
神社の行事は、平安時代時代から続いているものが数多くあります。
現代においても、神社の行事やしきたりから、平安貴族の暮らしが、見え隠れします。
さて、今回は、ちょっと不思議な平安時代の遊びから、「運のいい人」を見分ける方法を神職の桃虚さんから教えていただきました。
『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』より、貴重なお話。
* * *
平安貴族は、季節を愛(め)でながら「運の良さ」を競っていた?
神社にいると、雨上がりには、まず鳥たちの声が聞こえてきます。その声で、「あ、雨やんだな」とわかるのです。
ほどなく、参道にもおまいりの人がちらちらと見えはじめ、野良ネコも境内を横切っていきます。ひっそりと雨やどりしていた動物たちが動きだす気配を感じて、「人も動物なのだな」と当たり前のことに気がつく瞬間です。
この瞬間が「草むしり」の絶好のタイミング。
雨のあとは地面がやわらかくなっているので、雑草が根の先まで簡単に抜ける、と私に教えてくれたのは、長年、神社の境内の落ち葉そうじをお手伝いしてくださっている氏子(うじこ)さんでした。
彼女は神社の境内や外まわりをそうじしてから銭湯に行く、というパーフェクト・デイズをもう15年ほど続けてきた方で、かっちかちの地面にがっちり生えている雑草を、T字の鎌で必死に取ろうとしている私に「今やっても無駄やで。雨降ったあとにやらんと」とアドバイスしてくださったのです。
ベテランの彼女が言うのであれば真実だろうと、その日は草むしりをやめ、雨のよく降ったあとに草むしりをしたところ、「今までの苦労は何だったんだ!」と思うほど、楽に、じょうずに、根の先まで抜けました。
私はこのとき、草むしりでもっとも重要なのは、使う道具でも、力のマネージメントでも、やる気でもない。タイミングである。ということを学びました。

平安時代に話はさかのぼりますが、貴族の間で「根合わせ」という遊びがありました。抜いてきた植物の根の長さを競うという、現代の一般人からすれば謎の遊びです。
そもそも、平安時代の宮中では、持ち寄ったものの優劣を競う「合わせもの」という遊びがよく行われていました。持ち寄るといっても、現代のように、ものにあふれた世界ではありませんから、身のまわりにある自然のものや、歌など、目に見えぬものがほとんど。
植物の葉っぱの大きさや根っこの長さ、貝がらの形や色合いの美しさ、めずらしさ。こういったものを持ち寄ってくらべたり、それを題材にして歌を詠み、優劣を競ったりする遊び。
平安貴族は、季節を愛でるということを、勝負事の遊びにしていたのですね。
植物の根の中でも、菖蒲(しょうぶ)の根は長いのにやわらかくて、無理やり抜こうとすると途中で切れてしまう、つまり、抜き方次第で長さに差が出るので勝負がつきやすい植物でした。
「菖蒲の根合わせ」は大人気の遊びになり、これが「根合わせの儀」として5月の行事に定着しました。そして、ものごとにふたつの選択肢がある場合の決定の方法としても、使われました。

平安時代の5月は旧暦なので、新暦だと6月ごろですから、季節的にはちょうど6月ごろ、貴族たちは菖蒲の根っこを持ち寄って「根合わせ」をしていたのです。
いやいやいや。絵、香、扇、貝、菊などが「合わせもの」のお題になったのはわかる。
わかるけども、「植物の根」は、なんか唐突すぎじゃないのか!? と思いますよね。
けれど、私は6月の雨あがりに草むしりをしていて気がついたのです。
「根合わせ」は、その人物の「タイミングのよさ」を競うものではないか? と。
タイミングがいい人というのが具体的にどういう人か、考えてみます。
日ごろからそのことをしている。状況分析ができる。だから小さな変化に気づく。よって、「今だ!」という頃合いが感覚でわかる。……という人ですよね。植物の根をじょうずに抜くなんて、これらができていないとぜんぜんダメ。
タイミングがいい人は、神様とのタイミングを合わせるのもじょうずです。
それがつまり「運のいい人」。
だから、根合わせは、「運のいい人を選ぶ、合理的な手段」だったのではないかしら? そんなふうに思ったのです。
ああ、いまが平安時代なら、私は「根合わせ」で無双して、めっちゃ出世できたかもしれません……。
(つづく)
神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること

古(いにしえ)より、「生活の知恵」は、「運気アップの方法」そのものでした。季節の花を愛でる、旬を美味しくいただく、しきたりを大事にする……など、五感をしっかり開いて、毎月を楽しく&雅(みやび)に迎えれば、いつの間にか好運体質に!
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神主さん直伝。「一日でも幸せな日々を続ける」ための、12カ月のはなし。
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