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歌舞伎町で待っている君を

2023.12.29 公開 ツイート

【新連載】歌舞伎町のホストが詠う「ホストクラブでしか会えない君」への本音 SHUN

18歳でホストになった。目立ちたくて寿司屋を始めた。短歌に出会って自分を正直に出すことを覚えた。歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。そこにある本音――。

歌舞伎町ホスト スマッパグループ SHUN
(撮影:Smappa! Group)

歌舞伎町で待っている君を

太陽がようやく沈んで、十八歳の夜が来た

私は髪の毛を逆立てて眉間に一束の髪をぶら下げる

霧雨のようにVO5を浴び、スカルプチャーの香りを首筋と手首に練り込む

紫陽花色のスーツを着て、セカンドバックを摘みながら古い実家を出る

アスレチック公園と呼ばれる、幼少期、私が見知らぬおじさんに誘拐された公園をねっとり歩き

ひたすら鳩が集まるエリアを過ぎて地元の駅に到着する

人々と逆行しながら、切符を機械に吸わせゲートが開く、すたすたと人の気配が少ないホームへ向かう

誰もいない電車内で向かいの窓に私が映る

少し乱れた眉間中央部の髪の毛が気になりそそくさ直す

海辺を知らぬ電車は走り出し、私は西日暮里で山手線に乗り換える

急に人間が増えたので、手すりに頼らず無駄に格好を付けて仁王立つ

私の周りがスカルプチャーの香りで充満した頃、新宿駅に到着した

尖っている硬い革靴で煙草とガムが埋まったコンクリートを踏み、歌舞伎町へ向かう

雷のように人混みを掻き分け、喉を切り裂いたような客寄せの声を無視して

ソシアルビル八階にあるホストクラブSmappa!の扉を開く

明るい店内で、花畑のような髪色のホスト達と共に掃除をする

舐められるほどひたすら磨く テーブルの下に女性の冷たい下着が落ちており内勤者にそっと渡した 行方は知らず

ダウニーで香り漬けしたお絞りをひとつひとつ小さく巻いてゆく

角の揃っていなかった私のお絞りは、背の高い先輩ホストに巻き直された

ホスト達は、短い呪いのように源氏名で呼び合っている 

私は本名から平を外し、SHUNと源氏名を決めた

声出しと朝礼を終えて、さっそく一見のお客様がご来店した

胸に手書きの名刺を忍ばせ、待機する

三十分くらい経った頃、内勤者に呼ばれ、席に向かう

失礼します、お席ご一緒させて頂きます

私の声は君に届かず向日葵みたいなホストの笑い声に掻き消された

やがて向日葵は枯れ私一人になった

君はひたすらハチタンと呼ばれるグラスを私に傾ける

会話より多いグラスの衝突音が鼓膜を擦り

生ぬるい空気があっという間に脳を白濁させる

背後から肩を優しく叩かれ、席を離れるよう指示を受ける

最後の乾杯は歯軋りみたいな音がした

そのまま背筋を正して店の奥にあるトイレへ向かう

個室に入り、しっかり鍵を締め、ピカピカの便座を上げて、体を緩める

喋れないなら踊れ、踊れないなら脱げ と書いてある貼り紙がさっと眼球を横切った

スーツに吐瀉物がかからぬよう丁寧に口内の奥に指を差し込み、滑らかに雫を垂らす

めまぐるしい営業が終わる

コンクリートを見ながら新宿東口へ遡上する

ぐるぐる廻る山手線でたっぷり睡眠をとり

古びたオレンジ色の実家で自分を洗い

私は今日も歌舞伎町へゆく

 

いつまでも白いまんまのワイシャツに誰も求めぬ乳首が透ける

 

薄れゆく本当の名前まあいいやネオンの海で誰か呼んでる

 

「愛してる」言葉は歩き腐敗して甘みを増して唇に、落つ

 

嘘つきはお互い様とわかってて嘘じゃないこの景色を見てる

 

傘立てに溜まるしずくは垢となりやがて乾いてまた雨を待つ

 

柳刃をゆっくり研ぐように

沢山の君と出逢い、心は鋭利になった

すぐ刃こぼれする短い刃だが

長い年月をかけ、美しい刃物に君が変えてくれた

そして、給料の丸が増えた、それが黒い数字の羅列になった頃

だんだんと君達は離れてゆく

飽きられたくない私は少しでも興味を引こうと寿司屋を始める

カウンター四席ほどの小さい寿司屋

寿司屋へいらっしゃい と名付けた、名の理由を尋ねられることを期待して

合いの手をそして愛の手を、と傷一つない指でノートに記した

寿司の修行はしていない 親戚が下町で寿司屋をやっていて、最低限の知識を教わり、仕入れ先を紹介してもらった

仕込めば仕込むほど不味くなる不細工な寿司を一度だけ美味いと言ってくれた君はもういないが

あれから六年経つ

荒磯の香りを抱いて朝が始まり、魚を仕込み、米を炊く、酢に塩が馴染んだ頃、夜が来る

摂氏四十度のシャリで鮪を抱いて、牡丹海老の赤いドレスを慎重に脱がす

大将、日本酒どうぞ、するりと頂く、さようなら

心の距離に、すっかり慣れて、口角上げて接客している

ホストクラブとまた違う君の温度がねっとり脳にへばりつく

幾つもの夜を迎えて、誰かを迎える

しかし、どれだけ探しても寿司屋に君はいない

シャンパンコールで叫ぶ君

私を玩具のように扱う君

一度も目が合わない君

知らぬ間に痩せてゆく君

シャンパンタワーを崩した君

さよならと言った君

ホストクラブにしか君はいない

だから今日も寿司屋の後にホストクラブへ出勤する

歌舞伎町で待っているずっとこれからも君を

ホストクラブ 歌舞伎町 スマッパグループ

来年1月より月2回更新(14日、29日予定)で連載が始まります。よろしくお願いします。

関連書籍

手塚マキ『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』

戦後、新宿駅周辺の闇市からあぶれた人々を受け止めた歌舞伎町は、アジア最大の歓楽街へと発展した。黒服のホストやしつこい客引きが跋扈し、あやしい風俗店が並ぶ不夜城は、コロナ禍では感染の震源地として攻撃の対象となった。しかし、この街ほど、懐の深い場所はない。職業も年齢も国籍も問わず、お金がない人も、居場所がない人も、誰の、どんな過去もすべて受け入れるのだ。十九歳でホストとして飛び込んで以来、カリスマホスト、経営者として二十三年間歌舞伎町で生きる著者が<夜の街>の倫理と醍醐味を明かす。

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歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。

バックナンバー

SHUN

2006年、ホストになる。
2019年、寿司屋「へいらっしゃい」を始める。
2018年よりホスト歌会に参加。2020年「ホスト万葉集」、「ホスト万葉集 巻の二」(短歌研究社)に作品掲載。

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