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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2021.01.12 更新 ツイート

未来に希望が持ちにくい世の中だけど、推しの新しい動きのために長生きしたい カレー沢薫

この原稿を書いているのは1月10日である。
12日掲載予定の原稿を10日に書き始めている、というのは計算が合わないのではないか、と思うかもしれないが、それは13日になってから言って欲しい。

 

今年の年末年始はコロナウィルスの影響で、不要不急の外出や集会は避けよ、とお達しが出ていた。
その結果、友人との忘年会、旅行、初詣などが中止され、そして最後に「誰が楽しみにしているのかさえ不明な親族の集まり」という不要不急の結晶だけが残ったという人もいるかもしれないが、私にとっては「いつもの年末年始」でもあった。

しかし去年末はまず「戦力外通告~クビになった男たち~」が我が村で放送されないという波乱が起こった。
戦力外通告からまさかの戦力外通告である。
放送する側からすると、昔よりは野球ファンも減っているし、特に今年は試合数も少なく盛り上がりに欠けるから全国放送にするほどでもない、という判断なのかもしれない。

だが世の中には、野球のことは1ミリもわからないが、戦力外通告は楽しみにしているというボンクラがいて、そんなウスラトンカチがどれだけこの番組に勇気、そして心の余裕をもらっているか知ってほしい。
少なくとも、そういう唐変木がここに1本立っているのは確かだし、1人いるということはG理論で30人はいるということだ。
Gというのはしつこいとは思うがゴリラである、家で一匹ゴリラを見かけたら周辺に30匹はいる、というのは常識レベルの知識でだ。

このように、年末の出鼻をくじかれるというよくわからない事態になってしまったが、年末年始というのはそれだけではない。
31日はいつも通り、笑ってはいけないだが、だがそれすらも「福袋」の前座にしかすぎない。

ソシャゲをしている人ならわかると思うが、大体どんなソシャゲでも正月には「福袋」と言って、いつもは出づらい最高レアのキャラが確定で一体はでてくる福袋ガチャを開催する。
ただし、どのレアキャラが貰えるかはあまり選べない、故に「福袋」だ。

私はもちろんFGOだが、夫も種類は違えど、ソシャゲをやっているので「福袋」について尋ねてみると「福袋は課金しなきゃダメだから俺はやらない」という謎の答えが返ってきた。

確かに福袋ガチャは、無料で貯めた石などでは回せず、3000円程度の課金をしなければ回せない場合が多い。
無料で出来るソシャゲで課金をしなければいけない時点でサービスでもなんでもないではないかと思うかもしれないが、本来なら数万課金しても出るかどうかわからないレアキャラが3000円で確定なので、無課金ユーザーでも「福袋だけは課金して回す」という人は多い。

つまり「3000円払えばタダでレアキャラが貰える」のである。
それをスルーする意味が分からないのだが、世の中にはそういう縛りプレイを好む人もいるので深くは追求しなかった。

結果からいうと福袋の結果は芳しいものではなかった。
ただ、出たキャラがハズレだったというわけではない、私が福袋で狙うのは、一昨年の正月に出した「保存用の土方歳三」に続く「観賞用の土方歳三」一点のみなので「土方歳三以外は全部ハズレ」というだけだ。

結果だけ見れば、年末に出鼻くじかれ、年始にもくじかれたので、既に私の鼻は陥没しているのだが、それでも23時45分ぐらいから0時までの「ワクワク」は得難いものであった。

子どものころ「年越し」というのは、いつもは遅くても22時頃には寝ろと言われているのが日付変更まで起きていることを許されるスペシャルデイであり、その分睡魔に負けて起きたら元旦の朝だった時の悔しさは筆舌に尽くしがたいものであった。

中年になった今、年越しをそんなに特別なことと思っているかというと否だし、何だったら23時ぐらいでも眠ければ寝るようになってしまった。

それが、日付が変わったと同時に土方歳三を狙えるガチャが来るというだけで、8歳児の興奮を取り戻せるというのは純粋にすごいことなのではないだろうか。

推しや推しジャンルは様々なものを与えてくれる。
感動や喜び、時にそれが行き過ぎて、めまい、耳鳴り、動悸、貧血という、完全に更年期障害の症状をお見舞いされることあるが、おおむねポジティブなものを授けてくれる。

その中でも特に貴重なのが「未来に対する期待」なのではないかと思う。
遠足より遠足の準備の方が楽しい、というように、人はこれから起こる楽しいことを想像している時が一番幸せとも言われている。
しかし、私が小学生の時の遠足は冗談ではなく、行先が「墓地」であった。
大人になってから「明日墓地に遠足するから、バナナ込のおやつを300円用意しろ、ちなみに「消費税はどうなるんですか?」とドヤ顔で質問すると普通に教師に嫌われるからやめとけ」と言われて、ワクワクできるかというと逆に「面倒くさい」な気がする。

このように、年を取るごとに、ワクワクは減り、最悪ワクワクだったことが「面倒」に変わってしまう。

推しというのは、そんなワクワクをいくつになっても与えてくれる存在なのである。
推しジャンルが過疎で辛いというのは、新しいワクワクを提供される望みが薄い、というのも理由の一つだ。

今現在もコロナウィルスで先が全く見えない状態だし、年金崩壊とか老後貯蓄2000万とか、あまり未来に希望が持てるニュースが少ない昨今である。
「長生きしたい」という人より「適当なところで死にたい」と言っている人の方が多いように感じる。

しかし、推しや推しジャンルがあって、それがいつどんな新しい動きを見せるかわからないという人は自信をもって「長生きしたい」と言う気がする。

私も少なくとも次回の福袋までは生きる。
例え寝たきりになっても、指さえ動けば出来るというのもソシャゲやガチャの良いところである、

関連書籍

カレー沢薫『カレー沢薫の廃人日記 〜オタク沼地獄〜』

だが、未だにガチャから学ぶことは多い、去年末、本コラムをまとめた『カレー沢薫の廃人日記~オタク沼地獄~』という本を出版させてもらった。 そのキャッチコピーは「人生で大事なことは、みんなガチャから教わった」なのだが、改めてこのコピーに嘘偽りはなかったと確信している、もはやガチャは人生の縮図と言っても過言ではない。

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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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