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笑って人類!

2023.03.11 公開 ポスト

爆笑問題・太田光の注目小説『笑って人類!』冒頭を一挙公開!!太田光

「言葉の力」を信じる爆笑問題・太田光、祈りのような書き下ろしエンターテインメント『笑って人類!』、堂々発売!! 冒頭から物語が炸裂する本書から、一部試し読みをお届けします。

――世界の平和のため、ダメダメ総理が獅子奮迅!? 主要国リーダーが集結する “マスターズ和平会議” に極東の小国・ピースランド首相が、まさかの遅刻。そのおかげで惨劇を免れた彼は、ドン・キホーテのごとく立ち上がるが……。

第一部 混乱

 

前夜

嵐の夜。薄暗い部屋ではキキ! キーキー! という耳をつんざくような奇声と、ガチャガチャという金属音が聞こえる。叩きつけるような雨と猛烈な風。壁が時々ギシギシと音をたて、部屋全体が歪む。天井から吊るされたランタンが揺れている。

部屋の中央に白い手袋をした人の姿がある。

前時代的なブラウン管小型テレビの画面が薄青く発光している。風が強くなるたびにザーッと映像が乱れ砂嵐になり、また持ちなおす。何かの拍子に画面が整うと、派手な音楽とともに映し出されたのは宇宙に浮かぶモノクロの地球だ。後ろから土星の輪のように回り込んでくる“WORLD NEWS”の文字。

ニュース番組のタイトル映像だ。

キキキ! キキ! という奇声と、ガチャガチャという金属音の中で人影が「ククク」と笑いを嚙み殺す。白手袋の手が伸び、両手でハートの形を作ると、テレビ画面に浮かぶ地球をその中心に入れた。

画面が切り替わると、風に舞う旗が映し出された。

青い惑星をハートが包み込むシンボリックなデザイン。惑星の下に小さく“SAFETY BALL”と記されている旗が、強い雨と風を受けはためいているのは、銀色に光るドームの天井だ。

南海に浮かぶ小島ハンプティダンプティ島。

進歩から取り残され、うっかりすると世界地図に記載されることすら忘れ去られてしまいがちなおとぎ話の島が、今は世界中から注目されている。小さい島には入り切れないほどの人々が溢れかえり、方々から興奮した声が聞こえてくる。

一斉にライトが点灯し、島中央のドームがライトアップされると、周りから歓声があがる。そこだけ未来の宇宙船が浮かび上がったようで、場違いに見える。それもそのはずだった。ドームは、海上に出現してから何千年、あるいは何万年もの間、文明とはほど遠かったこの島に、突如建造された世界最新鋭の国際会議場なのだ。

ドームの周りにはカラフルな世界中の国旗を掲げた何百本ものポールが立っていた。

各国から歴史的瞬間を伝えようと押し寄せてきたテレビクルーが各々手持ちの照明をつけると、光の中に雨のしずくが反射して霧状に舞い、銀の球体はより幻想的な建物に見えた。

レインコート姿のレポーターが、ドームをバックに風に吹き飛ばされそうになりながら、半ば半狂乱でカメラに向かって絶叫している。

「いよいよこの惑星から全ての争いが消滅する時が訪れたのです!」

レポーターは、喋るたびに口から飛ぶ飛沫が風に煽られ再び自分の顔にかかるのも構わず叫び続ける。迎えうつカメラマンも風に耐え前傾姿勢で撮影しながら、5秒に一度レンズに付着する雨粒をハンカチで拭いている。

「私の後ろにある建物をごらんいただけますでしょうか!」

カメラを向けズームすると一瞬にしてレンズに大量の水滴が付着し、何も見えなくなる。レポーターはすぐにカメラを自分へ引き戻し、カメラマンがレンズを拭く。

「通称シルバードーム、明日の歴史的な瞬間の為に造られた国際会議場です! まさに私は今、その前に立ち万感の思いを禁じ得ずにいるのです!」

レポーターは徐々に朗々と歌い上げるような口調になっていく。その目には涙さえ浮かんでいる。

「ああ……テレビをごらんの皆さん。あなた達はまさに歴史の証人となるのです。有史以来、人類にとって最も重要で誇るべき瞬間が刻一刻と迫っています! ……明日! あの場所で! 全世界! 全ての主要国のリーダーが集結する、マスターズ和平会議が開かれるのです!」

