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ゴルフは名言でうまくなる

2021.11.14 更新 ツイート

第198回

「ゴルフとは、1mmでもいいから目標に接近したい欲が相手の葛藤のゲーム」――パット・ワード・トーマス 岡上貞夫

「刻む」か「挑戦するか」を迷ったら100%刻むべき

パット・ワード・トーマスは、35年間にわたってボビー・ジョーンズら世界の一流ゴルファーを見て記事にしてきた、著名なゴルフ記者である。

1926年、のちに「球聖」とまで称されるボビー・ジョーンズが初めて出場した全英オープンの第1ラウンドで出したスコアは、現在でも「ゴルフ史上最も美しいスコア」といわれている。内訳はアウトが「33」でインも「33」。ショット数は「33」でパット数も「33」と、すべて3で表現できる。

 

パー5のホールはすべてバーディの「4」。パー4のホールはパーの「4」またはバーディの「3」、パー3のホールはすべてパーの「3」で上がり、スコアカードには「3」か「4」しか書かれていなかった。

このスコアカードを見て、「これこそ、ゴルフ史上、空前絶後の均整美のとれたスコアだ」と書いたのがパット・ワード・トーマスだった。

そのトーマスが言うには、ゴルフで勝利するのは、誰しもが持っている強い「前進本能」を巧みに制御できた者だけとのことだ。

「いかに刻むか、前進本能を巧みに制御できた者だけが勝ち残る。果敢に攻めることも必要だが、同時に制御の方法も学ぶべきだ。強引な挑戦の成功率は5%、これが私の得た数字である」

世界の一流選手を観察してきたトーマスは、重大な局面でいかに刻むかが、勝敗を分けることを見極めていたようだ。

たとえば200ヤードでフェアウェイを横切る川に届くという場合、平凡な選手は10%ほど短い距離、つまり180ヤード辺りを目標に定める。しかし、トーマスは20%短い160ヤードに目標を設定するような選手が、結果として勝ち残るのを目の当たりにしてきたのだ。

10%落として180ヤードを目標にすると、突風が吹いたり、ボールの落下地点のマウンドで思わぬキックをしたりで、予想外に20ヤードぐらい飛んでしまうことがある。とくにスコットランドのリンクスでは風が強く、自然のままを生かしたマウンドがフェアウェイのいたるところにあるのだ。

勝負どころで「刻むか、挑戦するか」と迷うときに「刻み」を選択する勇気があるかどうかも重要だが、「いかに刻むか」はそれにも増して大事な判断なのだ。刻むのなら、中途半端なことはせず、100%ハザードに届かない距離を目標設定すべきだ。

トーマスが言うように「強引な挑戦の成功率は5%」なのであれば、ストロークプレーで「刻むか、挑戦するか」を迷うようなときは、100%「刻み」を選択すべきだろう。5%の成功率に賭けて挑戦するのは、マッチプレーで「それをやらなければホールの負けになる」というときぐらいだ。

だから、通常ストロークプレーでラウンドしているアベレージゴルファーはもちろん、シングルクラスでも、よほどの自信がない限り、挑戦的なショットは避けて通るべきといえるだろう。

「1mmでもピンに近づきたい」本能を制御できるか

とくに、シングルの一歩手前で足踏みしているようなゴルファーは、「刻み」を洗練させることが、一歩進んでシングルになれるかどうかの分かれ道だ。

一口に「刻み」といっても、2種類あると思う。

  1. ウォーターハザードやOB、バンカーや谷へ下る左足下がりのライなどを避け、それらに届かないようにショットするケース
  2. 左右が狭く、ドライバーでは少しでも曲がるとトラブルになりそうなホールで、飛距離よりも正確さを優先してショットするケース

いずれの場合も、「前進本能」に負けると、未練たらしく刻んでしまいがちだ。しかし、1mmでもピンに近づきたいと願う本能は、制御することがなかなか難しい。

1.のケースではギリギリでハザードに届かず、かつ最もピンに近いエリアを狙ってしまいがちだし、2のケースでもドライバーを使うことは思いとどまっても、次に飛ぶクラブであるスプーンを選択するゴルファーがほとんどだろう。

1.のケースでは、ウォーターハザードやバンカーを避けて刻むことが多いが、ハザードの近くというのはハザードへ入りやすいように傾斜がつけられていることが多い。ギリギリ入らないだろうで打ってしまうと、思いのほかよく転がってハザードに吸い込まれてしまうことになる。

なんとかハザードには入らなかったとしても、そこは傾斜地だからあまりいいライとはいえない。ボールはハザードの外でも、スタンスはハザードの中になってしまうこともある。これでいいショットは望めないだろう。

