
暑い…暑すぎる…。
そんなときは、暑くて有名な京都の人の知恵を、拝借してみましょう。
日本の文化に日々触れている神職さんが教えてくれる『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』より、貴重なお話。
* * *
神様は風に乗ってやってくる! 涼を取り、運も呼び込む「夏座敷」の作り方
大阪に来たばかりのころ、京都のお師匠さんのところへ、小唄を習いに行っておりました。お稽古場は、長屋の急な階段を上がった2階です。畳の座敷で、小さな机をはさんで向かい合わせに座るお師匠さんと弟子のための座布団がおいてあり、床の間に季節のお花が一輪だけ活けられているというミニマルスタイルが、しびれるほど粋(いき)でした。

細い花器にすっくと立つ一輪の花は、神様の依り代(よりしろ)を思わせます(神霊が寄りつくものを「依り代」といいます)。
私にとって、神様はいつも風のように自由に飛び回っていて、いい感じの「依り代」を見つけると、鳥が枝でひと休みするように、トンボが指にとまるように、降りてきて休憩するという印象です。
たとえば、一輪の朝顔を「いい感じ」と思って降りてきてくれる神様がいたら、きっとその一輪の朝顔を活けた人と、気が合う神様だと思うのです。
明治時代の初めに、日本の「外国人未踏の地」と言われる地域を旅し、『日本奥地紀行(Unbeaten Tracks in Japan)』を書いたイギリス人冒険家のイザベラ・バード。彼女は日光の金谷カテッジインに宿泊したさいに目にした一輪挿しについて絶賛しています。
「私は美しき孤独についてわかりはじめている。(中略)一本の牡丹、一本のあやめ、一本のつつじが、彼らのfull beauty(まるごとの美しさ)そのままに、飾られているのだ。それにくらべて、私たち(=イギリス)の花屋の花束は、たくさんの種の花が茎も葉も花びらさえもつぶされて、レース紙につつまれている。あんなに奇怪で野蛮なものがあるだろうか」
と。
まあそこまで言わんでも……という表現が彼女の持ち味で、当時の日本の衛生観念などについては辛辣(しんらつ)な感想をつづっており、彼女が手放しで日本を褒めまくる外国人ではないことは確かで、だからこそ、この一輪挿しへの称賛が光って見えました。
盆地ゆえ、京都の夏はおそろしいほど蒸し暑く、長屋はとくに暑いですが、ある時、小唄のお稽古にうかがいますと、ふすまが「みすど」に替わっていました。みすど、と言ってもドーナツ屋さんのことではありません。漢字で書くと「御簾戸」です。簾(すだれ)を建具にはめ込んで障子やふすまの代わりにした「簾戸(すど)」に、御をつけたものが「みすど」。
ちなみに神社では神様用に作られた簾を(すだれ)「御簾(みす)」と呼び、神職がそれを下から巻き上げたり、巻き下ろしたりします。もちろんその作法も決まっています。
ただ、ふつうのお家で使うものなのに、「簾戸」に御をつけて「御簾戸」と呼ぶ場合には、なにかしら尊いもののお出まし的なニュアンスが出るような気がします。関西ではバスでもタクシーでも、待っていたものがようやく登場したさいに「来はった、来はった」と敬語を使うことがあるのですが、その感じに似ているように思います。
御簾戸は、葦(よし)をはめこんでいるので「葦戸(よしど)」「葦障子(よししょうじ)」、あるいは「夏障子(なつしょうじ)」などとも呼ばれます。

呼び名はさまざまですが、その姿と語感がもたらすさっぱり感は、夏の不快を快に変えるのに充分で、懸命に稽古して、しとどに流れる汗までもが、清涼な夏の風物詩に感じられるのでした。
たった一輪、季節の花があるだけで、部屋の模様替えをしたとき以上の変化がある。
そのうえ、一年に2回、夏と冬に、ふすまと座布団が入れ替わるだけで、まるで家遷(やうつ)りしたかのような、新鮮な気持ちになる。
私はお師匠さんの家で、イギリス人冒険家と同じように、衝撃を受けたのでした。
(つづく)
神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること

古(いにしえ)より、「生活の知恵」は、「運気アップの方法」そのものでした。季節の花を愛でる、旬を美味しくいただく、しきたりを大事にする……など、五感をしっかり開いて、毎月を楽しく&雅(みやび)に迎えれば、いつの間にか好運体質に!
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神主さん直伝。「一日でも幸せな日々を続ける」ための、12カ月のはなし。
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