長く暮らしたこの街を離れる君に - 玉置浩二『メロディー』｜渋谷で君を待つ間に｜カワムラユキ

誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽をモチーフに、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに言葉を綴っていただきます。

夜明けに吹く無常の風は、街角にうずくまる小さなセンチメンタルを散らして

生まれてきたことの意味について想いに耽る人や、遠くの国で暮らす見知らぬ誰かの安否を気遣う人の気を逸らした

あらゆる偶然は巡る縁を繋ぎ合わせて、二つの掌がゆっくりと重なる様を導いて

長く暮らしたこの街を離れる君に、不安と安堵感を交互に授けながら、新しい運命を紡がせるのだろう

いつからか視界から入り込む情報を真に受けてしまう様になった僕は、スクランブル交差点のスクリーンに目眩をおぼえて、己の気力体力の不完全さと現在地を嘆いている

もう潮時なのはわかっていたけれど、慣れ親しんだ景色を変える契機なんて、簡単には見つけられない

折り返し地点を当に過ぎた人生、このままでは適当な思い出の続きをぼんやり生き続けているだけなのに

上手に受け流せていた痛みも、飲み過ぎた酒も、あの頃は余裕で咀嚼できていたのに

あらゆる言葉や経験を知り尽くして、何一つ以前と同じように心も体も動かせなくなってしまうなんて

人はいつか自然に帰るのだけれど、君にも僕にもまだ早すぎる

風の声に耳を澄ませて、海の気配に身を委ねて、森に宿る波動を感じて

生物としての充実感に焦がれている

もう人間としての背比べも、時の流れと共に揺らぐ常識も、君と僕にとっての営みからは程遠い

明確なサヨナラなんかじゃなくて、さりげなく過ぎ去ってゆく事を選んだから、あとは旅立ちの日を迎えるだけ

きっと美しい新しいメロディーが聞こえてくると信じて、軽やかに歩を進めるから、どうか見守っていて

玉置浩二『ALL TIME BEST』（2017年、ソニー・ミュージックダイレクト）収録

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渋谷で君を待つ間に

誰かを待つ時間、あなたはどんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
この連載では、そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽を、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに毎回紹介していただきます。

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カワムラユキ

カワムラユキ DJ/作家/作詞家/プロデューサー

バレアリックやチルアウトを軸に渋谷拠点で活動中のDJ/作家/作詞家/プロデューサー。

2001年に「灼熱」でデビュー後、メキシコシティーの独立記念塔で開催されたLove Parade Mexico 2003にて10万人を前にプレイ。その後もパリのBatofarやIbiza島のamnesiaなど、世界各国をDJしながら放浪する。

近年は渋谷区役所の館内BGM選曲や、TOKYO 2020 東京オリンピック及びパラリンピックの会場DJ及び音楽演出、アートパラ深川の清澄庭園でのアンビエントインスタレーション、文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門優秀賞を受賞したオープンワールドRPG「CYBERPUNK 2077」楽曲プロデュース、スクウェア・エニックス「NieR Re[in]carnation Chill Out Arrangement Tracks」にリミックス参加するなど、活動は多岐に。

作家としては幻冬舎plusにて音楽エッセイ「渋谷で君を待つ間に」を隔週連載中。

音楽家としての最新リリースはIbiza島のレジェンドでDJの師匠でもある、故Jose Padillaに捧ぐ「R.I.P. Sunset」を、自身が運営するウォームアップ・バー「渋谷花魁」のミュージック・ブランド＆レーベル「OIRAN MUSIC」よりリリース。

渋谷道玄坂に築約60年の古民家をリノベーションしたウォームアップ・バー「渋谷花魁 shibuya OIRAN」を2010年にオープン、6月で14周年を迎える。

Web: OIRAN MUSIC公式サイト、カワムラユキ Yuki Kawamura
X（旧Twitter）: @yukikawamura821
Instagram: @yukikawamura821