ここで冷静に「前進本能」を抑制し、もっと手前の平らでライのいいエリアを探し出して目標に設定することができれば、残り距離は長くなってもナイスショットの確率は上がる。10ヤードや20ヤード遠くなっても、ナイスショットの確率が高いほうがグリーンをとらえる確率も高いはずだ。

大胆に刻むことで流れを引き寄せる

1896年の全英オープン、3連覇がかかっていたゴルフ三巨人のひとり、ジョン・ヘンリー・テイラーは、比較的早いスタートだったためクラブハウスリーダーとなって後続組の有力選手のスコアを見守ることになった。

テイラー自身も「パッとしない出来だった」と回顧しているが、後続組の選手はもっとよくなかった。これは3連覇間違いなしとほくそ笑んでいたところ、最終組のハリー・バードンがじりじりと追い上げてきたのだった。

バードンはこのとき24歳でテイラーよりひとつ若いだけだが、遅咲きだったのでこれが初めての全英オープンだった。テイラーは気になって18番ホールへ向かい、バードンのプレーを見ることにした。

バードンの回顧録には次のように書かれている。

「18番は427ヤード、思い切りよく打ったドライバーは絶好の位置にあり、ブラッシーでグリーンを狙えば届く距離だった。しかしグリーン手前のバンカーは傾斜がきつくピンの位置を考えると寄せるのは至難、バンカーに入れた時点でテイラーには並べなくなる。誘惑を絶つのは勇気のいることだが、タイスコアなら勝つチャンスは5割あると考えて、間違ってもバンカーに入らないクラブで刻むことにした」

一方、テイラーは回顧録で以下のように振り返った。

「バードンがセカンドショットをどうするか、私は息をのんで見守った。うわさでは冷静沈着な男と聞いているが、ここで勝負をかけてくるなら恐るるに足らずと思っていた。なぜなら、ブラッシーでフルショットしたボールがグリーンをとらえる可能性はゼロに近いからである。ところが思案の末に彼は短いアイアンを抜いたのだ」

刻むのなら大胆に刻む、この潔さを目の当たりにしたテイラーに戦慄が走った。バードンの戦略に不気味なほどの自信を感じたのだ。結局プレーオフとなり、終始優位に立ったバードンが4打差をつけ、新チャンピオンの誕生となったのだった。

バードンはこれを皮切りに6度の全英オープンチャンピオンに輝き、この最多優勝記録はいまだに破られていない。「刻むときは大胆に刻む」ことが決して消極策でなく、いかに大事で有効かを示すよい実例といえるだろう。

次に2.の「左右が狭いときのティーショットでの刻み」だが、前述したように自動的にスプーンを選択するゴルファーが多い。しかし、スプーンはフェアウェイでもよほどライがよくないとうまく打てないもので、スプーンなら曲がらないと自信を持てる人は少ないのではないだろうか。

あまり自身が持てないのに、いくらティーアップできるとしても、不安を払拭できるだろうか。不安が残るまま打っては、やはり曲がるものだ。

ではどうするか。スプーンに自信を持てないなら、バッフィ、それも不安ならユーティリティ、それさえも不安ならアイアンだっていいのだ。「このクラブなら、まずトラブルになるところまでは曲がらない」と自信を持てるクラブを大胆に選択すべきなのである。

左右が狭いホールというのは、たいてい距離は長くないものだ。Par4でせいぜい350ヤード以下だろう。たとえアイアンで150ヤード打って刻んだとしても、そこから200ヤード以内でグリーンだから、セカンドをユーティリティなどで打てばほぼグリーン近くまで行ける。そこからは、たいがいパーかボギーで上がれるし、ダブルボギーになることも少ないだろう。

もしもドライバーやスプーンで打って林やOBだったら、よくてダブルボギーなのだから、結果をみればどちらがいいかは歴然としている。それに、狭くて危険なホールを心理的に苦しまずに通過できることで、次のホール以降のプレーにも余裕が出る。

このように、「前進本能」をうまく制御して大胆に刻むことで、そのホールのスコアだけでなく、ラウンド全体の流れもよくなるものだ。1mmでもピンに近づきたい気持ちはよくわかるが、ゴルフはやりたいことの反対をしたほうが結果がよくなる不思議なゲームなのである。

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岡上貞夫

1954年生まれ。千葉県在住。ゴルフエスプリ愛好家。フリーライター。鎌ヶ谷カントリークラブ会員。1977年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。大学入学時は学生運動による封鎖でキャンパスに入れず、時間を持て余して体育会ゴルフ部に入部。ゴルフの持つかすかな狂気にハマる。卒業後はサラリーマンになり、ほとんど練習できない月イチゴルファーだったが、レッスン書ではなくゴルフ名言集やゴルフの歴史、エスプリを書いたエッセイなどを好んで読んだことにより、40年以上シングルハンディを維持している。初の著書『ゴルフは名言でうまくなる』(幻冬舎新書)が好評発売中。

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