「生涯作り手」として、現在は日々アクセサリー作りに勤しんでいるフジイサミさん。SNSで行われる月1回の受注ではまたたくまに完売。大人気のものづくり作家として活動中です。そんな彼のアトリエ兼住まいは築60年の団地。DIYを繰り返しながら、心地よい暮らしを追求する日々を綴ります。
生活空間を見直せば人は変わる
「社長、将来は自分の手で何か作る仕事がしたいんです」
当時24歳。ものづくりの仕事に憧れを抱き、労働時間が長いことや給料が安いことも覚悟して就職した服飾雑貨メーカーだったが、仕事で疲れ切って本音を社長に話してしまい、「そんな気持ちならば辞めた方がいい」と言われて一年で辞めることになった。
気づいてみれば小さい頃からレゴブロックや折り紙で遊び尽くし、学校では勉強はできないけれど図工の成績は良かった。簡単なつくりのものを自分で作ったりもした。ミシンを持っていたので、まっすぐ縫いだけで簡単に作れるエプロンやエコバッグ、キャンバス生地のトートバッグ。ロウ付けという溶接技術を使った、軽くヤスリ掛けした荒い仕上りのシンプルなシルバーリング。
小学校の頃お世話になった先生が「シンプル・イズ・ザ・ベスト」が口癖で、毎日聞かされていたのが影響したのかもしれない。買えば安いと思いつつ、自分の理想の形に作れるのがいい。結局、自分の手を動かしてものを作ることが好きだった。
「ものづくりを仕事にしたい」という気持ちだけが高まり、とりあえずメーカーで働いてみたが、結局ストレスだけが溜まる生活になってしまった。しかし、それを代償に「ものづくりの仕事」という大きな分野の中で本当に自分がやりたいことが何か、気づくことができた。
それから6年経った現在、指輪作りを生業としながら、築年数60年ほどの古い団地をDIYでリノベーションしたり、身の回りの家具を自分で作って暮らしている。以前と比べたらとても充実した日々を過ごせていると思う。お金も時間もなく疲れ切ってしまった状態から抜け出し、心地の良い暮らしを手に入れることができたきっかけは、生活空間の見直しだった。人が関わる人によって変わるように、日々暮らす空間も人を変えると思う。
狭い空間にダイニングテーブルを置くための「ある工夫」
服飾雑貨メーカーを辞めて高時給バイトを始めたころ。朝8時に仕事が始まり昼過ぎに終業、15時~16時ごろには家に帰ってこられるので家にいる時間がとても長くなった。それまでは朝起きて会社に行き終電で帰ってくるので、家が寝るためだけの空間になっていた。ご飯の時間もテーブルなんてなくてキッチンで食べるほど荒んでいた。土日も家に居てはつまらないので出掛けては無駄にお金を使っていた。
そこから、お金はないけど時間があるが故に家で過ごす時間が長くなった。そんな生活の中でまず「テーブルがほしい」と思った。
ここで役に立ったのが幼少期に遊び尽くしたレゴブロック。組み立てる、バラす、組み立てる、バラす。組み換えれば色んなものが作れるレゴブロック。思いついたのが無印良品の大きい収納ボックスの上にホームセンターで買った板を乗せること。
ボックス一つでローテーブル、ボックス二つで高さ70cmほどの普通のテーブルになる。収納ボックスは元々棚に仕舞ってあったものなので、テーブルを引っ込めたいときは元の場所に戻して、板は棚の脇に立てかけて置いておけば広い空間が作れる。テーブルが増えて椅子も必要になり、背もたれがあると邪魔になるのでスツールを購入した。
テーブルは出窓のそばに設置した。これまで寝る為だけの空間で気づかなかったけれど、窓の外を見て遠くの方に山が見えた。生活が変わり景色が変わった。
築60年の団地物件を選んだ理由
激狭物件で新たな気づきを得て生活をすること1年、物が増えて手狭になり引っ越す必要が出てきた。
生活が自分を変えてくれるならば、もっと心を豊かにしてくれる暮らしを自分で作りたい。それがものづくりが好きという自分なりの自己表現にも繋がると思った。
そうして見つけたのが、住んでいる場所から数百メートルほど離れた団地の物件。ここを選んだ理由はいくつかある。
備え付けの家具が少ないこと。クローゼットや下駄箱といった固定された家具があると、その色味にインテリアが左右されてしまうからだ。
また昔ながらの家は押し入れや部屋の仕切りがスライドドアであることが多く、取り外すことで空間を広く使ったり、押入れも見せる収納に変化させたりもできる。さらに床材を敷く予定だったので、引き戸だと敷いた床材の高さが邪魔して動かなくなってしまうが、スライドドアであれば問題ない。
団地の正方形の間取りも暮らしやすいよう考えられている。そしてベランダ側には10m近い空きスペースが確保されているので採光も良い。多くの団地は各窓に30-40センチほどの庇がついているので、夏はしっかりと日差しを防いでくれる。家を建てるならば真似したいほど良い作りだと思った。
こうして選んだ団地の一室を、自分でリノベーションしながら暮らしていくことになった。
築60年の団地でDIYをしながら心地良く暮らす
アクセサリー作家であり、「腰は大事」ステッカーの生みの親、フジイサミさんが、昔ながらの団地でDIYをしながら、自分にとって心地よい暮らしを探究していく様子を綴ったエッセイ。