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仕事がなくなる!

2023.06.22 公開 ツイート

「ブラック上司」から学べることもある 悔しさをこれからの教訓にするために 丹羽宇一郎

AIの進化は凄まじく、多くの中高年が「自分の仕事の賞味期限はいつまでか」と戦々恐々としているだろう。AIに負けないマインドをいかに保つか? いかなる場所も時間も超えて、普遍的な価値を持ち得る仕事の「絶対値」を探る、丹羽宇一郎氏の新刊『仕事がなくなる!』から、一部をご紹介します。

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「自分ならこうする」と想像してみる

私は平社員の頃から上司の言動を観察して、こんなとき自分が上司ならどういう決断をするだろうか、部下に対してどんな態度をとるだろうか、といったことを心のなかで時に応じ、シミュレーションしていました。

役職のないときなら課長の立場で、課長になったら部長の立場で、取締役員になったら今度は社長の立場で「俺なら、こうする」という想像を半ば真剣に行っていたのです。

上司が指示する内容に対して疑問を感じたり、部下に対する発言を聞いて、それはちょっと違うのではないかと思うことが折にふれてあったからです。

(写真:iStock.com/takasuu)

このシミュレーションは、上司はどうあるべきか、社長はどういうリーダーであるべきか、ということを自分なりに学んでいく、よい機会になりました。

信頼していた上司からある仕事を任され、「思い切りやってこい。何かあれば俺が責任を取るから」と言われたときは、自分が上司になったらあんなことが言えるだろうか、と真剣に考え、責任ある立場の人間はああでなくてはいけない、とますます尊敬の念を深めたものでした。

 

もっとも、シミュレーションの対象となった多くは、「けしからん」と思う上司たちの言動でした。

彼らを見ながら、「部下を持ったら、信頼して仕事を任せるようにしよう」「課長になったら、若いうちから部下を海外に出して経験を積ませよう」などと自分がその立場になれば実行しようと思うことを、ことあるごとに決意していました

 

入社してまだ間もない頃、隣の部署で上司が部下のミスを執拗に責めている場面に出くわしたことがありました。それがまた何とも陰湿で、周りで見ている人間が嫌な気分になるほどでした。

私は最初、横目で見ていましたが、次第に我慢ならなくなり、椅子を蹴って立ち上がるなり、「貴様、いい加減にしろ!」と怒鳴ってしまいました。

後から別の上司に呼び出され、「お前の気持ちはわかるが、上司に向かってあの言い方はないだろう」と諭されたのですが、この一件は、上司が部下を叱るときはどういう態度であるべきか、相手のモチベーションを下げることなく上手に叱るにはどうすればいいかを深く考えさせられました。

 

また、ある役員会議のとき、まだ平の取締役だった私が、別の役員の意見に対して異論を滔々と述べていると、その役員から「たかが取締役の分際で、偉そうな口を叩くな。お前などに命令される筋合はない!」と一喝されたことがありました。

普段は出世のことなど考えることのなかった私ですが、そのときだけは、さすがに「今に見ておれ。俺がもう少し上にいけば、立場とかに関係なく、意見を自由に言い合える会社にしてやるぞ」と思ったものです。

 

反面教師になるような人のタイプはさまざまです。問題が起きると、責任を部下になすりつけたり、部下の手柄をいつも横取りしたり、保身から平気で嘘をついたり、下には威張り散らしたりする……。

しかし、これらは人間社会の常であり、自分自身のこれからの教訓だと考えるようにしたいものです。

私はそんなタイプの人から、自分が上に立つ人間になったときはどうあるべきかということを、いろいろな形で勉強させてもらったと思っていますし、むしろ、彼らは私が仕事を通して成長していく上で欠かせない存在だったと、今も感謝しています。

「駄目な人」から多くを学ぼう

私のこうした経験は会社組織のなかでのことですが、反面教師的な学びは、人間関係においても応用することができます。

なぜこの人たちはこういう点で駄目なのか、なぜ平気で人に嫌な思いをさせるのかをじっくり学ぶことで、自分にも同じ面があるのではないかと戒めたり、自分がこの人たちの立場であれば果たしてどんな行動をするのかを考える、よい機会なのです。

(写真:iStock.com/mapo)

大事なことは尊敬できる人からのみ学べる、と思っている人は多いでしょう。

しかし、そうとは限りません。実は、駄目な人から学べることのほうが多いとも言えますし、そのほうが説得力を持った教訓を得られることがあるのです。たとえば、駄目な人が発する無神経な言葉は、当事者にならないと、その破壊力は実感できないでしょう。

 

ですから、駄目な人と付き合わざるをえなくなったときは、ただ相手を否定するばかりでなく、相手とできるだけ話をする機会を持ち、反面教師として多くのことを学ぼうという姿勢でいたほうがいい

感性が似ている、いい悪いの価値判断がほぼ一緒。そういう人と何かをするのはストレスも少なく、居心地もいいものです。しかし、仕事やプライベートにおいて、いつもそのような人間関係ばかりだと、人の成長度合は限られてしまいます。

世間には、実にさまざまな人間がいます。いろいろなタイプの人との付き合いは、間違いなく成長の糧になりますし、人間への洞察力をより一層磨いてくれるはずです。

関連書籍

丹羽宇一郎『仕事がなくなる!』

昨今のAIの進化は凄まじく、多くの中高年が「自分の仕事の賞味期限はいつまでか」と戦々恐々としているだろう。世間では「リスキリング」がもてはやされているが、簡単に身につくスキルを学んだところで、一瞬でAIに追い抜かれてしまう。人生100年時代といわれる昨今、AIを超える働き方をするにはどうすればいいのか。著者は「AIが持ち得ない、人間独自のもの」に注力すればいいのだと力説する。現状維持の働き方を続ける人は、仕事どころか、居場所もなくなる!

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仕事がなくなる!

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丹羽宇一郎

公益社団法人日本中国友好協会会長。1939年愛知県生まれ。元・中華人民共和国駐箚特命全権大使。名古屋大学法学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。98年に社長に就任すると、翌99年には約4000億円の不良資産を一括処理しながらも、2001年3月期決算で同社の史上最高益を計上し、世間を瞠目させた。04年会長就任。内閣府経済財政諮問会議議員、地方分権改革推進委員会委員長、日本郵政取締役などを歴任ののち、10年に民間出身としては初の駐中国大使に就任。一般社団法人グローバルビジネス学会名誉会長、伊藤忠商事名誉理事。

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