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命知らず 筑豊どまぐれやくざ一代

2021.09.06 更新 ツイート

刑務所内でも密売で荒稼ぎ - 四代目工藤会・会長代行を務めた天野義孝の半生 本堂淳一郎

特定危険指定暴力団工藤会の総裁野村悟被告に死刑判決、会長の田上不美夫被告には、無期懲役の判決が下されました。そもそも工藤会とはどのような組織なのでしょうか。暴力団組織には、それぞれ複雑な背景、歴史があるようです。

幻冬舎アウトロー文庫より2002年に発売された『命知らず 筑豊どまぐれやくざ一代』は四代目工藤会・会長代行を務めた破天荒ヤクザ・天野義孝の半生を描いた、荒ぶる魂のドキュメントです。一部を抜粋してお届けします。

*   *   *

刑務所内でのしあがっていく天野

天野は早々に悪名高い竹細工の工場から転属になった。新しい職場は、織物工場のかすり工である。といっても織るのは刑の長い熟練工で、天野は学歴を買われて帳簿係などをやらされたが、これがのしあがるきっかけになって行く。

なにしろ受刑者は監房がすし詰めになるほどだし、短期刑で出所する者がいれば、新しい受刑者も次々に入ってきて、新陳代謝はつねに行われているのだ。計数に明るいうえ、初夜の武勇談が生きていることもあって、天野は次第に兄貴格になり、織物工場のトップの座を占めるに至るのである。

新入がおりてきたらその配置をしたり、担当と売り上げの帳簿合わせをするなどの雑役がそれで、かなり楽な立場に就くことになってみれば、天野の血が騒がないわけがない。

(写真:iStock.com/FooTToo)

「兄貴、なんやおもろいことおまへんか。あちゃこちゃでボロい話、わしら聞くだけでっせ」

「まあ、待てち。わしにも考えがあるけん。ボテやんのとこ、少々溜まったのか」

「少々どころではありまへん。じいやん、兄貴がおるんで強う言わんけど、次が借りにくうなりまんねん」

「なら明日あたり荷が入るき、ぼちぼちやってみようか」

「頼んます兄貴、手伝うことあったら、なんぼでも言うてや、この通りだす」

手を合わせたのは関西から来た男だった。勝手に天野を兄貴分とたて、天野もまた舎弟分として可愛がっていたのだが、このところ博奕につきがなく、ボテやんに借金が溜まっていたのだ。放っておけば利息は雪だるまのように増えてゆく。

天野にしても、血が騒ぎ出してきたときの頼みであり、当てはなくもなかったのだが、結果的には舎弟分の頼みで腰を上げたのがよかったようである。

刑務作業の製品を横流し

荷はだいたい定期的にきていた。主として水巻町など北九州や久留米市あたりの委託業者が、久留米絣の素材をどんと送ってくるのだ。素材とは絵柄を染めつけてある糸のことである。

糸といっても大きな巻糸で、それは染料などに使うチタンのノリで固めてあり、織る場合はそのノリを大型の櫛を使って落とし、絵柄を合わせて織機へかけるわけだ。

(写真:iStock.com/mofles)

1梱包は4匹あり、1匹が2反分だから4匹で8反。それが一度にどんと送られてくる。だいたいが25梱包で200反、多いときは50梱包ほどくるときもあれば、業者の都合で途切れるときもあった。

天野が明日と言ったのは、ちょうど素材のくるのが遅れていたときで、担当へ「まだ来んが、どうなっとるばい」とやかましく催促していて、やっと返事が貰えたからだった。織工は仕事が忙しいと文句を言うが、いざ決行となれば、ゆるやかな進行では品数も帳簿面もごまかしがきかないのである。

 

そうして翌日、素材が送られてきた段階で天野は、思い切って5梱包ほどを荷から抜いた。抜くといっても梱包ごと隠すわけにはいかないから、担当の目を盗んで記載から外しただけで、荷はそのまま工場へ送られ、ノリ落とし、絵柄合わせと順繰りに絣工の手に渡ることに変わりはない。

それまで荷が遅れ気味だった工場は活気づいた。きれいな絣柄の反物が、次から次へと仕上がってくる。

今度は天野の指示で舎弟分がそれを少しずつ抜く番である。5梱包分40反。つまり筒状の反物40本を、納期まで少しずつ自然に抜き去り、終了した段階で帳簿面が合うようにすればいいのだ。

