
若葉の季節である5月の、運気アップ術。次は菖蒲です!
『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』は、読めば読むほど、運気がアップします!
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「鎮守の森」の植物のアロマで心身を祓う
5月のある日、神社にある大きな栴檀(せんだん)の木の下で、おそうじをしていたときのことです。落葉はひととおり済んで、青々とした葉と、薄紫の小さな花が、たなびく雲のように咲いていて、真下の空間は、チョコレートと抹茶の粉をまぜたような、甘い香りに満ちていました。

「神社」は神の社と書きますが、「社殿」と、それを囲む植物たちの「鎮守の杜(ちんじゅのもり)」とが一体となったもののことです。
杜(もり)のほうがメインであることも、めずらしくありません。山や池、滝などの自然物こそがご神体で、社殿はそれらを拝む人間のためのものだったりするのです。ですから神職は、社殿よりも、杜の中にいる時間のほうが、もしかしたら長いかもしれません。そんなわけで、杜(もり)の中で植物の芳香に包まれている時間が長いのですが、息をするたびに体の中が浄化されていくのを感じます。

5月は薬効のある植物の香りでお祓いをする月。ヨモギの次は「菖蒲(しょうぶ)」についてお話しします。
サトイモ科の菖蒲は、剣のような葉の形と、独特の芳香で、古くから「霊力のある植物」として神事に使われてきました。ヨモギと菖蒲の葉で屋根を葺いた家にこもる「忌みごもり」について前述しましたが、菖蒲は、ほかにもさまざまな方法で祓いに使われます。
たとえば、菖蒲の葉で冠(かんむり)を作って、頭に載せるという方法です。
日本には古代から、寿命を延ばす呪術として、「蘰(かずら)を頭につける」という術がありました。

蘰というのは植物で丸く編んだ冠のようなものです。それを髪の結び目につけたり、枝や茎を髪にさしこんだりしたのですが、貴族の男性の場合、公務のときは冠、私的な場面では烏帽子(えぼし)をかぶっていましたから、菖蒲の葉は冠の根本に巻いたり、烏帽子につけたりしていたようです。ちなみに、現代の神社の神職は、平安時代に確立された貴族のスタイルを踏襲していますので、厄除けなどのご祈祷(きとう)のときにつけている装束は、貴族が私的な場面で着用していた「狩衣(かりぎぬ)」ですし、頭には「烏帽子」をかぶっています。また、例祭でつける装束は「衣冠束帯(いかんそくたい)」で、頭には「冠」(かんむり)。

これは、貴族が朝廷に参内するときの格好と同じです。ですので、私たち神職にとっては、平安貴族がでてくるドラマのほうが、戦国時代のものより違和感なく、まるで日常の延長のように見えるのです。
話を菖蒲の蘰にもどしますね。
奈良時代、天平19(747)年5月5日のこと。聖武天皇が南苑で「観騎射走馬(きしゃはしりうま)」という行事を行ったさい、「昔は5月の節句には菖蒲で蘰(かずら)を作って、それを頭に載せて参内していたのに、いまではこの習慣がなくなっている。今後は、菖蒲蘰を(しょうぶかずら)つけてくるように。つけていない人は、宮中に入ってはいけない」と 詔 (みことのり)をくだされたという内容が、「続日本紀(しょくにほんぎ)」に書いてあります。イベント好きの私としては、「その日だけに着用するもの」や「一日限定」が大好きなので、聖武天皇に大賛成なのですが、この詔から察するに、どうやら一時は、宮中で菖蒲蘰の風習がすたれていたようですね。
それにしても「頭に葉っぱの冠」という構図は、既視感(デジャヴュ)を覚えてしまいます。古代ギリシャ人が月桂樹の葉で作った冠を頭に載せている姿が浮かぶからでしょうか?

月桂樹は、古代ギリシャのアポロン神に関連付けられている聖樹で、詩や音楽などの芸術分野での成功を象徴しているほか、医学や健康とも結びつけられていました。芳香を放つ月桂樹の葉を冠にして頭に載せることが、すこやかなる者の「栄光のしるし」だったのです。
ヨーロッパと東洋。文化は違えど、「植物の香り」の効用に対する感覚は共通しているのでしょう。
月桂樹の冠も、菖蒲の蘰も、植物の香気を脳に送り込み、頭の中を祓って健康になる、それによって無敵になる、成功する、勝利する、というポジティヴなメッセージがあるように思います。イタリアやフランスでは、今でも大学の学位授与式などで月桂冠を
身に着ける風習があるのですから、日本でも、菖蒲の蘰をふたたび流行らせたいですね!
神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること

古(いにしえ)より、「生活の知恵」は、「運気アップの方法」そのものでした。季節の花を愛でる、旬を美味しくいただく、しきたりを大事にする……など、五感をしっかり開いて、毎月を楽しく&雅(みやび)に迎えれば、いつの間にか好運体質に!
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神主さん直伝。「一日でも幸せな日々を続ける」ための、12カ月のはなし。
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