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文化系ママさんダイアリー

2009.03.01 公開 ポスト

第二十六回

「テレビ漬け育児からの脱出」の巻堀越英美

 以前、我が子が天津木村のエロ詩吟が好きだということを書いたが、ここにきてその好き加減が加速気味だ。0歳児時代は授乳中にテレビでエロ詩吟が流れ出すとハッと乳から顔を上げてガン見する、という程度だったが、歩けるようになるとエロ詩吟が流れるやいなや和室から居間のテレビ前に直行してかぶりつきで鑑賞し、終わるなり拍手して和室へ直帰するという一途な姿を見せるようになった。最近では一緒に吟唱しようとする始末だ。

(してもらってるところを見たいからぁ~)「あ~あ~」
(相手の髪を耳にかけるけどぉ~)
「お~お~」
(すぐずり落ちるぅ~)
「イヒヒ(拍手)」

 声の周波数や独特の抑揚が子供の琴線に触れるのだろうか。ともあれ下ネタとも知らず吟じるさまは我が娘ながらまことにいじらしく、何もわからない今のうちにテレビ漬けにして持ちネタを増やしてやりたいものだと思う。

 エロ詩吟や乗り物のDVDのほかは、大相撲も好きらしい。オムツ的なものをつけた裸の大男たちが組み合ったりすっころんだりしている姿は、1歳児の目にも愉快に映るのだろう。下痢が長引いて元気なのに保育園を休まざるをえない状態になった時に、膝に子を乗せてYouTubeでカピバラやハシビロコウの動画を見せながら仕事をしたりしていたので、いっそう映像好きに拍車がかかってしまった。夕ごはんのあとはパソコン机のところへ行って椅子をポンポン叩き、YouTubeで珍しい動物を見せろと催促するのが日課だ。

 あれほど夢中だった絵本は、今では1日に2、3度持ってくればいいほう。それもお気に入りのページだけ開いて、「アレナニ!アレナニ!」とあれこれ指を指して母に答えさせ、満足したらすぐ閉じるという自分勝手ぶりだ。大人の何倍の濃度で生きているんだか知らないが、子供のマイブームはめまぐるしく移り変わっていく。育児書には一方通行のテレビばかり見せると、言葉が遅れるだの、人と関われない子供に育つだの書いてあるが、何百回も同じ絵本を読まされるのは、なんぼ本好きな母でも厳しいのです。テレビに興味を示してくれて、ホッとしているのが正直なところ。それに子供の興味を尊重するのが大事って言うじゃないですか?

 ただ少し、気になることが。うちの子はまだ母親を呼べない。ジイジ、バアバ、タッタ(お父さん)は言えるのに……。赤ちゃんがいつ、どんなことばを覚える傾向にあるのかを親の投稿を集めて単語別・月齢別に解析したサイト「こども語辞書」によれば、「ママ」を意味する言葉の平均発話年齢は15.3カ月齢。我が子は18カ月。わ、落ちこぼれてる~。そういえば排泄系、ご飯系の語彙も少ない。いや、「子供の発話は個人差があるから気にしてはいけない」という一般論を忘れたわけではないのだが、保育園の行き帰りに「うちの子ママ、パパって言えるようになって」「えーうち11カ月なのにまだ言えない~」なんて立ち話を聞くと、「私もちょっとは気にしたほうがいいのかナー?」と思うのだった。

 勉強、勉強とがみがみ言わず子供の自主性を尊重して好きなことを追求させてやりたい。私に限らず、そう考えている人は多いだろう。そこで暗黙のうちに想定されている「好きなこと」とは、スポーツなりお絵かきなり、おおかたは職業に直結しそうな趣味だったりしやしないか。しかるにその「好きなこと」が、「テレビを見ること」だったらどうする。

 30、40にもなっても就職もせず結婚もせず誰とも口をきかず、ひたすら昼寝してテレビを見ている娘のためにせっせと食事を運ぶヨボヨボの自分の姿が思い浮かんだ……。うっかりすると自分がそんな娘になりかねなかっただけに、リアルに想像できてしまうのが恐ろしい。確かに娘がどんな生き方を選んでも受け容れねばと心に決めたけど、最低限自立はしてほしい。自分が自由に生きるのは好きだけど、他人の自由のために奉仕する人生はイヤ~。テレビ漬け育児、ダメ!ゼッタイ!

 子供の語彙を増やすには絵カードがいいと聞き、公文式の絵カードを通販で購入してみることにした。1セット1000円前後で、乗り物、動物、果物・野菜、花木、あいうえおカードのセットをまとめて買ったら5000円近く。この金額に母の本気を感じたのか、子は絵カードにえらい食いつきがいい。特に「乗り物」セットがお気に入りの様子。絵本やDVDと違って、さまざまな乗り物を掌中に収めている感がいいのだろうか。

 試しにカードを並べ、「ゴミ収集車はどれ?」「パトカーはどれ?」とカルタのようにとらせてみたら、31枚中22枚を正解。次に「これ何?」と指さして聞いてみたら、「ブーブ」「バイク」「バス」「タッチ(タクシー)」「ポッポ(貨物列車)」「ブアー(ブルドーザー)」を答えた。漫然とDVDを見ているようで、いろんなことを学んでいたのねえ。「スゴーイ」と褒め称えると、実に誇らしげである。最後に自分を指さして「これはだあれ?」と聞いてみたが、相変わらずキョットーン。

 でもまあ、我が子が他の子に比べ特別にボンヤリというわけではないことを知れただけでも満足である。母を呼べないのは、単に呼ぶ意味がないからなのだろう。してほしいことがあれば指を指して「ンーー!」とぐずれば、母が「ごはん?」「お茶?」「それともビデオ?」と手を変え品を変え何でも用意してくれるわけなのだから。「これはだあれ?」と聞かれたところで、娘にしてみれば「はあ?お前は私のドレイでしょ?ドレイに名前が必要なの?」という気持ちに違いない。ご飯をくれとかおしっこが出たとか、そこらへんの言葉が出ないのも同じ理由なのだろう。

 それにしても、

1. 知識を披露するのは好きだがコミュニケーションのための言葉は苦手
2. 他の人には愛想がいいがオカンには強気
3. 乗り物好き
4. ビデオ好き
5. ムッツリスケベ

 この娘の特徴、何か既視感が……。あ、オタクだ。

 でも、でも、家にビニ本専用倉庫を所有し、2000本近くのアダルトビデオを所持している谷村新司だって、その知識を生かしてビニ本屋の店長をまかされることもあるというではないか(Wikipedia情報)。谷村新司を持ち出して何を言いたいのかというと、ビデオでもなんでも何事もオタク的に極めれば生計の手段になるわけで、その点うちの娘は有望だという話につなげたかった。エロ詩吟を吟ずる娘よ、自由に谷村新司化していいからね。母はいつまでもそんなあなたを見守ってあげるから……。

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文化系ママさんダイアリー

フニャ~。 泣き声の主は5ヶ月ほど前におのれの股からひりだしたばかりの、普通に母乳で育てられている赤ちゃん。もちろんまだしゃべれない。どうしてこんなことに!!??

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堀越英美

1973年生まれ。早稲田大学文学部卒業。IT系企業勤務を経てライター。「ユリイカ文化系女子カタログ」などに執筆。共著に「ウェブログ入門」「リビドー・ガールズ」。

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