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宇宙はなぜ美しいのか

2021.12.25 更新 ツイート

人類で初めて望遠鏡で月を見たガリレオ。何に一番驚いたのか? 村山斉

人類で初めて宇宙に望遠鏡を向けたのはガリレオ・ガリレイ。今から約400年前のことです。望遠鏡で月を拡大して見たガリレオは、いったい何を思ったのでしょうか?「美しさ」をキーワードに最新の研究成果をやさしく解説した『宇宙はなぜ美しいのか 究極の「宇宙の法則」を目指して』(村山斉著)から、抜粋してお届けします(記事の最後に、村山斉さんの講演会のお知らせがあります)。

*     *    

夜空の星は極上のエンターテインメント

夜空の星は、美しいものです。私たち物理学者や天文学者にとっては研究の対象ですが、皆既日食(かいきにっしょく)や彗星(すいせい)などの現象が「天体ショー」などと呼ばれるように、宇宙は眺めているだけでも楽しくなるエンターテインメントの場ともいえるでしょう。

[1-1]南米 チリのアタカマ高地から見た天の川
Credit : Stphane Guisard, http://sguisard.astrosurf.com

写真[1-1]は、南米チリのアタカマ高地から見た天の川です。写真でもこれほど美しいのですから、現地で見上げたら、宇宙の迫力に圧倒されるのではないでしょうか。

このような「満天の星」は、どこでも見られるわけではありません。現代社会は夜でも明るい場所が多いので、天の川を見たことのある人はあまりいないと思います。また、星空をきれいに見るには、空気や水蒸気に邪魔されないことも必要です。そのため、宇宙を観測する天文台の多くは、標高数千メートルの高地や乾燥した土地に建設されます。

たとえば日本のすばる望遠鏡があるのは、ハワイ島のマウナケア火山の山頂です。標高は富士山よりも高く、約4200メートル。空気が薄く、じっとしていても苦しいので、天文学者も楽ではありません。砂漠や南極で観測する人たちもいますから、本当に過酷な仕事だと思います。多くの地元の人々は天文学に協力的で、観測の邪魔にならないよう、島には街灯がほとんどありません。とはいえマウナケアの山頂は、ハワイの先住民の聖地でもあります。新たな望遠鏡の建設計画もありますが、一部の人の反対運動があり、今後どうなるかはわかりません。

写真のような美しい星空はなかなか見られませんが、私が子どものころは街の明かりがまだ少なかったので、東京でもいまよりたくさんの星が見えました。それをもっとよく見たくて、親に天体望遠鏡をねだったのを覚えています。「うちにはそんなお金はない」と残念ながら買ってもらえませんでしたが、あのころ望遠鏡を手に入れていたら、物理学者ではなく天文学者を目指していたかもしれません。高地や砂漠での厳しい仕事に耐えられたかどうかはわかりませんが。

月は神が支配する完全な球体だと思われていたが……

望遠鏡を人類で初めて宇宙に向けたのは、天文学と物理学の両方の分野で偉大な業績をいくつも残したガリレオ・ガリレイでした。いまからおよそ400年前、1609年にガリレオが最初に望遠鏡で見た天体は、月です。

その姿は、予想とはかなり違うものでした。当時の人々は、神様の支配する天上(宇宙)は地上(地球)とは別世界だと考えており、太陽や月や星などの天体は、すべてツルツルした完全な球体だと思っていたからです。

ところが、ガリレオが望遠鏡で拡大して見た月は、地球と同じように山や谷のあるデコボコした天体でした。その意味では、あまり「美しい」とはいえません。おそらく、ガリレオの発見にガッカリした人もいたことでしょう。

(写真:iStock.com/Morrison1977)

でも、これは実に大きな発見です。天上は別世界ではなく、どうやら地上と変わらないようだ――それに気づいたガリレオは、ガッカリするどころか、大きな感動を味わったのではないでしょうか。見た目のデコボコとは別に、その事実を「美しい」と感じたかもしれません。

というのも、別々に考えられていたものが「同じ」であるとわかったとき、そこに一種の美しさを感じるのが、物理学者の習性だからです。

たとえばアイザック・ニュートンも、「万有引力の法則」によって、天上と地上が「同じ」であることを発見しました。地上でリンゴが木から落ちるのも、月が地球の周りを回るのも、同じ理論で説明できることに気づいたのです。

このように、ひとつの法則でたくさんの事象を説明できる理論のことを、私たち物理学者は「統一理論」と呼びます。一見すると無関係に思える現象が同じ法則にしたがっているということが、私たちにとっては美しく感じられる。物理学者が「感動」や「美しさ」を口にするのは奇妙に思われるかもしれませんが、私たちは、できることなら自然界の森羅万象をたったひとつの統一理論で説明したいと願っているのです。

しかし、その話は後回しにしましょう。

ガリレオ以後、望遠鏡による天体観測は、時代を追うごとに発展してきました。天上も地上も同じ自然界とはいえ、望遠鏡が見せてくれる宇宙の姿は、やはり私たちの日常にはない美しさや驚きに満ちています。まずはその美しさに触れながら、少しずつ宇宙の謎や不思議に迫っていくことにしようと思います。

*   *   *

2022年1月9日13時半から村山斉さんの刊行記念講演会を開催します(会場参加&オンライン)。詳細・お申し込みは幻冬舎大学のページからどうぞ。

関連書籍

村山斉『宇宙はなぜ美しいのか カラー新書 究極の「宇宙の法則」を目指して』

夜空を彩る満天の星や、皆既日食・彗星などの天体ショー。古来より人類は宇宙の美しさに魅せられてきた。しかし宇宙の美しさは、目に見えるところだけにあるのではない。これまで宇宙にまつわる現象は、物理学者が「美しい」と感じる理論によって解明されてきた。その美しさの秘密は「高い対称性」「簡潔さ」「自然な安定感」の3つ。はたして人類永遠の謎である宇宙の成り立ちを説明する「究極の法則」も、美しい理論から導くことができるのか? 宇宙はどこまで美しいのか? 最新の研究成果をやさしくひもとく知的冒険の書。

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コメント

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宇宙はなぜ美しいのか

夜空を彩る満天の星や、皆既日食・彗星などの天体ショー。古来より人類は宇宙の美しさに魅せられてきた。しかし宇宙の美しさは、目に見えるところだけにあるのではない。これまで宇宙にまつわる現象は、物理学者が「美しい」と感じる理論によって解明されてきた。その美しさの秘密は「高い対称性」「簡潔さ」「自然な安定感」の3つ。はたして人類永遠の謎である宇宙の成り立ちを説明する「究極の法則」も、美しい理論から導くことができるのか? 宇宙はどこまで美しいのか? 最新の研究成果をやさしくひもとく知的冒険の書。

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村山斉

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)教授、カリフォルニア大学バークレー校マックアダムス冠教授。1964年東京都生まれ。91年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。東北大学助手等を経て2000年よりカリフォルニア大学バークレー校教授。02年、西宮湯川記念賞受賞。07年から18年10月までカブリIPMUの初代機構長。専門は素粒子論・宇宙論。世界の科学者と協調して研究を進めるとともに、市民講座などでも積極的に活動。『宇宙は何でできているのか』(幻冬舎新書)、『宇宙は本当にひとつなのか』(ブルーバックス)、『宇宙を創る実験』(編著、集英社新書)、翻訳絵本『そうたいせいりろん for babies』(サンマーク出版)など著書多数。

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