてまず挙げられるのは「大幅な原作改変」なのだが、50巻続いているようなサッカー漫画を忠実に1クールドラマ化しようと思ったら、メンバーが11人集まる前に終わるので、改変は不可欠だ。

まだ未完の作品をドラマ化するなら、ドラマ版なりの決着を用意する必要があるが、原作者自身が「この話は一体どこに向かっているんだ」と思っている話をきり良く終わらせるのは至難の業である。

「猫は神」というテーマの作品が人間同士の痴話になっているなど、主題のブレレベルになると口を出さざるを得ないが、そこ以外はどう口を出していいのかすらわからない、というのが正直なところだ。

それにおそらくだが、原作者が細かくチェックを入れられるのは脚本までである。

ストーリーや台詞の時点では違和感はなくても、役者の演技や背景音楽などによって雰囲気はまるで違ってくるのだ。

脚本の段階ではダークミステリでも、演者の声量が全員松岡修造で、BGMが盆回しだとジャンル自体が変わってしまう。

しかし、演技や舞台美術、音楽など脚本以上に畑違いであり、素人が口を出して良くなるとは思えないのでそこはもうプロに任せるか、実写デビルマンを見せて「演技はこういうイメージで」という他ない。

仮に出来上がった映像を見て違和感を感じたとしてもそこから撮り直すことはできないし「じゃあどこを直せばよくなったのか」と聞かれても、何せドラマ作りに関しては素人なので、原作者自身もどこをどうすればよくなるかわからないし、何だったらどうすれば原作がよくなるかもわかっていない。

実写に関し「原作者は本当にこれで良かったのか」と思うことも多いかと思うが、私個人の感想でいえば「想像以上になす術がない」ということが分かった。

もちろん口を出せば向こうも聞いてくれるだろうが、それで良くなるとも思えないのだ。

だが、原作者にできることがありすぎると、ああしておけばよかったという後悔が生まれ、原作者の心労がさらに重なってしまいそうなので、むしろあまりない方がいいのかもしれない。

不安ばかり吐露してしまったが、制作の人たちにはベストを尽くしてもらったと断言できるし、放送自体は楽しみであり、多くの人に見てもらいたいとも思っている。

私もできるだけリアルタイム視聴したいので、それまでにこの下痢をなんとかしたいと思う。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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