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ジジイの細道

2025.05.20 公開 ポスト

ティラミスは半分こでちょうどいい 「まあ、いいか」と言える日々を積み重ねて大竹まこと

5月7日。今日で(月~金)の生放送のラジオは19年目に入る。回数にして4616回。よくまあ続いたものである。2~3年のつもりでひき受けたはずだが、いつの間にかここが私の居場所になった。いつも聞いてくださるリスナーのおかげである。
私の仕事は、これ以外に、各週になったテレビタックル(これも、40年以上)と、不定期だが、NHKの『チコちゃんに叱られる!』がある。後はたまに単発のテレビとラジオ。それがすべてである。

 

多いか少ないか、私の決める事ではない。
今いる場所は偶然のようで、そうでもない。遠い昔、私は大学にはいかなかったが、受験勉強はしていた。その折、深夜かじりついて聞いていたのが、ラジオ野沢那智さんと白石冬美さんの『パック・イン・ミュージック』である。

遠い憧れはこの時にあり、遠いいつかを夢みたこともあった。
いつのまにか忘れていたが、今、私はその場所にいる。不思議で仕方がない。
授業中、私の前の席に座っていたNが腎臓を患って、あっという間に死んでしまう。
背中をつついたり、教科書を借りたりした。黒ぶちメガネの似合うNが17才という若さでこの世を去った。

一度だけラジオにリクエストの葉書を出したが、読まれなかった。常連のラジオネーム「赤白ピンク」がいつも読まれていたのは今でも覚えている。
野沢さんは劇団「薔薇座」にいて、演劇もやっていた。
18才の頃、私は、やる事もなく、銀座の「むね」と云う喫茶店でバイトをしながら、パチンコや麻雀で遊びほうけていた。

私の歯車がコワれた。
ある日、店長の女性に「大竹君は、何がやりたいの」と聞かれ、返答につまり、「まあ役者かなあ」と話したらとても心配してくれて、だったら基礎をしっかり身につけなさいと、早野寿郎さんの主催する、劇団俳優小劇場を勧められた。
その養生所で同期になったのが、今のコントのメンバー(斉木しげるときたろう)であり、その他にも風間杜夫や市毛良枝、池波志乃などがいた。

私たちを教えてくれた早野寿郎は人工透析を受けており、当時片方の足を失っていたが熱心に、私たちを指導してくれた。
劇団の先輩には、小沢昭一や小山田宗徳がいた。
そこを飛び出して風間たちと作ったのが、アングラ劇団「表現劇場」である。
文章が、だらだらとしている。それは私もわかっている。仕方がない。ラジオも毎日やるとそんな日がある。許せ!!
文章も同じだ。だらだらと書く。
野沢那智さんや早野さんも小沢一郎、小山田宗徳も、今はもう鬼籍に入られた。みんな、私の中に生きている。
小沢一郎さんには、一度彼の番組のゲストに呼ばれ、ガンバレと励まされた。小山田さんが舞台に立ったとき、もうお年で台詞がうまく覚えられず、私は舞台の影でプロンプターを任された。山崎正和原作の『舟は帆船よ』だと記憶しているが、違うかも知れない。

先日、ゴールデンラジオのゲストに堀川恵子さんがいらした。堀川恵子さんの『透析を止めた日』(講談社、2024年)を読んだ。
日本では約35万人が透析を受けている。週3日、1日4時間の透析をうける。
透析とは、腎臓の機能が著しく低下したり廃絶したりした患者の体から、過剰な水分や毒素などの老廃物を取り除いて、血液を浄化する治療だ。

日本の緩和ケアの対象は保険診療上、「ガン患者」に限定されている。
WHO(世界保健機関)は、病の種類を問わず、終末期のあらゆる患者に緩和ケアを受ける権利を説いているが、日本ではまだそうなっていないとあった。
そうか。当時早野さんはそんな大病を患いながら、私たちを指導されていたのか。
1日4時間の透析、週3回腕には動脈と静脈をつなぐ所に管を何度も刺すため、シャントと呼ばれる大きなコブが出来る。
堀川恵子さんは、透析を受けていると知りつつ、年上の旦那さんであったNHKプロデューサーの林新さん(享年60歳)と結婚をされた。透析患者は常に死の恐怖と隣り合わせだと、本には書かれている。

文章は冷静で、クールに現実を書きとめている。
実は私は、糖尿で糖尿が悪化すれば人工透析に頼らざるを得ないと、この本で知り、ビビった。
普段は、人は、みな死ぬんだからじたばたしても仕方ないだろうなどと言い放っていたが、本当は小心者である。
私は、何ヶ月も放っていた主治医の元に走った。

「大竹さん、見てください、3年振りに元の数値に近づいてますヨ」
「え、本当だ」

私のHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の数値は6.9を示し、もう少しで正常値に戻りそうだった。
この所の運動と摂生がちゃんと数値に表われる。

喜しくなって、さっそく吉祥寺にあるピザのチェーン店につれあいと行った。ピザとスパゲッティを食べた。炭水化物は糖分に変わる。
まあ、いい。
近くのテーブルに若いカップルが楽しそうだ。
少し前までピザをつまんでいた彼女の前に、この店の名物なのだろう——デザートの盛り合わせが運ばれてきた。
若い男が奮発したのか、彼女がおねだりをしたのかはわからない。ティラミスやパンナコッタ、アイスクリームに、彼女の顔が一段と輝く。名物とはいえ、少し糖分のとりすぎだと思うが、まあいいか。
デザートのプレートは若者たちのためにある。私はつれあいとティラミスを半分コした。

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ジジイの細道

「大竹まこと ゴールデンラジオ!」が長寿番組になるなど、今なおテレビ、ラジオで活躍を続ける大竹まことさん。75歳となった今、何を感じながら、どう日々を生きているのか——等身大の“老い”をつづった、完全書き下ろしの連載エッセイをお楽しみあれ。

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大竹まこと

1949年生まれ、東京都出身。79年に斉木しげる、きたろうとともに結成した、コントユニット「シティボーイズ」メンバー。『お笑いスター誕生‼』でグランプリに輝き、人気を博す。毒舌キャラと洒脱な人柄にファンが多く「大竹まこと ゴールデンラジオ!」などが長寿番組に。俳優としてもドラマや映画で活躍。

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