
先日私の漫画原作ドラマの見学に行ったのだが、実は後日キービジュアルの撮影と雑誌用の写真撮影も少し見せてもらっていた。
いつまでその話をするのかと思われてそうだが、残念なことに私はもうこの話を一生するしかないし、周りは一生聞かされるしかないのだ。
カメラマンの人がモデルである俳優を撮影するのだが、もちろんこのような撮影を見学するのは初めてである。
モデル撮影と言えば、カメラマンが被写体に対し「かわいい!」「最高!」「シャー! シャー!」と、可愛すぎて最終的に威嚇音を出してしまっている図を想像するが、結構思った通りのことが展開されていた。
被写体が最高にかわいくて威嚇しないとこちらの命が危うい、というのは私も同意だが、多分この人は今まで5億回ぐらい「かわいい」と言われてきているはずだ。
これはオタク特有の巨大数現象ではなく、それすら低く見積もりすぎな気がする。
よって「推定15億回かわいいと言われ続けた人にまだかわいいって言うんだ?」と逆に驚いてしまったのだが、確かに私だって「今さら猫にかわいいとか言っても仕方がない」と思ったことはない。
かわいいものに対しては何度かわいいと言ってもいいし、ポジティブな言葉に言いすぎ、ということはない。
それに写真撮影の時の声かけは、被写体が尊すぎて仕事中に脳と口が直結しまったからではなく、被写体の魅力をさらに引き出すためのテクニックの一つなのだろう。
「リアクションがない」というのは、想像以上に人を不安にさせるものであり、不安になると自信のなさが顔にも表れ良い表情が撮れなくなってしまう。
かわいいと言い続けた写真と、撮影中終始無言で首を傾げ続け、最終的に頭を一周させて撮った写真とでは出来栄えが違うはずである。
SNSでの誹謗中傷が問題化したことなどにより「言葉の威力」について今一度問い直す時がきている。
言葉で人は傷つくし下手をすれば死ぬ、その暴力性を理解して使うべきだ、ということなのだが「えっ言葉だけで人が殺せるんですか!? ヤッター!」とその殺傷力を自覚した上で使っている人間には基本的になす術がない、というのがこの問題の根深いところだ。
しかし、汚い言葉というのは言われた方だけではなく、言った方の心も徐々に蝕むような気がする。
確かにウンコを投げつけられた人間もダメージを受けるが、ウンコを手づかみして投げつけた方がノーダメかと言うとそんなことない気がするし、特に汚い言葉というのは口からウンコを発射しているようなものだ、どう考えても言っている側の方が健康を害している。
逆に言えば、ポジティブな言葉は言われた方も良い顔になるし、言った方も良くなっていく気がする・
サボテンを褒めながら育てろ、というのはサボが花を咲かすためではなく、キレイな言葉を発する習慣をつけることで己の心を浄化できるからなのかもしれない。
悪意は言葉に出すことで威力が増すので、例え悪感情が生まれても、それを外に出すべきではないという話なのだが、悪感情を貯めておくのも辛く、残念なことに言葉など具現化して外に出すのが、もっともてっとり早い解消法だったりもする。
つまり最初から悪感情を抱かないにこしたことはないのだ。
しかしネガティブな人間というのは、何を見ても「こいつ俺のことが嫌いだな」と初手悪感情をかましがちなのである。
何も知らない相手にマイナスなイメージを持つなと思うだろうし自分でもそう思う。しかし、これはほぼ反射なので自分でも止めようがないのだ。
そんな人間にこそ、反射すら超えてくる「推し」という存在が必要なのかもしれない。
FGOの土方さんを見た時、いつもなら1秒間に10個は出てくるネガティブな言葉どころか、全ての語彙が消え失せ「好き」というスーパーポジティブな言葉しか出なくなる。
見ているだけで語彙がポジティブで統一され、それらの言葉を連呼している内に、こちらの口角も上がり、ほうれい線も消え、だが化粧は全部落ちている「いい顔」になれる、というのも推し活も多いだろう。
だからこそ、推しの新しい髪型に「なんか違う」と反射的に思ってしまった時の辛さもひとしおだが、見なかったことにする、もしくはそんなことを考えやがった脳を破壊するなど、対処していくしかない。
つまり、被写体もかわいかったが、それにカワイイと連呼するカメラマンのおじさんもどんどん可愛くなっていたにちがいない。
こちらからは後姿しか見えず、そのかわいさを確認できなかったのが唯一の心残りである。
カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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