現役の神職・桃虚が指南する、神様とのお付き合いの極意とは? 神様と仲良くして、運気を上げていきましょう!
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三月は浄化の月。平安貴族のデトックス法、ひみつは清酒にあり!
神社の境内を竹ぼうきで掃除していると、まるっこい雀が私の五メートルほど先に着地しました。くちばしから何かはみだしているので、よく見てみると、ミミズをくわえています。三月の初旬から中旬にかけては「啓蟄(けいちつ)」と言って、冬ごもりしていた虫たちが土から出てくる時期なのです。
ミミズをくわえて着地したまるっこい雀は、
(いったん置いとこっか)
といった風情でミミズを地面に置きました。
その瞬間、視野の外からシュッとした鳥が飛んできてミミズを奪い、シュッとした飛行であっというまに遠くへ飛び去ったのです。
まるっこい雀はあわてて
(まてー!)
というように追いかけて飛び立っていきました。
生命が躍動しはじめる三月は、私たち人間にとっても活動が本格化する節目の季節。三月三日の上巳の節句はとても大切にされています。
もともと古代中国では一・三・五・七・九の奇数が重なる日を節句とし、不吉なことを除くための禊(みそぎ)や祓(はらえ)をおこなう慣わしがありました。三の数字が重なる三月三日は「上巳(じょうし)の節句」と呼ばれ、水辺で心身を洗い清める習俗があったそうです。日本でも、古代から水辺で心身を清めるという祓いの行為がおこなわれてきました。
えーと、この水に、酒の盃を流してもいいよね?
で、それを下流にいる人が受け止めて、飲んじゃっていいよね?
と、誰が言い出したのかわかりませんが、貴族のあいだでは「庭園に作った曲がりくねった小川の流れに沿って座り、上流から流れてくる酒の盃が自分の前を通りすぎないうちに詩を作り、盃を取り上げ酒を飲み、また次へ盃を流す宴」、すなわち「曲水の宴(うたげ)」が生まれ、奈良時代にはすでに祓いの行事として定着していたようです。途中、途絶えた時代もありますが、現在では京都の城南宮や大宰府の大宰府天満宮、平泉の毛越寺(もうつうじ)などで同様の宴が再現されています。
お酒は身を清める手段であると同時に、神々と交流しやすい状態になる手段でもあるので、宴、という名がついていても、れっきとしたお祓いなのです。
神社でも、家内安全や厄除けなどのご祈祷を受けると、最後にお神酒を一献(いっこん)いただきます。神様にお供えしたお酒をいただくことによって、体を浄化するお清めです。お酒を飲むことが浄化になるという概念は、「お酒で日々のうさを洗い流す」なんていう日本語の表現にも表れていますよね。
私は曲水の宴に参加したことはありませんが、お酒を飲みながら詩を作るのは楽しそうですし、流しそうめん的な面白さもありそうです。
とはいえ、一般人が曲水の宴を開こうと思っても、無茶苦茶ハードルが高いですよね。
そこで、私は三月三日には「酒風呂」に入ることにしています。文字通り清酒をお風呂のお湯に入れて、入浴します。心身ともに浄化されるので、三月三日だけでなく五月五日も七月七日も九月九日も、つまり節句のたびにしています。
むむ。酒風呂?
曲水の宴と、ずいぶん違わない?
と思うかもしれませんが、そもそもお風呂は身を清めるための場所。そこに清めの働きをする酒をプラスすれば、デトックス効果ばつぐんです。さらに血流もよくなり、美肌効果もあるので、機嫌もよくなり、まわりの人にも優しくなれるから、結果的に運気もアップするという、清酒を使った楽しく気持ち良いお祓い効果があり、それは曲水の宴に負けず劣らずだと思っています。
自分の家に神棚をおまつりしていて、日供(にっく:毎日のお供えのこと)をしておられる方は、お供えしたお酒を下げてきて使ってもよいですし、一日と十五日にお酒を替える方は、その日にしてもよいと思います。神棚にお酒をお供えしていない人は、酒風呂用に清酒を一瓶、酒屋さんで求めてもよいでしょう。もちろん、飲める方は、日々の息災に感謝して一献、いただいてかまいません。
かんじんなのは、奇数が重なる節句の日には、必ずすること! これが神様と遊ぶこつです。
人形は、穢れを移して水に流すものだった!?
平安時代、三月三日の上巳の節句には、デトックスの別バージョンとして、人形に穢れ(けがれ)や災いを移して水に流す行事も行われるようになりました。娯楽のあまりなかった時代ですから、自然を相手に遊ぶしかなくて、酒の盃も、人形も、とにかく水に流すのが面白かったのだと思います。
そして、体の病も心の病も、すべては穢れからという認識があったので、無病息災や健康を祈願するということイコール穢れを祓うこと、という時代でもありました。それゆえ、生産活動から離れた「遊び」が、そのまま祈りとなり、穢れを祓うということに結びついたのでしょう。平安時代に紫式部が書いた「源氏物語」のなかには、三月上巳の日に光源氏が陰陽師を呼んで祓を行い、人形を乗せた船を海に流す場面があります(第十二帖「須磨」)。
神社の神事は、基本的に平安時代に確立された形式を続けていますので、この「人形による祓い」の行事も、今に伝わっています。ただし上巳の節句ではなく、一年の真ん中にあたる六月三十日に「夏越の大祓」として紙の人形(ひとがた、と読みます)に名前を書いて自身の穢れを移し、それを水に流したり、火で焚き上げたりすることによって祓うという儀式になっています。
一方で、貴族の幼い女の子がしていた「ひいな遊び」という、人形をつかったおままごと遊びは、江戸時代になって公家の女性が武家にお嫁に行くようになると、武家社会に持ち込まれました。公家の女性が嫁入り道具としてひな人形を持参したからです。
人形を流す祓いの行事と、中国の上巳の節句、そして「ひいな遊び」が結びついてできあがったのが、現在の「ひなまつり」だと言われています。そして、人形は流すのではなく、飾っておまつりし、菱餅や桃の花をお供えする対象となったのです。
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毎日がみるみる輝く!神様とあそぶ12カ月
「小さな一瞬一瞬の幸せを感じる」を毎日続けていけば、「一生幸せを感じ続ける」ということになる。――当たり前のことだが、これが、神社神職として日々、神様に季節の食べものをお供えしたり、境内の落ち葉を履いて清めたり、厄除開運の祈祷を行って参拝者さんとお話ししたりする中でたどり着いた、唯一、確実な開運法なのです。
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