レポーターがオーバーアクションで手を広げた瞬間、レインコートが風を受けて脱げ、アッという間にきりもみしながら彼方へ消えていった。「空撮いけるか?」ハンドマイクを下げ聞くとカメラマンは首を横に振る。「だめだ。さっき無人機を飛ばしたがこの風で墜落したよ……」無理もない。暴風雨だ。どこの国のクルーも似たようなものだった。この日飛ばした、カメラを搭載したドローンは既に200機以上が墜落していた。

「ちっ、何の役にも立ちゃしない」レポーターが悪態をつく。カメラマンはやれやれと首を振った。「……() を世界地図に変えろ」レポーターは局本部に繋がるマイクに指示を出した。

画面が世界地図に変わる。

シルバードームの近くに新設されたホテルのスイートルームで大型テレビを見つめているのは、フロンティア合衆国(ステート)のロック・ホワイト大統領65歳と、側近達だった。ワイシャツ姿で赤のネクタイをゆるめたホワイトはテレビの向かいのソファーに深く腰を落としていたが、その姿勢でも上背があるのは充分わかった。曇りのない白髪をきっちり七三に分け後ろへ流している。年齢を感じさせない潑剌(はつらつ)とした生気がみなぎっている。

両サイドのソファーにはそれぞれ、右に副大統領マシュー、国防長官ローレンス、左に国務長官ダイアナ、安全保障長官アンドリューが座っている。低いテーブルに置かれたグラスには氷とスコッチが入っていたが、誰も手をつけてはいなかった。彼らはテレビが伝える暴風雨やレポーターの絶叫とは裏腹に穏やかな静けさに包まれ、部屋にはリラックスしたムードと張り詰めた空気が拮抗し、微妙なバランスを保つ形で同時に存在していた。レポーターの演技過剰な声が響く。

「人類が誕生してから現在に到るまで、この星に争いが絶えることはありませんでした。大国間同士の戦争を経て、世界中に分散したテロリストと我々“安全な(セーフテイー)球連合(ボウル)”との殲滅(せんめつ)戦争は50年あまりの期間続いたのです!」

画面の世界地図が赤と黒に色分けされていく。赤く染められているのは“安全な球連合”と呼ばれる同盟に参加している国々である。大陸の大半は赤だが、所々に黒く塗られた塊がある。俗に“テロ国家共同体ティグロ”と呼ばれる組織同盟だ。黒い塊は世界中に点在している。元々は国家を解体されるか、あるいはそこから追放された思想も人種も違う人々が分散し、それぞれ武装した集まりに過ぎなかったものが、デジタル端末を通して繋がり、破壊という共通の目的のもと“ティグロ”という名を掲げ、自らが拒否したはずの共同体としてまとまりつつあるのは皮肉でもあった。

「この半世紀、幾つかの和平交渉は行われましたがことごとく失敗してきました」

地図上の各所に爆音とともにキノコ雲が上がるアニメーションが表示される。

「しかしここに二人の歴史的ヒーローが現れたのです!」

レポーターの声のトーンが一段と上がると画面が2分割され、二人の人物の写真が映る。右側はこのスイートルームの主その人であった。

「フロンティア合衆国ホワイト大統領と、テロ国家共同体ティグロ代表ブルタウ将軍です!」

ホワイトはスコッチのグラスに手を伸ばす。カランと氷の音。満面の笑みで手を振る自分自身の姿が映し出された画面を見つめる瞳は、空のように青かった。

「ヒーローらしく見えるか……?」

誰にともなく呟いた言葉に答えたのは国防長官のローレンスだ。「もちろん、申しぶんないです」目はテレビに向けたままだった。やけに白い肌に薄い眉、金髪の頭は両脇を残してかなり禿げ上がっている。ずんぐりとした猫背で上目遣い。

