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神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること

2025.06.29 公開 ポスト

7月 怨霊をおもてなしする

夏祭りに「あの世」の匂いがするのは、夏祭りの主題が「怨霊鎮め」だから!桃虚(神職/ライター)

京都の祇園祭は7月1日から始まりますが、日本各地で夏祭りが行われます。

春も秋もお祭りはありますが、夏だけ雰囲気が違うこと、気づいてますか?夏に怪談が好まれるのも、意味があるのかも…。

神職さんが教えてくれる『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』より、ちょっとホラーなお話。

*   *   *

祭りの「お囃子」は神様と遊ぶ音楽なのです

にっぽんの夏といえば、夏祭りや盆踊り、花火大会などのイメージがあるのではないでしょうか。

夏祭りには、独特の解放感がありますよね。いつもは着ない浴衣を着ての外出や、夜更かしが許される、といった解放感もあるかと思いますが、そもそもお祭りの主題が、春祭りや秋祭りとは違う、ということも関係していると思います。

(イラスト:宮下 和)

おおざっぱに言って、春祭りは田植え、秋祭りは収穫の季節ですから、地元の氏神様、「農」や「食」の神々に対する感謝をあらわしたり、豊作を祈願したりすることが主題になっていることが多いのです。

しかし、夏祭りの主題は「怨霊鎮め」だったりするのです。怨霊といっても、「お化け」ではありません。怨霊もまた神様なのです。

昔、夏は疫病が流行る季節でした。温度も湿度も高い夏に、衛生面を保つのが難しかったこともあるでしょう。人々は、なんとかして病(やまい)を避けて夏を乗り越えたいという思いでした。

しかも、雷や台風で大規模な災害が起きる時期とも重なっています。はっきり言って、夏は命を落とす人が多い時期だったのです。

そんな疫病や厄災は、「怨霊によって引き起こされる」と信じられていました

そこで日本人が考えたのは、「怨霊を接待して楽しませ、ご機嫌よくしてもらい、お鎮めする」こと。それが夏祭りの主題になっているのです。命を長らえたい、子孫を繁栄させたいという根源的な意味では、「農」や「食」も、同じところに行きつくはずですが、「病」や「厄災」はインパクトが強いので、そのためのお祭りも、すこし違った雰囲気になっているのだと思います。

お盆の時期(東京など一部は7月、他は8月)と近いということもありますが、夏祭りにはうっすらと「あの世」の匂いがします。あの世が近く感じられるからこそ、花火のような一瞬の輝きにも生のよろこびが尊く感じられ、短い人生、その醍醐味を味わおうという解放感が、夏祭りには漂っているように思うのです。

異世界の空気が漂う「祇園祭」

京都で7月のあいだ約ひと月にわたって行われる祇園祭(ぎおんまつり)は、平安時代前期の869年、京で疫病が流行したとき、神泉苑に66本の鉾(ほこ)を立て、八坂神社の神輿(みこし)を迎えて厄災除け祈願を行ったのがはじまりと言われています。

(イラスト:宮下 和)

やがて祇園祭は全国的に広まり、福岡県の博多祇園山笠、福島県の会津田島祇園祭、神奈川県の鎌倉大町祇園祭(八雲神社例大祭)、長野県の深見祇園祭をはじめ、北海道から九州まで、全国各地で祇園祭が行われています。京都は山鉾(やまほこ)の巡行、博多は山笠の追い山、南会津は七行器(ななほかい)という花嫁行列、長野は提灯(ちょうちん)の御神輿(おみこし)行列。

博多は土地柄か、勇壮なお祭りになっているようですが、全国の祇園祭に共通する特徴は、夏ならではの幻想的な演出がなされているというところです。異世界との橋渡し感が漂っている、とでも言いましょうか。

京都の祇園祭の期間中、町を歩けば聞こえてくるのが、コンチキチンの祇園囃子(ぎおんばやし)。その旋律を奏でる笛の音は「能管」の音です。能管は文字通り、お能で使われる楽器で、見た目はほぼ、私も神社で雅楽を演奏するときに吹く「龍笛」(りゅうてき)と変わりませんが、目に見えない部分に違いがあります。

能管には、口に近いところの管の中にまた小さな管が入っていて、この部分は「のど」と呼ばれています。この「のど」によって、中音域の音程幅がせまくなります。龍笛では同じ穴をおさえて、吹き込む息の勢いを強めればオクターヴ上の音が出て、龍が天をかけるようなヌケ感のある音のため「龍笛」と呼ばれるのですが、能管ではこのオクターヴがすこし低めの音になります。それが、独特の「あの世」感を出すと言われます。

能管はまた、「のど」があることによって、「ヒシギ」と呼ばれる高音が出るのですが、この音には他の笛にない独特の迫力が感じられます。これは人間の可聴域(20 キロヘルツ)を超えた周波数(22 キロヘルツ以上)を含むことも一因と言われているのです。だとすると、「人は聴力以外のものも使って、音を聞いている」ということになりますよね。

「ヒシギ」という言葉には「清めの光」という意味もあります。鋭い高音が、神の世界と人間の世界をつなぐとされ、その音は「神降ろしの音」と呼ばれているのです。

(イラスト:宮下 和)

能管ほど強烈ではないにせよ、三味線、箏(こと)、尺八、龍笛、笛篠(しのぶえ)、鼓など日本の楽器を思い浮かべてみると、「音程以外の何か」を「聴力以外の何か」で聴かせる要素が、多分に含まれている気がします。

五線譜ではあらわせないので、唱歌(しょうが)によって曲が口伝(くでん)されるのも、そのためだと思います。日本人はきっと、そんなところに神様的なものを感じるのではないでしょうか。

(つづく)

関連書籍

桃虚『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』

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桃虚 神職/ライター

1970年インド(ムンバイ)生まれ、東京育ち。 ライター業を経て、大阪府枚方市の片埜神社にて神職歴20年。 「神社新報」で連載など。筆名の「虚(とうきょ)」の、「桃」は無邪気の象徴、「虚」は素直な心を表す

最新刊に『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』。

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