
Dear Hirarisa,
いや〜、飛行機のその値段はちょっと引いちゃうね!それでもきてくれることに感謝してる。今は仕事の融通がかなりきくから、人混みを避けて博物館や美術館、一緒にゆっくり巡ろう。
でもね、正直いうと、ロンドンの一番の魅力って、芸術でも街並みでもない。やっぱりいろんな国の人たちが集まってるっていう、この多様性こそがロンドンの真の魅力。
昨日の夜、友達の紹介で最近ロンドンに引っ越してきたカップルと遊びに行ったんだ。ポエトリーリーディングに参加した後、耳に注がれた作品について語り合おうってことで近くのワインバーへ向かった。照明が落とされた地下の部屋は、テーブルごとに一本の長い蝋燭だけが灯され、まるで災害の避難所か停電中の家のような雰囲気だった。知的な議論を交わすにはぴったりの空間。
カップルの男性の方が、脳科学者としての自分の仕事について語り始めた。彼はサイケデリックな薬(向精神薬や幻覚剤)の研究をしていて、その一環として失恋した人を対象に実験を行っているんだって。彼の話によると、最近恋人と別れた人に麻酔薬のケタミンを投与し、その失恋体験を語ってもらうという実験で、薬の効果で失恋した人たちは別れの経験を新たな視点から見られるようになって、心の痛みが和らいだ、という。
そこで隣に座っていた彼女が口を挟んできた。
「彼がこういう実験をしていると聞いた時、私、すごく抵抗を感じたのよね」
理由を尋ねると、彼女はこう答えた。
「だって、失恋を癒すだけじゃなくて、失恋そのものを消してしまうなんて嫌だと思わない?失恋がない世界って恐ろしいと思わない?」
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往復書簡 恋愛と未熟

まだ恋愛にじたばたしてる――? 30代半ば、独身。ロンドンと東京で考える、この時代に誰かと関係を紡ぐということ。