いや、少し偽善的だ。内心呟いたホワイトはスコッチを一気に空けるとテレビに目を戻し自分の左に映る写真の男を見つめた。軍服の胸にたくさんの勲章がある。顔は勇ましい灰色のヒゲに覆われ、眼光は鷹のように鋭い。左肩に乗せたオウムは男のトレードマークだ。まっ白で、冠羽だけが黄色い。目は小さな黒いビーズのようだ。

威風堂々としたその態度は自分よりもヒーローと呼ばれるのにふさわしく見える。

テレビレポーターが絶叫する。

「この二人の和平への努力により、今世紀中には不可能と言われていたホワイト大統領を始めとする安全な球連合代表9カ国首脳にティグロ代表ブルタウ将軍を加えた“9プラス1・マスターズ和平会議”が、ここ南海の孤島ハンプティダンプティ島で実現するのです!」

二人の写真の下からアニメーションの手が出てきて握手すると画面は再び世界地図に戻り、南の海にある小さな島が点滅し、クローズアップされる。南国特有の軽快なBGMが流れ、目が覚めるようなまっ青な海と白い砂浜が映し出される。

「ハンプティダンプティ島は本来の人口わずか500人あまりの小さな島。マスターズ会議開催が決まってからは観光収入目当ての入植者や各国建設事業者などが急激に増え、現在は50万もの人々がいるものの、海抜が低く、50年後には島の全てが海に沈むだろうと言われております。俗に“置き去りの島”と言われ、世界で唯一、安全な球連合にも、テロ国家共同体ティグロにも加盟しない完全に中立の自治国であります。海そのものを国家元首と定め他国への移住を拒否し、いずれ島とともに海に沈むことを選択した国民は、漁と農業により自給自足の生活をし、他国との交流はわずかな観光業を通してのみというまさに置き去りにされた島なのです」

ホワイトは画面を見つめたままスコッチをグラスに()いだ。ろくな資源もない、近い未来消滅することがわかっている小国に投資しようとする国はこれまでどこにもなかった。島民は必要最低限の文明以外拒否する姿勢をとった。どの大陸からもポツンと離れた場所に位置する小さな島は、世界中が通信で繋がった現代社会においても断絶されており、あらゆる意味で忘れ去られた孤島と言えた。

この島をマスターズの開催地にすることを条件に挙げたのはブルタウ将軍だった。現在発行されている地図の中では既に記載されていないものも多くある島を、人類の将来を決定する場として提案された時は、ホワイトを始めフロンティア合衆国首脳陣も戸惑った。しかし冷静に考えればどちらの連合、共同体の影響も受けず、情報を外部に漏らさず会議を成立させられる場所は世界で唯一この地域しか考えられず、これほど適切な場所は他にない。ホワイトはブルタウという男の底知れぬ抜け目のなさを思い知らされた気がした。

BGMがやむと画面は再び嵐の中で吹き飛ばされそうなレポーターに切り替わった。勢いを増した豪雨のせいで後ろのシルバードームはより霞がかり、不気味に光っていた。マスターズの為だけに造られた建物の建築に関わった技術者は、安全な球連合、ティグロ両者からそれぞれ等分に選出された。これもまたどちらかに有利に細工がなされないよう、お互いに監視し合える状況を作る為のブルタウからの提案だった。

ホワイトは再び空になったグラスにスコッチを注ごうとして、ふと後ろからの視線を感じ手を止める。振り返ると皆から少し離れた椅子にアン・アオイが座り自分を見つめていた。短くまとめた髪に大きな黒い瞳は東洋系ということもあり、少女のようにも見え、実際この中では33歳と一番若いスタッフだったが、真っ直すぐに人を見つめる目は彼女の意志の強さを表していた。彼女の卓越した頭脳から出されるアイデアはしばしばホワイトの予想を上回り、それが一部の反対を無視してアンを首席補佐官に任命した理由だった。ホワイトは娘のようなアンの、人懐こい瞳が好きだった。

