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60歳からの文章入門

2023.04.29 公開 ツイート

書くべきは「思う」ことではなく「思い出す」こと 近藤勝重流・文章術 近藤勝重

日記、手紙、エッセイ、物語……。人生経験を積んだ今こそ始めたい、「書く」ことへの挑戦。でも、何をどうやって書いたらいいのかわからない、という方も多いでしょう。そんなあなたにオススメなのが、ジャーナリストで毎日新聞客員編集委員の近藤勝重さんによる『60歳からの文章入門』。テーマの設定から、文法、構成、自分らしい表現まで、読めばスラスラ書けるようになることうけあいの本書から、一部をご紹介します。

*   *   *

文章は自己表現の最たるもの

つねづね僕は文明・文化の知的遺産として第1に言葉、第2に文字、第3に文章を挙げています。

「インターネットは?」などの声も当然あるでしょうが、たとえば物理学者や化学者らがどんな素晴らしい発見をしても、文章でわかるように説明(解説)しなければなりません。そういう意味でも、文章は自己表現の最たるものなのです。

(写真:iStock.com/nortonrsx)

コロナ禍以前の5年ほど、幻冬舎(東京都渋谷区)で年に2回春・秋に文章教室を開いていましたが、実際に受講生のアンケートを読んでも、50歳の主婦から70代の会社社長まで、書く意欲にあふれていました。

自分史が書きたい

「頭の中をこねくり回してでも、自分らしい文章を書きたい

「仕事で感じた怒り、憤り、そして哀しみの思いを綴りたい

「自分が考えて表現したことが伝わり、広がると嬉しい。とにかくみなさんに読んでいただける文章が書きたい

「文章を書いていると、生きる意欲がわく

あるいはこんな一言だけの決意表明も。

書くぞ!

とにかくみなさん前向きでした。

 

本書を手に取られた方々も、きっと負けず劣らず書く意欲に燃えているのでは、とお察しします。この本が手放せない一冊になるよう、僕も「書くぞ!」です。

次節からは、その文章教室で受講生に配布していた「作文10カ条」を紹介して、文章術の本論に入りたいと思います。

覚えておきたい「作文10カ条」

幻冬舎での文章教室では、最初に僕なりにまとめた「作文10カ条」をプリントして全員に配布していました。

(写真:iStock.com/Devenorr)

(1) 何よりも見方。脱社会通念。独自の視点を心がけ、誰も書いていないことを書こう

(2) 常日頃の通俗的な事柄に人間のいじらしさと真実を見つけよう。

(3) 「思うこと」より「思い出すこと」。論よりエピソード。要は自ら体験したネタであれということ。

(4) 主張より告白。自慢話より失敗談。それらを正直に書いて、人間的弱さをさらけ出そう。

(5) 起承転結は「転」のネタが勝負どころ。「起」は場面。「結」はさっと小粋に終わろう。

(6) 「人間とは?」「生きていくとは?」「人生とは?」をいつも念頭に置いて細部に目を凝らそう。

(7) 説明より描写。頭より心。頭は物事の筋道の理解にとどまる。心が納得し、うなずける文章を書こう。

(8) 視る。触る。触るように視る。眼でも聴き、耳で視る。さらに嗅ぐ。味わう。そうして初めて五感が活用できる。

(9) 現在(今の状況の描写)、過去(背景などの説明)、未来(これからどうなる)の順を踏んで伝わる文章を目指そう。

(10) 自分と人、物、自然との関係(距離)を描くこと、それが文章だと心得よう。

 

どれも文章術では欠かせないものですが、僕がとりわけ重視していたのは(3)です。

「『思うこと』より『思い出すこと』。論よりエピソード。要は自ら体験したネタであれということ」

この趣旨説明に、2時間の講義の半分近くを費やしていたほどです。

 

「思う」と「思い出す」の違いですが、辞書にはこうあります。

・思う……胸の中で判断する。「僕はこう思う」

・思い出す……忘れていたことや昔のことを、頭に思い浮かべる。「夏が来ると思い出す」

「思う」は体験とは関係なく、単に胸の中での単純な一つの判断です。比して、「思い出す」は文例にあるように自らが関わった体験や出来事などをともなう言葉なのです。

 

ついでながらの話ですが、以前、毎日新聞社主催の「親子で学ぶ作文教室」を開いた際に、「夏と聞いて思うことは」と子どもたちに問うてみると、「暑い」とか「かき氷」「花火」など、ほとんどが一言の短い言葉でした。

一方、「思い出すこと」では、「海へ行った」「北海道旅行に行った」などの具体的な答えが返ってきて、両者の違いは歴然としていました。

作文では「思ったことを書けばいい」といったことがよく言われますが、思ったことというのは具体的な言葉としてはなかなか浮かんできません。

「思い出す」は、体験した出来事が具体的に浮かんでくるので書きやすいのです。

楽しかったのなら、その楽しさを、つらいと思ったのなら、そのつらさをエピソードなどをまじえて読む人に伝わるように書けばいいわけですね。

 

子どもたちに比べて、人生の折り返し地点を過ぎたみなさんの体験は、いざ書き出せば書き切れないほどあるのではないでしょうか。

さらに体験の日々は悲喜こもごもの出来事をともないます。それらは経験としても身についているでしょうから、年齢とともに体力、気力の衰えはあっても、知力や精神力のカバーもあって、人それぞれに人生の物語を育んでいるものなんですね。

関連書籍

近藤勝重『60歳からの文章入門 書くことで人生は変えられる』

定年を迎える60代。今こそ始めたいのが「書く」ことへの挑戦だ。書いて半生を見つめ直すことが、今後どう生きるかを考えるきっかけになる。本書は「何を書けばいいかわからない」という初心者向けに、(1)話題やテーマを決める→(2)文法や構成を学ぶ→(3)自分らしい表現力を養う、の3部構成で解説。「思うこと」ではなく「思い出すこと」を書く、「私」を削る、「だから」「しかし」も削る、自分だけの「気づき」を鍛えるなど、文章力アップのコツを伝授する。日記、手紙、エッセイ、物語……書き続ければ、それがあなたの生きた証になる!

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60歳からの文章入門

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近藤勝重 コラムニスト、ジャーナリスト

毎日新聞客員編集委員。早稲田大学政治経済学部卒業後の1969年毎日新聞社に入社。論説委員、「サンデー毎日」編集長、夕刊編集長、専門編集委員などを歴任。毎日新聞(大阪)の大人気企画「近藤流健康川柳」や「サンデー毎日」の「ラブ YOU 川柳」の選者を務め、選評コラムを書いている。10万部突破のベストセラー『書くことが思いつかない人のための文章教室』、『必ず書ける「3つが基本」の文章術』(ともに幻冬舎新書)など著書多数。長年MBS、TBSラジオの情報番組に出演する一方、早稲田大学大学院政治学研究科のジャーナリズムコースで「文章表現」を担当してきた。MBSラジオ「しあわせの五・七・五」などにレギュラー出演中。

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