
人前に立つだけで、心臓が破裂しそうになる——。
それは「性格」ではなく「不安症」という病かもしれません。
日本における認知療法の第一人者・大野裕医師が、社会不安障害を中心に、不安に苦しむすべての人へ具体的な対処法をやさしく解説する幻冬舎新書『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』。本書より、一部を抜粋してお届けします。
「不安」はさまざまな症状で体に表れる
社会不安障害の人は、人がいる場面に出たり、そこで何か行動したりするときに、強い不安や緊張を感じます。
そのなかで、特定の場面だけか、2つか3つの状況で強い不安を感じる人もいますし(非全般性社会不安障害)、ほとんどすべての状況で著しい不安を感じる人もいます(全般性社会不安障害)。
いずれの場合にも、強い不安や緊張を感じるとともに、実際にそのような場面に直面したときや、その直前などに、さまざまな身体症状を覚えたり、それが表面に出てきたりします。それは主に次のような症状です。
- 顔面、目……顔が赤くなる、青くなる 顔が硬直する 頭が真っ白になる 汗をかく めまい
- 口、喉……声がふるえる 声が出ない 食事が喉を通らない 口が渇く 息苦しい
- 上半身……手足がふるえる 動悸
- 腹部……吐き気 胃腸の不快感
- 下半身……尿が近い、出ない
そういった症状に悩まされたときに、かなりの人たちが、内科など一般の医療機関を受診して、それぞれの症状に応じた対症療法を受けています。動悸やめまいを抑える薬を処方してもらったり、胃薬を受け取ったりして、とりあえずその場をしのいでいるわけです。
その結果として、「人前に出るのが不安」「パフォーマンスが恐い」という状態が、精神症状の一種だと理解されず、社会不安障害という精神的なトラブルが表に出ることなく、適切な治療を受けられないままでいる人が、かなり多くいる可能性があります。
ある日プレゼンで頭が真っ白に
ここで、社会不安障害に悩む人の、実際の姿を一つ見ておきましょう。プレゼン恐怖に悩むサラリーマンAさんです。Aさんは大手の証券会社に20年以上勤め、半年前に次長に昇進しました。
それまでは、人前でのスピーチはどちらかというと得意なほうだったのですが、クライエントの前で、あるプロジェクトについてプレゼンテーションをしているときに、頭の中が真っ白になって話が続けられなくなり、ひどく緊張して、冷汗と動悸で倒れそうな感じになってしまいました。

それ以後、会議でつねに強いプレッシャーを感じるようになりました。
会議で突然指名されたときなどは、あがっているヒマもないせいか、かえってほぼふだんどおりに話せるのですが、前もって発言が予定されているような場合には、たいへん苦痛に感じ、念入りに原稿を用意していないと、不安で会議に出席できません。また、数カ月前に部下の結婚披露宴に出かけたときには、受付で署名をする際に手がふるえ、恥ずかしい思いをしました。
先日Aさんは、2週間後の重役会議で、部長の代わりに今期の報告と来期の目標を発表するよう命じられました。それからというもの、Aさんはそのことが頭から離れずに、深夜まで寝つけない日々が続いています。
このように、社会不安障害の人は、人前で何かをすることに強い不安を感じ、その場を避けたり、なんとかやり遂げるためにたいへんな努力やガマンを要して、自分の力を十分に発揮できなかったりすることがあります。
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この続きは幻冬舎新書『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』でお楽しみください。
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人前に立つだけで、心臓が破裂しそうになる——。
それは「性格」ではなく「不安症」という病かもしれません。
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