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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2023.09.12 公開 ツイート

「自分推し」活動をしていたら夢にスラムダンクの三井が出てきた理由 カレー沢薫

最近「自分推し」活動の一貫として、ポケモンスリープをはじめ、睡眠に気を使う日々を過ごしてきたが、その成果なのか、先日夢にスラムダンクの三井が出て来た。

 

しかも試合を観戦している夢で、夢の中の私が「まさか三井の3Pシュートを生で見れるのか!?」と思った瞬間、三井にパスが渡り、ちゃんと3Pの位置まで行って放たれたシュートはゴールのリングどころか後ろの板にすらかすらず、勢いよくどこかへ消えていった。

夢はそこで終わり、起床後声を出して笑った。

今まで数えきれないほど、ブレーキを踏んでも車が止まらない夢や、便所を探して彷徨う夢、恒例の全裸外出夢、極めつけにおキャット様の身に何か起こる夢など、迷惑防止条例を超えて傷害罪にあたる脳からの嫌がらせを受けて来た。

このように夢を見て笑うことなど滅多にないし、そもそも夢に推しが登場するなど皆無に等しかった。
しかし、睡眠に気を使ったことにより睡眠の質が向上し、推しの夢を見るに至ったのかもしれない。
さらに睡眠の精度が上がれば、三井がファウルを誘った上で3Pシュートを決める、松本にとっては悪夢でしかない吉夢を見ることができるということだ。

つまり、自分推し活動が実を結び、自分の体がファンサを返してきたのである。

具体的に何をしたかというと、まず起床時間を早くして、夜になったら眠くなるようにした
そして、少し前にブームになった「ヤク」など、睡眠の質が向上するという触れ込みのネタを仕込むようになった。
「ヤク」もブーム時は「レディ」と呼ばれる売人からしか買えなかったようだが、最近はコンビニでも買えるし、類似品も蔓延しているので入手に困ることはない。
さらに血行がアッパーになる風呂に入れる純度の高い結晶も手に入れた。

さらに金をかけようと思ったら、枕やアロマグッズなどの小物、最終的にベッドを変えたり、部屋を間接照明にしたりとキリがなく、睡眠沼は意外と深い。

このように、自分推し活動とは「ご自愛」であり「自己投資」でもあるので、課金すればするほど成果が出る時もある。

しかし、課金には「ドブ」がつきものだ。
ソシャゲのガチャなら爆死することもあるし、推し活はそもそもリターンを求めるものではないが、金と時間を捧げた推しがお葉っぱ様で捕まることもあり、必ずしも課金に見合う対価が得られるわけではなく、時にマイナスもある。

だが、金ドブ率に関しては「自分推し」ほど鬼畜なジャンルはないのではないか。

普通の推し活は言わば「応援」である、推しに声援を送り、時にチェキや握手を10巡して金銭的支援を行い、推しのご多幸を祈ってアクスタをご神体とする祭壇に祈りを捧げるのだ。

つまり、推しが上手く行くように、推しの頑張りを応援するのが推し活であり、頑張るのはあくまで推しなのだ。
応援する側がどれだけ頑張っても、本人が不倫や淫行、彼女をボコボコに殴っていたらどうしようもないのである。

しかし、推しからそのような裏切りを受けることは意外と少ないのではないか、特に私は二次元の民なので、推しが死ぬことはあるかもしれないが、不祥事により誌面から半年謹慎、さらに謹慎中にも未成年喫煙で二度と登場しなくなる、みたいな目にあったことはない。

対して「自分推し」は課金するのは自分、頑張るのも自分である。
一見全て自分次第なのでアンコントロールな他人を推すより簡単そうに見える。
しかし「自分」ほど自分を裏切る人間はこの世に存在しないのだ。

基本的に自分推し活動は頑張りよりも課金の方に偏りがちな傾向がある。

私も今まで高価な化粧品やダイエット器具の購入やジム入会などの課金はかなり積極的に行ってきたのだが、それを継続するという頑張りはした覚えがない。
ソシャゲも、課金だけで強くなれるわけではなく、課金で手に入れたものを時間をかけて強くしなければ無意味だ、自分推しも課金だけではただの金ドブでしかない。

もし他人に推されているなら、期待に応えなければというプレッシャーで頑張るかもしれないが、推しているのも自分だし、裏切った時に「ユルス」と江戸川乱歩級の許しを与えてしまうのも自分なので、何度でも裏切ってしまうのだ。
よくこれだけ裏切っておいて、FF4のカインに「こいつなんぼ裏切るねん」と、ツッコめたと思う、さすがのセシルも許さないしローザも目を逸らすレベルで裏切っている。

睡眠ですら、どれだけヤクや周辺機器に課金したところで「寝床でスマホを見る」という己の行為でぶち壊しなのである。

そして自分というジャンルの最大の鬼畜ポイントは「離れられない」という点だ。
どんなジャンルでも、飽きたり嫌になれば「離れる」ということが可能だが、自分というジャンルを卒業しようと思ったら、この世からも卒業しなければいけない。

しかし、現在の自分推し活動の金ドブ率が高いのは、塾に入るだけでは成果はでず勉強することで学力が上がるなど、課金と努力ワンセットで始めて成果が出るというシステムの欠陥のせいでもある。

もっと「脳に電極を差して学力を上げる」など、課金のみで完結できる方法を増やすべきだろう。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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