
人前に立つだけで、心臓が破裂しそうになる——。
それは「性格」ではなく「不安症」という病かもしれません。
日本における認知療法の第一人者・大野裕医師が、社会不安障害を中心に、不安に苦しむすべての人へ具体的な対処法をやさしく解説する幻冬舎新書『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』。本書より一部を抜粋してお届けします。
「現実」の見え方は一人一人違う
私たちは現実を見るとき、必ずしもすべて客観的に見ているわけではなく、自分なりの「フィルター」を通してものごとを見ています。このような、自分なりのフィルターを通した現実の受け取り方のことを、「認知」と呼びます。
人にはそれぞれ個性があり、感じやすさも異なるので、そうしたフィルターは一人一人違います。ですから客観的には同じ現実でも、その受け取り方は一人一人みんな違ってきます。
とくに不安になったり落ちこんだりしているときには、何かと極端な受け取り方をしがちで、そうすると、ますます不安やゆううつな気持ちが強くなって、いつものように適切な行動がとれなくなってきます。
認知行動療法というのは、現実の受け取り方が極端にかたまってしまったときに、そのような認知を修正して、もう一度広く柔軟に現実を見られるようにし、不安やうつなどの精神症状を改善しようとする治療法のことをいいます。
社会不安障害に対する認知行動療法では、まず、不適切な考え方や思いこみ・信念など、その患者さんなりの認知パターンを検証します。そして、それを変えていく手助けをしていくのですが、そのためには、患者さんが恐れたり回避したりしている「不安な状況」に、実際に入ってもらうという行動が必要になります。
こうした行動をエクスポージャ(暴露)といいますが、恐怖を感じる状況に直面することによって、患者さんは、自分が考えたり恐れたりしていることが、現実に沿ったものであるかどうかを確認することができます。そして、そうした行動を実行しても、恐れていたようなことは起きないと体験的にわかれば、不安が弱くなっていきます。
治療としての認知行動療法は、医師など専門家の指導のもとで行われますが、認知行動療法の考え方や方法は、単に治療に役立つだけでなく、私たちが日常生活のなかで感じるパフォーマンス恐怖などさまざまな不安を自分でコントロールするためにも役に立ちます。そこでここからは、社会不安障害に対する認知行動療法について、少し詳しく解説していくことにします。
そのためにまず、強い不安を感じるときの心の動きについて、見ていきましょう。
不安が強い人の「3つの思いこみ」
対人関係についての不安が強い人たちの心のなかには、苦手な状況に入ったときにとらわれやすい、次のような3つの思いこみがよく見られます。こうした思いこみが強くなってくると、その状況が、自分にとって非常に危険なものだと考えてしまうようになります。
- 1 パフォーマンスに対する思いこみ……「人の興味を引くようなことをいつもいわないといけない」「知的で魅力的に見えるように行動しなくてはならない」「何でも完璧にこなさなくてはいけない」というように、自分のパフォーマンスに対する期待値を非常に高く設定する。
- 2 自分の行動の帰結に対する思いこみ……「相手に同意しないとイヤな人間だと思われる」「スムーズに言葉が出てこないとダメな人間だと見られてしまう」「黙っていると、つまらない人間だと思われるだろう」「私のことがわかってくれば、その人は私のことをきっと嫌いになる」などと、自分の行動がよくない結果を引き起こすと思いこむ。
- 3 自分自身に対する思いこみ……何の根拠もないのに、「私はダメな人間だ」「つまらない人間だ」「誰にも受け入れられないんだ」と、自分自身の人間性を否定する。

こういった思いこみを持っている人は、「自分がきちんと行動できているかどうか」ということだけが気になって、周囲に目が向かなくなっていきます。周りのことをまったく見ないわけではないのですが、エネルギーの大部分が「自分」に向かってしまうのです。
周りの人のことを気にしているのに、実際には自分のことだけを考えるようになるわけですから、ある種矛盾した状態ともいえます。
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この続きは幻冬舎新書『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』でお楽しみください。
不安症を治す

人前に立つだけで、心臓が破裂しそうになる——。
それは「性格」ではなく「不安症」という病かもしれません。
日本における認知療法の第一人者・大野裕医師が、社会不安障害を中心に、不安に苦しむすべての人へ具体的な対処法をやさしく解説する幻冬舎新書『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』。本書より一部を抜粋してお届けします。