
評価やレビューが溢れる時代、私たちは「ハズレ」を避けようとするあまり、本当の「当たり」に出会えなくなっています。
生活者の"選ぶ瞬間"を分析し続けてきた元・電通プランナー、小島雄一郎さんの著書『「選べない」はなぜ起こる?』(サンマーク出版)が出版されました。「選択疲れ」の時代にモノ・サービス・人間関係まで含めた「選ばれる構造」をマーケティング・心理・社会の視点から解き明かし、「なぜ選べないのか」から「どうすれば選ばれるのか」への視点転換を促してくれる一冊。本書から、一部をご紹介します。
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当たりではなく「当たり前」を選んでいる
星5つ、いいね1000件超え、満足度98%。
判断材料に溢れた今、私たちの周りには、そんな「最適解」の選択肢が溢れている。
「その中から選べば、間違いはないはず」
私たちはどこかでそう思っている。しかし、そんな「最適解」には、ある落とし穴が潜んでいる。世間の高評価に基づいて選択すると、私たちは「当たり」という感覚からどんどん遠ざかっていくのだ。
評価を見るほど「当たり」から遠ざかる
現代では、あらゆるモノやお店、人が評価対象になり、それらが点数化され、ランク付けされている。その中でいつしか「高評価=当たり」、「低評価=ハズレ」という固定観念が生まれた。
しかし本来の「当たり」の意味は違う。くじ引きなどにおける「当たり」とは、偶然に自分が喜ぶものを引き当てることだ。
偶然出会った自分だけの喜びこそが「当たり」の本質であって、みんなから評価済みだと知った上で選んでも、「当たり」ではない。
それは「当たり前」を選んでいるだけだ。
「世間の当たり」と「自分の当たり」は一致しない
また、「世間で高評価のもの=自分にとっての当たり」とも言い切れない。図を見てもらいたい。この図で言うと、②の存在を忘れてはならない。
選択肢が多くて選べない時代は、縦軸のような世間的な点数評価が盲信されるため、私たちはつい上部にある①②を「当たり」、下部にある③④を「ハズレ」として認識しがちだ。しかし本質的な意味で言えば、当たりとは③のことを指しており、ハズレとは②のことを指している。
例えば飲食店で言えば、世間の評価が高い①②のお店は混んでいるし、人気店ゆえに値段も高い。それなのに自分に合わない②だったら、その選択は期待と現実の落差が最も大きいことになる。つまりこれがハズレだ。
日本ではただでさえ若者の可処分所得が少ない。限りある財産を費やして、ハズレを引いてしまったら目も当てられない。
だったら③④の中から③を見つけるほうがいいだろう。
世間の評価が高くない③④のお店は競争率が低く、価格も高騰していない。それなのに、自分にピッタリ合う③のお店が見つかったなら、それは予想を超える喜びをもたらす選択と言えるだろう。
これこそが本来の「当たり」だ。
もちろん④を引いてしまう可能性はあるが、事前の期待値が低いため、精神的ダメージは少ない。そこに意外性はないのだ。
たしかに、①の「当たり前」は、無難な選択肢かもしれない。
しかし、③の「自分にとっての当たり」には、ほかの何とも代え難い喜びがある。それは評価という物差しでは測れない、自分だけの「当たり」を見つける楽しさだ。人気店とは違う魅力、話題の商品とは異なる良さ。そんな思いがけない出会いは、自分の好みや価値観を広げてくれるだろう。
また、この「当たり」の感覚が近い人とは、きっと仲良くなれる。世間的な評価が高い「当たり前」のお店で好みが一致するのは、それこそ当たり前だが、「当たり」の感覚が近い人は、そう見つからない。
だからこそ「当たり」は運命的な出会いをも引き寄せるのだ。
「選べない」はなぜ起こる?

2025年6月11日発売、小島雄一郎著『「選べない」はなぜ起こる? 』試し読み