ホワイトは少し笑って言った。

「わかってる、これを最後にするよ。だが今夜は前祝いだ。あと一杯ぐらいいいだろ。明日の会議には遅れないようにするよ」

周りから笑いが起きる。

「もちろんです大統領」とアン。

ホワイトは安心して一口飲み、テレビ画面に目を戻す。レポーターの絶叫は風の音をマイクが拾うせいで途切れ途切れになっている。

「ここでもう一度……マスターズ参加10カ国を確認しておきましょう! ……フロンティア合衆国、テロ国家共同体ティグロに加え……ユナイテッドグリーン! グレートキングス! コミュンネイション! レヴォルシア共和国! WE連邦! ロマーナ国! ジンミン大国! ……ええと……それから……ん? ……ええと……」

レポーターは言葉に詰まった。口にしたのは9カ国。あともう1カ国あるはずだ。今度は指を折りながらもう一度繰り返す。

「フロンティア合衆国、ティグロ、ユナイテッドグリーン、グレートキングス、コミュンネイション、レヴォルシア、WE連邦、ロマーナ、ジンミンと……ええと……」折れた指は9本。「……ええ……ここで一度、昨日到着した時のブルタウ将軍の様子をごらんください」

映し出されたのは黒い軍用機から登場したブルタウ将軍だった。報道陣に白い手袋をした手を振っている。肩に乗せたオウムは一瞬威嚇するように大きく翼を広げ、閉じた後はおとなしくなった。

マイクをオンの状態にしたままであることに全く気づいていないレポーターとスタッフの会話がテレビから聞こえる。

「おい、もう1カ国はどこだった?」

「もう1カ国? さっきので全部だろ?」

「いや、9プラス1でもう1カ国あったはずだ。どこだ? ……クソ! いつも出てこなくなる」

「いや、あれで全部だよ。他にはない」

「数が足んないんだよ! あと1カ国あるはずだ! ちゃんと確認しろ!」

「知らねえよ! あったら忘れるわけない!」

スイートルームの面々はテレビ局の失態に呆れながらも、視線はブルタウ将軍の笑顔に注がれていた。右の口角だけが上がり、笑顔というより歪んだ顔と言った方がしっくりくる。

「……いつ見ても嫌な顔だ。正直言って信用出来ないな」思わず呟いたホワイトの言葉に側近達が笑う。

「大統領……」

いさめるようなトーンで言ったのはアンだ。ホワイトは笑って右手を上げる。

「確かに今のは失言だ、アン。私だってここまできて今までの和平交渉を無駄にしたりしないさ。明日の会議は必ず成功させる、何が何でもな」

長い道のりだった。ブルタウを和平のテーブルへ引っ張り出すまで何度交渉し根回しをしたか知れない。人類は何十年もの間テロリズムという恐怖に打ち震えてきた。他の国々は9プラス1というホワイトの提案に懐疑的だった。硬化した姿勢を見せる各国のリーダーをなだめすかすように丁寧に説き伏せ、ようやくここまでたどり着いたのだ。マスターズはまさにチームホワイトの悲願だった。ホワイトが掲げた公約“テロリズムとの和解”が達成されれば、この惑星の歴史にホワイト大統領の偉業が残るのはもちろん、その名は人類史に存在する全ての偉人の頂点に刻まれることになるだろう。

ホワイトが立ち上がると側近達も皆立ち上がった。

「私は歴代大統領の中でも最高だと自負してる。優秀な部下に恵まれたという点においてな」

そう言うと彼は側近一人一人と握手をした。「よくやってくれた。君達のおかげだ」政治家として脂の乗りきった堂々たる大統領と比べ、70代後半の副大統領のマシューは老いてぜい弱にも見えたが、ホワイトにとって政治家としてもプライベートの面でも父親のような存在だった。長身で猫背のマシューは、ホワイトの差し出した右手を両手で包み込みうなずいた。次に国防長官ローレンスが固く握りしめるような握手。国務長官ダイアナは、ニックネームが“ダイヤモンドハート(ダイヤの心臓)”というほど強い女だったが、異名とは裏腹に軽く膝を折り会釈しながらの握手。その姿はエレガントだった。安全保障長官アンドリューは冷静な彼らしく儀礼的ともとれる仕草だったが、知る者から見ればそれが彼なりの充分な感情表現であることがわかる握手だった。ホワイトはアンドリューの左手をポンポンと軽く叩き手を離すと、思い出したように呟いた。

