
考えを否定されることは自分自身を否定されることではない
“私は間違っていない”……。
その思考が頭から離れずにすれ違ってしまった人間関係。
今までの人生の中でそんな相手がどれだけいるだろうか。
白熱した議論の中では自分の考えが正しいと信じて疑わずにいたが、冷静になった頃に振り返ってみると自分の考えが浅はかだったと反省することも少なくない。
その時はつい熱くなってしまい、相手の意見に寄り添おうとも受け止めようともせずに「間違っている」と思ってしまう。
自分の中に確立した正義(=意見)を崩すのは相当難しかった。
しかし私も33歳。もういい大人だ。
大学を卒業後、新卒で入社した企業に勤めていたら11年目の頼れる先輩だ。
うん、やっぱりいい大人だ。
そんな失敗を沢山経験し、今では人と違った意見や価値観も尊重しようと努められるようになった。(あくまで努めているだけというのが、まだまだ未熟な私の人間性を表している。)
やはり感情のコントロールは難しい。
相手を尊重しようと話を進めていても、自身の意見や考えを否定されたその瞬間、自分そのものが否定されたかのような感覚に陥る。
そして自己防衛なのか、自身の意見と自分自身を過剰に守ろうとするスイッチが起動してしまい自分が正しいとの考えを曲げずに戦いを続けてしまう。
自分自身を否定する言葉をかけられる場合もあるだろうが、基本的には相手が否定しているのはあくまで意見や考えなのであって、「自分そのものではない」ということを忘れずに冷静でいたい。
……という自分への戒めも込めて綴らせていただいた。
「皆そんなものだろう」という前提のもと話を進めたが果たして……。
私の年齢に反する未熟さを露呈しただけかもしれないが、少なくとも彼女らは私と同じかもしれないと、「恋は闇」第7話を観て思った。
正論は正論であって、正解ではない
万琴(岸井ゆきの)と向葵(森田望智)の男子禁制本音トークは、もはやこのドラマの見どころの一つとなっている。
前回の第6話放送後にバズった、向葵の「いいなと思っている人が自分の苦手なタイプの女の子のこと好きだって聞くと一気に冷めない?」という言葉を切り抜いたポストからも、世間の共感を呼ぶ向葵姉さんの言葉に日本全国から熱い視線が集まっていることがわかる。
さらには真犯人候補としてもかなり疑われている向葵。今回も病院内で怪しい表情をしていたところを誰も見逃さなかったことだろう。
もうこのドラマは今、向葵を中心に回っていると言っても過言ではない。
今回の第7話ではそんな向葵から、どんな共感する言葉が発せられるのか注目が集まったが、万琴に対して正論を振りかざした向葵の振る舞いに、私は「待った」を言いたい。
浩暉を信じたり疑ったりを何度も繰り返した万琴の行き着いた先は、
「世界中の全員を敵に回しても私が守るから……。」
と言わんばかりの浩暉に対する信頼。
嗚呼、盲目。目を覚ますんだ、万琴。と以前までは言っていたと思うが、「恋は闇」も早いものでもう第7話。私たちも万琴と同じくらい浩暉を見てきた。
向葵は見ることが出来ない、浩暉と万琴のあんなとこやこんなとこまで見ている。
それを踏まえて思うのは、彼のことを悪人だとは到底思えないということ。
数々の疑惑が浮上し、黒に近いグレーである浩暉。数々の疑惑のシーンや浩暉がついているウソからも、“ホルスの目殺人事件”や10年前の母親(紺野まひる)の事件に関して重要なファクターである事は明白だ。
しかし、そこで何か罪を犯していたとしても、「100%の悪意」は存在しないと言い切れる。
なぜなら浩暉を見てきたから。
人間誰しも、相手の全てを見ることはできない。相手のすべてを理解することもきっとできない。
これを踏まえると、我々視聴者は、たかが数時間の浩暉を見てきたに過ぎないかもしれないが、そこから浩暉という人間を判断することになる。
その結果が万琴の想いと同じ、であるということ。
勿論、浩暉が殺人を犯しているとしたらまた考えは変わる(人を殺していい理由は一つもないから)し、万琴と私は人を見る目がなかったことになる。
だが現時点で、万琴が浩暉を信頼する理由は十分にあるということを言いたい。
その信頼した結果が合っているとか間違っているとかいう話ではなく。
これを前提にして、あの万琴と向葵の口論をみるとどうだろうか。
……。
それでも、お茶の間の誰しもが「万琴盲目すぎる」と思うことだろう。
確かに万琴は向葵の話にもっと耳を傾けてみてもよかった。なぜならそれは万琴のことを思って話している人の言葉だから。
そんな親友の気持ちを無碍にすることと、浩暉を信じることはまた別のベクトルなのではないかと思う。
向葵が万琴に向き合ったのに対して、万琴は向葵とは向き合わず浩暉としか向き合っていなかった。
浩暉を信じつつも向葵の気持ちに寄り添うことは出来るはずなのに、前述の通り自身の考えを否定されてしまっては、より万琴の考えは強固なものとなってしまったのだろう。
しかし、それは向葵に対しても同じことが言えるのではないか。
今の浩暉は擁護のしようがないほどの黒い情報が揃っている。
例え殺人犯ではないにしても、親友だったら誰しも「あの男やめときな」と言うだろう。私も言う。絶対に言う。
だが万琴が言ったように、「浩暉のこと知らない誰かの言葉より、自分のみた浩暉の言葉を信じる」という言葉は、気持ちは、どうなってしまうのか。そこに向葵は寄り添うことができたのではないか。
勿論、向葵が自身の気持ちを曲げろということではなく“万琴が浩暉を信じる気持ち”への理解。
そして万琴も万琴で“向葵が万琴を思って話している気持ち”を受け取ること。
互いが100対0で自分の意見を曲げなかったところが、この二人のトークの泥沼化を招いてしまったと私は思う。
そこに怒りが生まれてしまっては冷静な話し合いは出来ない。
そして正論を振りかざすことだけが全てではないのでは……。と私は思った。万琴だって頭の中ではわかっている。数々の疑惑が無くなったわけではないだろう。だけども浩暉を信じているのだ。その気持ちに寄り添って、正論という刃の切れ味を少し悪くしてもよかったのではないか。正論なんてそれくらいの切れ味で良いと思う。
万琴のような人になりたい
こうやって客観的な立場なら、なんだって言える。
実際に万琴と向葵の立場だったらそれは難しいし、向葵の言っていることは世間一般的に見れば正しいのだろう。
私もこの記事の題材を考える際は、向葵をお神輿に乗せてとにかく向葵の発言を賞賛する“向葵ワッショイ記事”にするつもりだった。しかしふと、“万琴の浩暉を信じる気持ち”に寄り添いたくなったのだ。
それは私が万琴のような人を求めているからなのかもしれない。彼女の浩暉を思う気持ち。
なんて尊く、羨ましい。そして万琴のように10人中9人が思っていることを正解と決めつけず、自分の目で見て確かめて、自分の気持ちで判断できる人でありたい。
(……向葵は真犯人候補筆頭。あまりに持ち上げ過ぎてしまうと後々恥をかきそうなので、今のうちに向葵にも苦言を呈しておいた……。というのは内緒にしておこう。)
著者:ケメ・ロジェ
ドラマイラスト:サク
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3人組ドラマ考察系YouTuber 6969b(ろくろっくび)による考察記事の連載がスタート!
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物語を深堀りして、噛むようにじっくり味わっていきます。
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