好書好日連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」が話題の清繭子さん、初エッセイ『夢みるかかとにご飯つぶ』刊行記念の特設ページです。
「小説家になりたい人~」のインタビューで意気投合した大田ステファニー歓人さんより、同志「キヨちゃん」へのエールをお届けします。
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一緒に呪い解こう!
「子どもを産んだ人はいい小説が書けない」
へー、そっか、そうですか。つよい呪いですね。
この台詞は、このたびキヨちゃんが上梓かました『夢みるかかとにご飯つぶ』からの引用で、かつてのキヨちゃんが浴びた言葉だ。つら。
いきなり自分の話するけど、このまえ急に作家とパパになった。どっちもやりがいはすごい。でも、新しく増えた二つの時間と、これまでの自分の時間、それぞれのちょうどいいバランスをいまだに掴めてない。うちもしっかり呪われたっぽい。
初めは〈書けなくても息子を言い訳にしない〉とか決意してた。でも、書く以外の時間だって足りないし、慣れない環境でだんだん身も心もくたびれる。とはいえ息子は可愛い。最近は息子の抱っこ以外の諸々は〈まぁ、息子が元気なら出来なくてもいいっしょ、べつに〉って感じで後回し。だからって、もういい小説が書けない呪いとかダルすぎ。
呪われ仲間のキヨちゃんとは、キヨちゃんの名刺がわりのウェブ連載『小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた』きっかけで出会った。連載タイトルの通り、きよちゃんの夢は、小説家。つまりいい小説を書きたいってこと、なはず。
その夢の途中にある生活を紡いだこのエッセイ集は、夢を呪う言葉から始まって不穏。だけど、明るいユーモアを武器に、呪いを解くため歯を食いしばって踏ん張るキヨちゃんの姿に励まされて、気づいたら『ご飯つぶ』めっちゃ食らってた。お腹いっぱい。
ライターとママ、二足の草鞋をつっかけたキヨちゃんが、ママチャリのペダルをどたばた踏んづけ、豪快に去っていく。うしろ姿に親としてのさみしさが滲んでる。とくに二章は、個人的にもずっと胸が苦しかった。結局は親だってひとりの人間。読んでてそんな当たり前に気づく。
実家の親は、人生の序盤だか中盤あたりで勝手に「親」になって、そっからずっと親でいる。おかげで甘ったれな息子は好き勝手にときめきっぱなし。そんな親になる前に感じたときめきを、自分が親から奪ったなんて子は思いたくない。だから親が自分の夢を追って、叶えてくれんのを子は望んでる。
初めてのインタビュアーがキヨちゃんだった。うちからすればキヨちゃんのなんでも乗り越えて糧にしてきた姿はとっくに小説家だし、このエッセイの続きも読みたいけど、インタビュイーは初めて目にするインタビュアーを親だと思う。なので、子のひとりとして、次は親の書いた小説を読みたい! 一緒に呪い解こう! ご飯つぶぺり、ぱく。じゃあね。
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大田ステファニー歓人
小説家。『みどりいせき』ですばる文学賞と三島由紀夫賞を受賞。
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夢みるかかとにご飯つぶ
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