「……ところで、さっきのレポーターが忘れてた国だが……」

側近達は黙って大統領に注目する。

「いや、恥ずかしいんだが私も名前が出てこないんだ。マスターズに参加する10カ国、確かにあのレポーターが言う通りもう1カ国あったはずだが、さっきから考えてるが、どうしても思い出せない……」

言われてみればと、側近達も目配せをするが誰も思い当たらない。

「果たして、どこだったかな?」

「ピースランドです」後ろでアンが答える。

「ピースランド! そうだった! あの極東の小さな島国だ……いつも抜け落ちるんだ、あの存在感の薄い国が……」ホワイトは途中で言葉を飲み込んだ。

「すまない」

黒く輝く瞳がホワイトを見つめていた。アンの中にはピースランドの血が流れていた。祖父がかの国の政治学者だったという。彼女の幼く見える顔立ちは、フロンティア合衆国では高校生と言っても誰も驚かないだろう。黒い髪も、時々見せる弱さの奥に存在する芯の強さも、彼女に流れる血に起因するものだろうとホワイトは思っていた。

「君の祖父君の祖国だったな。忘れてたわけじゃないんだ。気を悪くしないでくれ」

そっとアンの手を取るホワイトに微笑ほほえみ、首を横に振る。

「構いません」

「ありがとう。君がいなければロードマップはここまで到達出来なかった」

「いえ」

ホワイトはアンの右手をギュッと握りしめ、左手で彼女の肩を叩いた。彼の言う通り今回の交渉ではアンの功績が大きかった。ティグロの提示してくる身勝手な要求に反発する各国へ直接出向き、ギリギリの交渉をしてきたのはアンだった。外だけではない。チームホワイト内部にも強硬派はいた。ローレンス、アンドリュー、時にはホワイト大統領自身も限界を超え、テロリストになぜそこまで譲歩しなければならないのかと、マスターズ計画は暗礁に乗り上げそうになった。彼らを根気強く説得したのもまたアンだった。

「感謝してる」

アンは何かを思いついたような目をした。

「大統領」

「何だね?」

首をかしげるホワイトに背中を向け、後ろのキャビネットから何かを取り出し、元の位置に戻ると微笑んだ。

「これを……」

アンが差し出したのは一輪の白い花だった。

ホワイトは目を丸くする。

「……ささやかですが、私からのプレゼントです。大統領、マスターズ和平会議開催おめでとうございます」

「ありがとう……」

ホワイトは手にした花を見つめる。たった一輪だが、ラッピングして赤いリボンで巻いてある。

アンにはこういうところがある。聡明で冷静だが、時に何をするかわからない。ちょっとしたサプライズを仕掛けて人を楽しませる。

「この花の名前は?」

「カラーです。堂々としていて、私が一番好きな花です」

アンは少女のような瞳を輝かせた。

花は、流れるような美しいラインでクルッと巻いている。花と呼ぶにはシンプルで、名前の通り白い襟のようで、潔い。

部下達が拍手をする。

ホワイトはアンをハグし、不思議な子だ、と思う。

「今日のうちに渡せるチャンスがあってよかったです」とアン。

「ありがとう」

ホワイトは振り返り部下達を見つめた。

「さて諸君、明日は私が新たな世界の紙幣の、最初の肖像になれるかどうかの重要な日だ」

部下達に静かな笑いが起きる。

「その前に私は少し眠りたい。今夜はそろそろ解散にしよう。まだ飲みたい奴は自分の部屋で飲んでくれ」

部下達はどっと笑うとそれぞれが大統領とハグをし、部屋を出ていこうとする。テレビではまだレポーターの絶叫が続いていた。

「ダイアナ」ホワイトは振り向いたダイアナ国務長官を見てテレビを指さした。

「報道官に連絡させてあのレポーターに忘れてる国はピースランドだと伝えてやれ」

「かしこまりました」

ダイアナは軽く会釈すると部屋を出ていった。

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太田光

一九六五年埼玉県生まれ。八八年に田中裕二と「爆笑問題」を結成。二〇一〇年初めての小説『マボロシの鳥』を上梓。そのほかの著書に『文明の子』『違和感』『芸人人語』などがある。

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