抜いた反物は舎弟が天井裏へ隠した。工場から持ち出した畳紙たとうがみなどを敷いて湿気や虫つきを防ぎながら、1本ずつ積み重なって行くそれは、やがて天井裏では小山ほどに盛り上がっていった。

その間に天野は、炊事係と馴染みの看守に話を通した。炊事係は反物の運び出しに一役買って貰うためであり、看守はその売り捌きに協力して貰うためであった。もちろん売り上げに応じて分け前の金額も決めた。

話はすんなりと通った。

 

食事の時間、天野と舎弟は反物を隠し持って食堂へ出向いた。大人の着物1枚分の反物は、筒状の幅が40センチ弱、直径が芯を入れて8センチぐらいだから、1本ぐらいなら隠し持ってもそう不自然にはならないのだ。

一方で炊事係に湯桶は欠かせない。いまでいえばテーブルワゴンだが、当時はトロッコなみの台車にのせて運び、空になったところで持ち帰る。天野はかねてから、その空桶を狙っていたのだった。

お互いが目くばせをする。

空の湯桶を積んだ台車が天野たちの傍を通り過ぎる。その瞬間に反物は炊事係の手から湯桶に入って炊事場へ下げられるのだ。

馴染みの看守がどうして手にするかはわからないが、そのぐらいは簡単なことなのだろう。半分ぐらい渡した頃から、まとまった金額が天野に届くことになった。

(写真:iStock.com/Hanasaki)

思わぬところから密売の足がつき…

「兄貴、全部売れたらえろう金持ちになりますまんねん」

「ボテやんには返済したんかい」

「じいやん、猫に魚の骨むしって食わせとったけど、ニヤーッと笑うて」

「知っとるんかいの」

「刑務所の裏側はなんでも知っとるような顔をしてまっせ、あのじいやん」

「天国の裏案内人じゃけん、ま、よかと」

天野にしても、ほくそ笑む思いである。

 

ところが、すべて売り捌いた頃に、思わぬところから密売の足がつくことになった。帳簿面もルートも完璧を期し、細心の注意を払った天野だったが、売り捌く時期が早過ぎたことには気付かなかったのである。

きっかけは、久留米あたりを回ってきた業者が大牟田線で福岡刑務所へ来る途中、自分が納入したはずの久留米絣を乗客が着ていたことにあった。刑務所へ納入した絵柄はその年の新柄であり、織り上がった反物は返ってきてはいても、一斉に売り出すため、量が揃うまで倉庫に保存しているはずなのである。

「お客さん、あんたこれ、どこで買いなさったか、珍しいええ柄やけど」

業者はさりげなく訊ねた。そうして紆余曲折はあっても、返ってきた答えが「刑務所の職員」だったのだろう。業者が訴え出て事件は明るみに出たのである。

*   *   *

本連載は今回で最終回。続きは幻冬舎アウトロー文庫『命知らず 筑豊どまぐれやくざ一代』でお楽しみください。

関連書籍

本堂淳一郎『命知らず 筑豊どまぐれやくざ一代』

命知らずの底抜けぶりで、男にゃ強いが情けにゃ弱い。成り行きで揉め事に関わっては指名手配され、度重なる留置場生活、懲罰、拷問、脱走――。兄弟や舎弟は各地にいても、組織嫌いの愚連隊を公言し、揉め事あれば常に一番乗りで大暴れ。現在、四代目工藤會・会長代行を務める九州のヤクザ、天野義孝の破天荒な半生を描いたドキュメント。

本堂淳一郎『<兇健>と呼ばれた男』

九州のヤクザがもっとも恐れたという、伝説の男がいた。闇に葬られし者、数知れず。GI襲撃事件、別府殴り込み、急行高千穂事件など、想像を絶する剛腕を振るった逸話も枚挙に暇無し。常にその日を精一杯に生きて、"関門の虎"という誇りを心に強く持っていたヤクザ――大長健一。その秘められた荒ぶる生涯を辿る壮絶なドキュメント。

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命知らず 筑豊どまぐれやくざ一代

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