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コンサバ会社員、本を片手に越境する

2023.01.09 更新 ツイート

「私は、被害者?加害者?」自分の中の、フェミニストvs名誉男性の闘い 梅津奏

「先輩のような人がいるから…」後輩からの異議

 

小中学校時代はガリ勉の優等生で通し、高校は女子高。大学では男性の割合が多かったけれど、周囲にいたのは三度の飯よりディベート好きな変わり者ばかり。

世の中に男女差別があることは知っていたけれど、自分には関係ないと思っていたうっかり者は私です。私は美人でも馬鹿でも気が弱くもないから、「女みたいなもの」ではあっても「女」ではないと思い込んでいた。

……なんという思い上がり。そして吐き気がするほどのバイアス。いえいえ、私はまごうことなく女でした。

 

社会に出たら、急に自分の「女性性」にスポットライトが当たるようになった。

懇親会では必ず偉い人の近くに座れること、女性限定の研修や制度があること、取引先に「女の子の担当は珍しい」と覚えてもらえること、エトセトラエトセトラ。最初は驚いたけれど、どれも一応(男性同期がしつこく言ったように)特権に思えたし、自分はいい時代に生まれたと感謝した。

「なんだか居心地悪いし気持ち悪い」

そうこぼす女友達の声に適当に同調しつつ、「せっかくなら乗っかっちゃえばいいのに」と内心でつぶやく。既に始まっている試合のルールにケチをつけるなんてタブーだ。大人になってから都会に出た私にとって、社会は「ただそこにあるもの」であり、「自分でなんとかできるもの」ではなかった。

 

「先輩のような人がいるから、なにも変わらないんです」

どんどんすれっからしになっていく自分をいっそ清々しいとすら感じていたある日、後輩女性に言われた一言が忘れられない。思い返せば何の因果か、#MeeToo運動が大盛り上がりしていた2017年のことだ。

うまく立ち回れない彼女のために、日頃から「社会における女性仕事」を代行していたつもりだった。先輩へのヨイショだの、根回しだの、懇親会のセッティングや盛り上げ役だの。感謝されこそすれ、そんな恨み言言われる筋合いない。権利ばかり主張して、いつも周囲の人に気を遣わせて、つんと澄まして、あなた何様なのよ。何がしたいのよ。

……そんな私は、いったい何様をかばって彼女に怒っているんだろう? いったい何がしたいんだろう?

この一言は私のトラウマになっていて、いまだに落としどころを見つけられずにいる。私の中で闘っているのは、二人の私。「名誉男性」として男性社会に寄生してきた私と、ハラスメントと差別に傷つけられてきた「フェミニスト」の私だ。

 

おじさんの隣に問答無用で座らされるのは嫌だ。それを遠目で見ながら、私のこと笑っているんでしょう? 本当に大事なことはそっちで話し合っているんでしょう? 学生時代から尊敬していた人に、急に「今日はありがとう。ハグしよう」と言われて断れる女はいるの? それとも、二人で食事するのに同意したとき「私はあなたに異性として好感を抱いています」証明書にサインでもさせられた? 「女は下駄履かせないと出世できない」とドヤ顔で言ったあなた(出世済)、私がニッコリしたのは同意したからではありません。ご自分は生まれながらに竹馬に乗っているのに下駄程度の履物にグダグダ言うなんて滑稽だと思っただけです。

私は強い人間ではないので、二人の私の間をいったりきたり。アイデンティティは常にマーブル模様だ。でも、自分の言動がこの問題を悪化させるようなことだけはしたくない。今では遠くに行ってしまったあの後輩が、いつも私を見ている気がする。

生皮』(井上荒野/朝日新聞出版)

察せられるわけがない、と思えた。肝心なことは何も言わなかったのだから。私も笑っていたのだから。――『生皮』より

小説講座のカリスマ講師が、目をかけていた生徒にセクハラしていたと告発された。「合意があったはずだ。俺たちは特別な関係だった」動揺する男、その妻、被害者の夫、被害者に嫉妬していた講座仲間、記事を見た大学生……。この中にはきっと、あなたに似た人がいるはず。セクハラとはどんな状況と心理で起こるものなのか。周囲の人々のリアルな心模様をリアルに描く、まさに生皮をはがすような一冊。

往復書簡 限界から始まる』(上野千鶴子・鈴木涼美/幻冬舎)

女性は「被害者」だと受け入れない態度は、女性たちの運動に水を差すのでしょうか?――『往復書簡 限界から始まる』より

直近2回連続で芥川賞にノミネートされている作家・鈴木涼美さんと、社会学者・上野千鶴子さんの往復書簡。元AV女優で元新聞記者という経歴の鈴木さんが語る、自分にジェンダー差別の被害者というレッテルを貼ることへの抵抗感。日本のフェミニズムを牽引してきた上野さんは、「自分を被害者だと認めることは強さ」と説く。ページをめくるたび、心の奥底に隠してきた感情があふれ出るのが止められない。

説教したがる男たち』(レベッカ・ソルニット/左右社)

彼女の予言を誰も信じなくなったのは、アポロにかけられた呪いのせいだった。彼とセックスするのを拒否したから、呪われたのだ。――『説教したがる男たち』より

「マンスプレニング(mansplaining)」という造語が誕生するきっかけを作ったとされるのが、アメリカのライター・レベッカ・ソルニット。上から目線で不正確なことを説教してくる男性を揶揄したこの造語、多くの女性にとって「あるある」ではないかと思う。一方、女性が自身について語ろうとすると何よりもまず、嘘だとか妄想だとか誤解だとかその正確性を激しく非難される。不吉な予言を繰り返すせいで皆に疎まれ誰にも信じてもらえなくなった、ギリシャ神話のカサンドラのように。

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梅津奏

1987年生まれ、仙台出身。都内で会社員として働くかたわら、ライター・コラムニストとして活動。講談社「ミモレ」をはじめとするweb媒体で、女性のキャリア・日常の悩み・フェミニズムなどをテーマに執筆。幼少期より息を吸うように本を読み続けている本の虫。ブログ「本の処方箋、どうぞ♪」

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