フェミニズムの誕生と、その200年余りに及ぶ世界的展開を鷲掴みした画期的な書『世界一やさしいフェミニズム入門』を上梓した、コメンテーターとしてもテレビでおなじみの山口真由さん。東京大学法学部卒、財務省、ハーバード大学ロースクール、ニューヨーク州弁護士登録など、その華麗なる経歴でも知られていますが、これまでどんな勉強法を実践してきたのでしょうか。くわしくうかがいました。
* * *
「やりたいこと」がなくたっていい
── 山口さんは以前、“自分は勉強が楽しいからしているわけではない”とおっしゃっていて、意外だなと思ったんです。
社会には2種類の人がいると思うんです。好奇心ベースで学ぶ人と、義務感ベースで学ぶ人です。いまの社会は明らかに好奇心ベースに偏重していますよね。私はずっと義務感ベースで生きてきたほうですが、そういう人間もそれなりの数いるはずなんです。
好奇心ベースの人は、自分の好奇心にしたがってやりたいことをやる。義務感ベースの人は、私のように、やるべきことから何をどう学ぶかを引き直していく。自分に合った勉強法、自分に合った目標の立て方があっていいと思います。
── 自分に合った勉強法を探すことは、本当に大事ですね。
私の場合、義務を誠実にこなしていくことが自分の体質に合っているし、勉強を楽しいと思ったことはないと言いつつも、プロセスを着実に歩んでいくことは、おそらく好きなんですよ。
かつては自分のやりたいことって一体なんだろうとか、主体性を持ってやれることはなんだろうとか、一生懸命考えて悩んでいた時期もあるんです。でも、自分が本当にやりたいことを真剣に考えて、いざ、たどり着いた正直な答えが、「家で体育座りをする」か、「耳そうじをする」、だったんですよ(笑)。本当にしたいことなんて、そんなにないです。だから私は、勉強するのは義務感ベースでいいやって思ったんです。
でも以前、エレノア・ルーズベルト(フランクリン・ルーズベルト大統領夫人)について調べたことがあって。女性の権利や人権、社会運動に熱心だった人ですが、彼女も完全に義務感ベースの人だったんですよ。「これをやらなければ」という義務感ベースで日々生きていて、それがある種の偉大な歩みにつながっていった。
歴史の中には、そういう人が何人もいると思うんです。そう考えると、社会が良しとする一つの価値観に、別に自分自身が無理して合わせる必要はないなと思えるんです。
勉強を楽しいものと思わなくてもいい
── 山口さんは学生時代、卒業式で総長賞をもらうほど成績優秀だったそうですが、どんなふうに勉強していたのですか?
私の場合、授業を録音して、それを倍速で何回も聞きながらすべて文字に起こしていました。先生がしゃべったことを完全に再現するんです。そして、そのノートを何回も、何十回も読む。本にもなった私の「7回読み勉強法」は、その経験から生まれたものです。
だから、私のノートを借りようとする人は誰もいませんでした(笑)。「あー」とか「えー」といった意味のない言葉や、雑談もすべて起こしているからです。
私は自分のことをまっさらな紙だと考えていました。自分が何もわかっていないのに、先生のお話に強弱をつけてノートにまとめるなんてできない。そんなのおこがましい、とさえ思っていました。だから、とにかく聞いて、すべてを文字に起こし、それを何度も何度も読みこんでいるうちに立体的に見えてくるものがあるだろう、と考えたんです。
── それはすごいですね。つまらない授業でもやるんですか?
まあ、ほとんどの授業はつまらないです(笑)。ただ、勉強について言わなくてはいけないことは、「楽しいと思うな」ということですね。たまに輝きがあればいいんです。すべてが輝いていると思ってはいけないんです。
大学の先生って研究がお好きな方が多くて、論文を読むとすごいなと思いますけど、授業は正直、「何言っているの?」という方も多いですよね。でも、それをひたすら素直に聞き続けていると、たまに「あ、わかった」って思う瞬間があるんです。
先生がおっしゃっていた、正直、無味乾燥だと思っていた理論が組み上がって、立体的に見えてくる。その瞬間だけが、私は楽しいんですよ。そこに至るまでの道が、つらければつらいほど出会えたものが輝くんです。
── でもそれって苦行ですよね……。やめたくなりませんか?
苦行をこなしたほうがいいんです。何かが見えたときの楽しさを知っていれば、いま自分がその山の頂(いただき)に登っていることも十分味わえるじゃないですか。それは勉強にかぎらず、いろいろなことに言えると思います。
そもそも世の中に、そんなに面白いことってあります? どんなことにも「ワクワクしろ」「ワクワクしなきゃいけない」とか言われるのって、社会から押し付けられた強迫観念だと思います。
先日、テレビを見ていて面白かったことがあって。上京してレストランで働き始めた男の子が出ていたんです。その男の子が、働き始めの初日にシェフに言ったんです。「仕事が楽しくないのでやめます」って。
玉ねぎの皮むきばかりさせられて、楽しいはずはありませんよね。でも、仕事は楽しいものだという観念を植えつけられた人は、そういうふうになってしまう可能性があると思うんです。
自分はセンスがあるから、下積みはやりたくないという人がいてもいいと思います。でも私のように、積み上げて、積み上げて、凡人だけど背伸びし続ければ一定のレベルまで行ける。そして、高次のレベルの楽しさも、苦行の果てに味わえる。そういう考えがあってもいいのかなと思うんです。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】山口真由と語る「『世界一やさしいフェミニズム入門 早わかり201年史』から学ぶフェミニズムのこれまでと今」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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