1. Home
  2. 生き方
  3. カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~
  4. 「推し」に何かあった時のアレは餅まきであ...

カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2024.03.28 公開 ツイート

「推し」に何かあった時のアレは餅まきである。 カレー沢薫

私が十年以上1日62時間X(旧Twitter)を見つめ続ける職人であることはあまりにも有名だが、実は投稿頻度はそんなに高くない。

大半の時間をTL監視、そしてエゴサで見つけた褒めつぶやきをRP(旧RT)し、苦言を呈しているアカウントをソッミュ(そっとミュート)するという、時給換算すると4円ぐらいの仕事に従事している。

 

現在では、告知を除くと一日に1回もつぶやかいことも珍しくないのだが、そんな私でも連投不可避な時がある。

それは「推し」に何かあった時である。
もっとわかりやすく言えば ソシャゲの「Fate/Grand Order(FGO)」の最推しキャラである「土方歳三」に何事か起こった時である。

先日、FGOでホワイトデーイベントが開催され、土方さんの新しいカードが登場すると発表された。

「突然のツ」「オボロホロロラ」「とち狂って今回すところだった」「落ち着け」「落ち着いてられるか馬鹿か」「どうしよう」「メガーヌ」「悪いけど明日まで生きるわ」

これが実際の、それを知った時の私のつぶやき群である、ちなみに全部ではない。

これがほんのわずかの間に連投されている。
私をフォロー、かつミュートをしていない人のTLは突然正気を失った人が高速反復横跳びをして去っていったかのようになっていただろう、治安を乱して悪かったと思う。

今回だけでなく、土方さんに何かあった時は毎回こんな感じである。

だが渋谷のスクランブル交差点でサッカーを観戦する人たちも、日本が点を入れたら感極まって、近くにいる知らない人と抱き合ったり、知っている人とディープキスぐらいはしているだろう。

人は自分だけに収めきれない感情が沸き上がった時、それを誰かと共有したくなるし、それが出来ないなら「とりあえずバラまかせてくれ」という気持ちになってくるのだ。

つまりこれは「餅まき」だ。

吉報を祝い、喜びをおすそ分けするべく、ポストという餅をまいているつもりなのだが、何せこちらも突然のことで、何の準備もしていない。
よって、とりあえずそこら辺に落ちている語彙を適当に拾って投げてしまうため、道行く人からは突然頭上から脈絡のない物体が連続で振って来たように見えてしまうのだ。

ちなみに「メガーヌ」が何なのかは私の中でも未だ調査中だ。

しかし、ソシャゲの推しに動きがあるというのは、祭と同時に戦の開始でもある。
いなせな男たちが担いでくるのも神輿ではなく88mm高射砲なのだ。

つまり「ガチャ」に挑まねばならず、場合と経済力によっては入手できない可能性もゼロではない。

しかし、今回はホワイトデー特典として、好きなカードを1枚もらえるシステムだったため、回す前から勝ちは確定していた。

よってお祭男たちも、ウンコを縦に両断しそうなほど締めたふんどしを緩めリラックスモード、私も紫のカクテルドレスに一粒がドラゴンボールぐらいあるパールネックレスをかけ、膝で毛が長いおキャット様を抱いて余裕の面持ちであった。

そもそもレアリティがそこまで高くないカードなので、それを使わずともガチャで出せるだろう。

そう思いながら、50連は出なかったが、何せ最終手段が残っているので我が心は不動である。
逆に言えば、それがなかったら発狂し、おキャット様の毛を、逆進行方向に撫でるという不敬を働いてしまっていたかもしれない。

だが結果としては、もうこれでダメだったら大人しく施しを受けようという最後の10連で見事引き当てることができ、ソシャカスのゼーリエも「これだからガチャはやめられない」とご満悦である。

最後の保険があった分、いつもよりは心穏やかでいられたが、逆にこれがなければ、出た時もっとエキサイティングだっただろう。

実際、カードを手に入れた時に投げられた餅は「泣きの自引き本当にありがとうございました」「ツ」「好き」「完」の4つであり、ビニール袋はもちろん、流れ餅すら取りこぼさないようパーカーを着て待っていた人間からすれば、物足りなかったのではないかとすら思う。

もちろん入手した今だから、そんなことを言えるだけで、今も出てなかったら「見世物じゃねえぞ」と馬糞をまき散らしていたと思う。

しかし個人的に推し活というのは「サウナ」に近いのではないかと思っている。

サウナと言えば、サウナと水風呂の交互浴をすることにより「整う」というのが近年有名だが、医学的にこの「整う」に対して懐疑的な人も多い。

しかし当のサウナーに聞くと「ハナから健康にいいと思ってやっているわけではない、ただサウナと冷水で自律神経をハチャメチャにするのが気持ちいいからやっている」という潔い答えが返って来きたりもする。

推し活も同様で、推しにより情緒をハチャメチャされるのが気持ちいいからやっている、みたいなところがある。

よって、必ずもらえるという温めのサウナみたいなガチャでは、寒暖差が少なくハチャメチャが足りないという欠点もあるのだ。

しかし、サウナであれば、サウナと水風呂をスイッチングするタイミングを自分で選べるが、ガチャはそれができず、永遠にサウナから出られず干からびたり、水風呂で凍死していることもままある。

健康に良いという説も根強いが、用法を間違えると死ぬほど健康に悪い、という点もサウナと推し活の共通点である。

どちらも心臓が止まらない程度に楽しまなければならない。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

{ この記事をシェアする }

カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

バックナンバー

カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP