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  4. 12巡目~「松山・尾道」

10月某日

成田からLCCで2時間弱、30数年ぶりの松山へ。
向かったのは中心部でも道後温泉でもなく、三津という町。
宿泊サブスクを利用していなければ、訪れることはなかっただろう。

静かな港町。遠くの踏切の音が、かすかに聞こえてくる。
ここで一週間、やることは今冬に出る本の再校チェック。作業も佳境となる。

イラストを多用する本なので、原稿と齟齬がないか集中して確認する。
たとえば、原稿では「民宿」と書いたが、イラストが「旅館」っぽく仕上がっていた。
どうしようかと考え、「旅館」の方がいいなと、原稿を修正。
またたとえば、登場人物が「制服」だったので、原稿の「夜」の設定を変えたり……などなど。
すでにラフにはOKを出しているので、こっちが修正するターンとなる。
そんなこんなで、原稿とイラストに向き合う日々。

10月某日

自主休業。
松山市中心部を巡り、サウナも行こかと宿を出る。
地図を見ると、伊予鉄の「三津駅」よりも、渡船で一つ前の駅に行った方が近いとわかる。
渡船は市道の扱いで無料。岸にいると船を回してくれる。なんか嬉しい。

起源は室町時代。小林一茶も乗ったそうな

市内中心部のアーケードを冷やかして、喜助の湯でサウナ3セット。
帰りの伊予鉄「大手町駅」の前で、こんな光景に出くわす。

路面電車が踏切で郊外電車の通過を待っている図。
線路と線路が交差するってのも、見たことないかも。
蜜柑色の車体が映えますねぇ。

10月某日

今回のホッパーケーション(ホッピング&ワーケーション)の山場、というか今年一番の山場となる日がやってきた。遠足の日の小学生のように、早く起きてしまう。

しまなみ海道──今治~尾道70kmを自転車で走るのだ。
自称「中途半端チャリダー」で、自宅近くの荒川沿いをちょくちょく走っていたのだが、このサイクリングロード完走は「50代にやりたいこと」のひとつで、それが成就となる。

7時前に宿を出て、8時半に今治駅着。レンタル手続きなどを経て9時に出発。

相棒は、普段も乗ってるGIANTのESCAPE

しまなみ海道のサイクリングロードは、世界的にも有名らしく、すれ違うチャリダーは殆どが欧米系のYOUたちだった。「Hi!」と、笑顔ですれ違う。

ゴールの尾道まで6つの大橋を渡る。
絶景なのだが、大型船がくぐれる高さまでチャリで駆け上がるキツさと、強い向かい風……。

でもね、やっぱり景色のよさが勝っちゃうのよ。

脳内Spotifyに、ミスチル、スピッツ、フジファブリック、セカオワなどが流れ、それを口ずさみながら走っているのだが、橋から島々を眺めていると「瀬戸の花嫁」がヘビロテに。

(いい感じぃ~)と、快調に飛ばしていたのは前半までだった。
三つ目の橋を越えたあたりで、膝裏に違和感。筋肉たちが悲鳴を上げはじめる。
無理しちゃいかんと休み休みとなり、最後の大橋を上がるときは、自転車を降りて押すことに。
午前中に追い抜いた「おじいチャリダー」たちに、次々と抜かれていくのだった。
鍛錬が足りんなあと反省。でもまあ70kmですからねえ、ゆっくり行けばいいやと。

16時、ヘロヘロになりながら終点の尾道駅に到着。
休憩を含め、7時間のチャリ旅でした。(案の定、翌日は身体が動かず)

10月某日

しまなみ海道サイクリングのあと、尾道に一週間ほど滞在。
昨秋も訪れたが、今年はちょっと趣を変えてみた。

坂、海、レトロ──ほのぼのした印象の尾道だけど、それだけではない。
商店街の先にディープな歓楽街「新開(しんがい)」がある。
言葉にすれば「ラビリンス」。迷い込んだら抜け出せない……そんな感覚。

新開にあるゲストハウスは元遊郭だそうで。かなりディープな内観。

この部屋で、あんなことが、こんなことが……と思いながら仕事&寝起き。
天井裏に鳩が住み着いており、日中「クルックー」がコンビニ店内放送のように聞こえてくる。

おもろいやん。

10月某日

クルックー クルックー クルックー

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55歳のホッパーケーション

北海道から沖縄まで、日本各地を転々と旅しながら(ホッピング)、ワーケーション(労働&休暇)もする「ホッパーケーション」を、50代の作家が始めました。宿のサブスクなどを利用しながら、各地で執筆活動、副業の日本語教師業をリモートで行う様子を、滞在先の魅力、グルメなどを交えながら(大変なこともあると思うんですけど……)おもしろおかしく日記風に紹介していきたいと思います。

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ささきかつお 作家

1967年、東京都生まれ。
出版社勤務を経て、2005年頃よりフリー編集者、ライター、書評家として活動を始め、2016年より作家として活動。主な著作に『空き店舗(幽霊つき)あります』(幻冬舎文庫)、『Q部あるいはCUBEの始動』『Q部あるいはCUBEの展開』。近著に『心がフワッと軽くなる!2分間ストーリー』(以上、PHP研究所)。

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