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探究する精神

2021.04.05 更新 ツイート

大学までの勉強の3つの目標とは? 大栗博司

世界的に活躍する物理学者・大栗博司さんが、自身の半生を振り返りながら、研究の喜びや基礎科学の意義について論じた『探究する精神――職業としての基礎科学』からの抜粋を、3回にわたってお届けします。第2回は、勉強の目標です。大学までの勉強の目標と、大学院からの勉強の目標は、どう違うのでしょうか? 記事の最後には、オンラインで開催する刊行記念イベントのご案内があります。こちらも合わせてご覧ください。

(写真:iStock.com/Milatas)

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知識を身につけるだけじゃない

日本人は義務教育の9年間、さらに高校大学まで行く人は16年間を勉強に充てます。一人ひとりがこれだけの時間の投資をするのですから、勉強の目標を考えるのは大切なことです。

欧米の教育には「リベラルアーツ」という伝統があります。これは古代ギリシアやローマの時代に始まったもので、リベラルとは自由、つまり奴隷ではないという意味です。リベラルアーツとは、自らの意思で運命を切り開いていくことが許される自由人の教養を意味します。

このリベラルアーツには、合理的な思考法を学ぶ算術、幾何、天文の3科目と、説得力のある言葉で語るための論理、文法、修辞の三科目、これに音楽を加えた7科目があります。つまり、自分の頭で合理的に考え、それを説得力のある言葉で語ることができることが自由人の必要条件だったのです。

これを参考に、大学までの勉強には次の3つの目標があると私は考えています。

  1. 自分の頭で考える力を伸ばす
  2. 必要な知識や技術を身につける
  3. 言葉で伝える力を伸ばす

1と3の目標はリベラルアーツにならい、2の目標はそのために必要なものとして入れました。

日本の教育基本法の第1条には、教育の目的は「人格の完成」と「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」であると定められています。民主主義が機能するには、上から押しつけられた結論を受け入れるのではなく、自分の頭で自由に考え判断できる国民が必要です。また、インターネットからの情報の洪水に押し流されず、本質を捉え、新しい価値を創造するためには、自分で考える力がこれまで以上に大切になります。これが私の考える1の目標です。

数学の勉強も自分の頭で考える練習になります。数学では、権威や宗教に頼らず、万人に受け入れられた論理だけを使って真実を見出す方法を学ぶからです。リベラルアーツに算術と幾何の2科目が入っていたのもそのためだと思います。

2の「必要な知識や技術を身につける」というのは、教育の目標として納得しやすいものです。自分の頭で考えると言っても、知識がなければ深い考えを持つことはできません。また、卒業後に社会に貢献する職業に就くためにも、知識や技術は重要です。

私は、学校での勉強のほかに、様々な本からも学びました。インターネットのない時代に、書店にはこの世界についてのあらゆる知識が私を待っていました。カリフォルニア工科大学の教授になった時に、この大学の校訓が、『ヨハネによる福音書』にある「真理はあなたを自由にする」という言葉だと聞いて、柳ヶ瀬にあった自由書房のことを思い出しました。真理を知ることで自らの意思で運命を切り開いていく自由人になれる。自由書房は名前のとおりに私を自由にしてくれた場所でした。

3の「言葉で伝える力を伸ばす」は日本の教育の弱点です。日本人は英語が苦手なので国際的な場面で損をしているとよく言われます。しかし、私は英語教育だけでなく、国語も含めた言葉の力の育成を総合的に考え直す必要があると思っています。これは重要な問題なので、本書第三部の「言葉の力を徹底的に鍛える米国の教育」の節で改めて議論します。

この3つは大学までの勉強の目標です。大学院に進むと全く別の目標が待っています。それについては、本書第二部の「大学院でつけるべき三つの力」の節でお話ししましょう。

*   *   *

本書の刊行を記念して4月18日(日)午前10時よりオンライントークイベント「勉強って何のためにするんだろう?」を開催します。トークのお相手は東京大学教授・横山広美さん。中学生・高校生や、文系出身の方にもお楽しみにいただける内容です。詳細・お申し込みは「幻冬舎大学のお知らせ」からどうぞ。

関連書籍

大栗博司『探究する精神 職業としての基礎科学』

自然界の真理の発見を目的とする基礎科学は、応用科学と比べて「役に立たない研究」と言われる。しかし歴史上、人類に大きな恩恵をもたらした発見の多くが、一見すると役に立たない研究から生まれている。そしてそのような真に価値ある研究の原動力となるのが、自分が面白いと思うことを真剣に考え抜く「探究心」だ――世界で活躍する物理学者が、少年時代の本との出会いから武者修行の日々、若手研究者の育成にも尽力する現在までの半生を振り返る。これから学問を志す人、生涯学び続けたいすべての人に贈る一冊。

大栗博司『重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』

私たちを地球につなぎ止めている重力は、宇宙を支配する力でもある。重力の強さが少しでも違ったら、星も生命も生まれなかった。「弱い」「消せる」「どんなものにも等しく働く」など不思議な性質があり、まだその働きが解明されていない重力。重力の謎は、宇宙そのものの謎と深くつながっている。いま重力研究は、ニュートン、アインシュタインに続き、第三の黄金期を迎えている。時間と空間が伸び縮みする相対論の世界から、ホーキングを経て、宇宙は10次元だと考える超弦理論へ。重力をめぐる冒険の物語。

佐々木閑/大栗博司『真理の探究 仏教と宇宙物理学の対話』

心の働きを微細に観察し、人間の真理を追究した釈迦の仏教。自然法則の発見を通して、宇宙の真理を追究した近代科学。アプローチこそ違うが、この世の真理を求めて両者が到達したのは、「人生の目的はあらかじめ与えられているものでなく、そもそも生きることに意味はない」という結論だった。そのような世界で、人はどうしたら絶望せずに生きられるのか。なぜ物事を正しく見ることが必要なのか。当代一流の仏教学者と物理学者が、古代釈迦の教えから最先端の科学まで縦横無尽に語り尽くす。

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コメント

幻冬舎新書  〈民主主義が機能するには、上から押しつけられた結論を受け入れるのではなく、自分の頭で自由に考え判断できる国民が必要です。…情報の洪水に押し流されず…新しい価値を創造するためには、自分で考える力がこれまで以上に大切になります〉 探… https://t.co/RDEPCqMycX 2日前 replyretweetfavorite

探究する精神

世界で活躍する物理学者が、少年時代の本との出会いから武者修行の日々、若手研究者の育成にも尽力する現在までの半生を振り返る。これから学問を志す人、生涯学び続けたいすべての人に贈る一冊。

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大栗博司

カリフォルニア工科大学 ウォルター・バーク理論物理学研究所所長、フレッド・カブリ冠教授、数学・物理・天文部門副部門長。東京大学カブリIPMU 主任研究員も務める。1962年生まれ。京都大学理学部卒、東京大学理学博士。東京大学助手、プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを歴任。専門は素粒子論。2008年アイゼンバッド賞(アメリカ数学会)、高木レクチャー(日本数学会)、09年フンボルト賞、仁科記念賞、12年サイモンズ研究賞、アメリカ数学会フェロー。著書に『重力とは何か』『強い力と弱い力』(幻冬舎新書)、『大栗先生の超弦理論入門』(ブルーバックス)、『素粒子論のランドスケープ』(数学書房)がある。

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