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イギリス帝国盛衰史

2023.11.29 公開 ポスト

後の「パレスチナ問題」は「イギリス」の野望が発端か、帝国の「第一次世界大戦」の狙いとは?秋田茂

イギリスはなぜ世界を動かす帝国になり得たのか? イギリス帝国の実態が最新の「グローバルヒストリー」研究によって明らかになってきた。

秋田茂さんの最新刊『イギリス帝国盛衰史』から一部を試し読みとしてお届けします。

ロンドンのウェストミンスター宮殿

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第一次世界大戦と変化するイギリスの思惑

第一次世界大戦(一九一四~一九一八)については、すでに多くの人がさまざまな角度から考察しているが、イギリスにとって、第一次世界大戦はどのような戦争だったのかというと、「帝国防衛の戦い」といっていいだろう。

第一次世界大戦は、一般的には「帝国主義戦争」と位置づけられているわけだが、当時のイギリスはすでに広大な植民地を保有しており、それ以上の拡大を目指す必要はなかった。

したがって、イギリスにとってこの戦争は、後から迫ってきて、領土拡張主義政策を取るドイツ帝国やオーストリア=ハンガリー二重帝国に、帝国を侵食されるのをいかに防ぐのか、という防衛戦争ということになる。

問題は、その「防衛戦争」という性格が、途中で変化していったことである。

なぜ性格が変化したのか。そこに深く関わっているのが、先の土地課税の問題で登場したロイド・ジョージである。

開戦の翌年、一九一五年に自由党・保守党・労働党連立によるアスキス挙国一致内閣が成立すると、ロイド・ジョージは新設された軍需大臣に就任。軍需産業への政府介入の強化に努めるようになっていく。

翌一九一六年に陸軍大臣に就任した彼は、さらに挙国一致内閣の首相に推挙され、戦争を指導するようになっていった。

その頃からイギリスの方針は少しずつ変わっていき、それまでの防衛を主とする戦い方から、むしろドイツの植民地を奪取するという方向に進んでいく。

第一次世界大戦では、オスマン帝国がドイツ側について参戦してくるのだが、オスマン帝国はこれまでイギリスが非公式帝国として、その経済力を通して影響力を行使してきた地域である。

そこでイギリスは、当時オスマン帝国内で起きていた、独立を目指すアラブ人による民族運動を積極的に支援する政策を取るようになる。このとき、イギリスとアラブ人とのパイプ役として活躍したのが、映画『アラビアのロレンス』で有名になったイギリス人将校トマス・エドワード・ロレンスであった。

つまり、オスマン帝国領の中でもアラブ人が多くいて、後にイラクやパレスティナとなる地域を、事実上イギリスの支配地域として取り込むことで、イギリスの影響力を拡張していこうとしたのである。

こうして、もともとは帝国防衛というディフェンスを目的とした戦いが、ある時点から帝国拡張の絶好の機会であるという捉え方に変化していったのである。

イギリスが中東での勢力拡大を狙った目的は、オスマン帝国が中東に持っていた石油の権益であった。

第一次世界大戦が始まる前から、石油は海軍の艦船を動かすためのディーゼル機関の燃料として重要性が増していた。そのため、将来的にも石油資源を押さえることが戦争の帰趨を決するという認識をロイド・ジョージは持っていたのだろう。

中東の石油資源を押さえるためには、それまでのような経済力による非公式の支配よりも、公式帝国か、それに限りなく近い保護国として直接支配下に置いたほうがはるかに有利なのは間違いない。そう考えると、この戦争は石油資源をイギリスが確保する絶好のチャンスなのではないか、と、発想が変化していったのだろう。

ドイツとイギリスの勢力争いの場は、中東だけではない。

当時ドイツは自国の商船隊を介して、ブラジルなどラテンアメリカ諸国と、非常に強力な貿易関係を構築していた。

しかしラテンアメリカ諸国は、もともとイギリスが力を持っていた非公式帝国でもあった。そこにドイツが影響力を伸ばしているというのも、イギリスにとって脅威であったことは間違いない。

こうした脅威に対抗するためには、防御だけでなく、積極的に権益を獲得していくことが重要だとロイド・ジョージは考えたのだろう。

関連書籍

秋田茂『イギリス帝国盛衰史 グローバルヒストリーから読み解く』

十六世紀にはヨーロッパの二流国に過ぎなかったイギリス。それがなぜ世界を動かす帝国になり得たのか? イギリス革命と産業革命による躍進を論拠とする従来の説ではわからなかった「帝国化」と「帝国経営」の実態が、最新の「グローバルヒストリー」研究によって明らかになってきた。「ヒト・モノ・カネ・情報」を巧みに活用し、時代に合わせてしたたかに仕組みを変化させながら世界に君臨してきたイギリス帝国。本書は、その五百年にわたる興隆・繁栄・衰退の歴史をひもとく「新たな世界史」である。

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秋田茂

1958年、広島県で生まれる。1985年、広島大学大学院文学研究科西洋史学専攻博士課程後期中退。大阪外国語大学で助手・講師・助教授を経て、2003年10月より大阪大学文学研究科世界史講座・教授。2022年4月改組により、大阪大学文学研究科グローバルヒストリー・地理学講座教授。イギリス帝国とアジアの関係史を中心に、アジアから見たグローバルヒストリーの構築を模索している。2022年紫綬褒章受章。主な著書に、『イギリス帝国とアジア国際秩序』(名古屋大学出版会、2004年第20回大平正芳記念賞)、『イギリス帝国の歴史――アジアから考える』(中公新書、2013年第14回読売・吉野作造賞)、『帝国から開発援助へ――戦後アジア国際秩序と工業化』(名古屋大学出版会)などがある。

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