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欧米や他のアジア諸国と比較して、日本のデジタル分野での遅れは深刻です。さらにコロナ禍でその差は広がり、もはや日本は技術後進国だという声まで聞こえるようになりました。『シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養』(山本康正著、幻冬舎)ではこの現状に警鐘を鳴らしつつも、そんな未曽有の危機が日本企業にとってチャンスにも転じることを説いていますこのデジタル時代を生き抜く人材になるための方策を収録した、本作の一部を紹介します。

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資金よりもデータを持つ者が勝つ

金融とITを掛け合わせた新しいサービスやソリューションをファイナンスとテクノロジーの合成語で、フィンテック(Fintech)といいます。主に英米と中国で発展し、日本ではまだその浸透が海外に比べて進んでいないといわれる分野です。

日本ではキャッシュレス決済さえ普及しておらず、相変わらず月末等の支払い日になると銀行の支店に人があふれているような状況です。一方中国では現金を使う人はほとんどおらず、QRコードによる決済が進んでいます。アメリカでも、ミレニアル世代を中心にスマホアプリでのオンライン投資が盛んですが、日本の若者でスマホアプリを使って投資している人は少数派です。

こうした違いはどこから生まれるのでしょうか。今回は海外の金融事情に詳しい北村充崇氏のお話を紹介します。

フィンテックという言葉自体は二〇〇三年頃からあります。ですが、ビジネスとしては二〇〇八年に起きたリーマンショック以降に普及していったというのが一般的です。

「GAFAなどシリコンバレーを中心として出てきたテクノロジーは、いつの間にかすべての人間の生活に関わる存在になりました。そして、金融分野でもこれらの企業が同様に影響力を強めています。歴史的な恐慌によって金融の自由化・規制緩和が進んだことで、デジタルに強い企業も金融業に参入してきたのです。こうした企業が参画すれば、テクノロジーと金融を融合させようという発想が生まれるのは当然のことでしょう。こうしたGAFAの姿勢もあって個人向けのフィンテックは急速に広まっていきました」(北村氏)

さらに規制緩和に付随して行われた低金利政策がこの傾向に拍車をかけます。リーマンショック以降、多くの国の政府がこの政策を進めた結果、世界中で金が大量に余ってしまいました。金融機関としては融資の申し込みを待つのではなく、積極的に融資先を探さなければならない事態となり、世の中にさらなる変化が訪れたのです。

効率良く融資先を探すためには何が必要でしょうか。同氏によれば、これまでの結果に裏打ちされたデータだといいます。データがあれば個人と企業の信頼度や成長性もわかるので、融資の申し込みや審査を簡単かつ正確にできるのです。

こうした理由からデータを用いたサービスが求められ、そのためにはAI技術も必要になるのでデジタルに強いスタートアップが次々と参入してきたといいます。この傾向が広がっていき、フィンテックの事業者が急激に増えていきます。そして彼らが、既存の金融機関を支援するという新しい体制も生まれました。

デジタル企業が、個人向けのサービスとして新規に金融業界に参入するか、既存の金融業者に向けた業務サービスを始めるか、という二つの方面からフィンテックを急速に推し進めたのです。

現代では金の価値が下がっているのに対して、データの価値が上がっています。データを活用して新規の融資先を探したり、投資先を探したりするなど、フィンテックとデータは切っても切り離せません。資金を持っている者ではなく、データを持っている者が成長する世界だといえます。

(写真:iStock.com/AdrianHancu)

銀行のビジネスモデルを覆すデジタル企業

アマゾンをはじめとするデジタル企業の金融業界への参入に対抗するため、アメリカのメガバンクは軒並みシリコンバレーにオフィスを構えるようになりました。様々なスタートアップと協業して新しい金融サービスを作ろうと努力したのです。

アメリカのメガバンクは、たとえばアマゾンに対してどのような危機感を抱いていたのでしょうか。

北村氏が挙げてくれたのがアマゾンキャッシュや、アマゾンカードの脅威です。銀行口座やクレジットカードを持たない人でも、ネット通販を可能とするこれらのサービスなら預金の代わりにすることが可能となります。両サービスの普及は、個人から集めた預金を事業者に貸し出して利息を稼ぐという、銀行のビジネスモデルを否定するものです。

「世界的な低金利の中、アマゾンポイントを金利とみなせば、預金するよりアマゾンキャッシュに換えておいたほうがお得かもしれません。事実、アメリカでは銀行口座を持たない人々が三千三百五十万世帯もあり、そこにアマゾンはどんどん食い込んでいます」(北村氏)

さらに法人向け融資サービスのアマゾンレンディングも恐ろしい存在だと続けました。従来ではメガバンクの融資先になるには、スタートアップだと与信が不足していましたが、現在はeコマースの発展によって目を見張る成長曲線を描く企業が数多く登場しています。

そしてそんな急速な成長を支えるには資金調達が必要とあって、法人向けの融資もアマゾンをはじめとするEC業者が担うようになりました。

「オンライン業界にいる人たちのほうが、オンラインで伸びる会社の見極めが上手だというのは当然でしょう。メガバンクが融資をしないような会社でも、EC業者なら貸すというケースが大変多くあるのです。そうなるとスタートアップが大きくなってもEC業者から借りることになり、その頃にはメガバンクが入っていく余地がなくなってしまいます」(北村氏)

しかもここに、アマゾンとは別のデジタル企業も融資の提案をしてきます。こうした新しく参入する金融業者の成長も著しく、たとえばPayPalはメガバンクの時価総額をすでに抜くほどの企業です。投資家は時価総額の高い企業に期待してさらに投資するので、一度伸びてしまえばPayPalのような会社はますます成長することでしょう。

これらの状況を知れば、アメリカの銀行が抱えたフィンテックに対するマインドを感じていただけると思います。こうして国の金融業界全体が、大きくデジタル化に進んでいくことになりました。

関連書籍

山本康正『シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養』

2021年を逃せば、日本企業は百年に一度のチャンスを失う。SaaS、リテールテック、ロボティクス……。トップエリートたちが世界と戦うビジネス戦略を徹底解説!

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シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養

2021年を逃せば、日本企業は百年に一度のチャンスを失う。ハーバード大学院理学修士、元米グーグル、元米金融機関勤務、現ベンチャー投資家の著者が、世界で活躍する8人の知見を紹介し、日本の執るべきビジネス戦略を探る。

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山本康正 米ベンチャー投資家

1981年、大阪府生まれ。東京大学大学院で修士号取得後、米ニューヨークの金融機関に就職。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。修士課程修了後に米グーグルに入社し、フィンテックや人工知能(AI)ほかで日本企業のデジタル活用(DX)を推進。自身がベンチャー投資家でありながら、日本企業やコーポレートベンチャーキャピタルへの助言なども行う。京都大学大学院総合生存学館特任准教授も務める。著書に『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社)、『スタートアップとテクノロジーの世界地図』(ダイヤモンド)、『ビジネス新・教養講座テクノロジーの教科書』(日本経済新聞社)『2025年を制覇する破壊的企業』(SB新書)ほか。

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