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日本の医療の不都合な真実

2020.11.19 更新 ツイート

人は家畜になっても生き残る道を選ぶのか 森田洋之

新型コロナウイルスの脅威に、世界中が怯え、右往左往したこの1年。そんななかで、「感染リスクゼロ」を目指すことで私たちはかけがえのない大切なものを失いつつある、いまこそ人生の主導権を医療とコロナから取り戻そう――というメッセージを投げかけた『日本の医療の不都合な真実』。森田洋之さんのこの話題の一冊の終章から、抜粋をお届けします。
(記事の最後に刊行記念トークイベントのご案内があります)

*   *   *

高齢者の「収容所」と化した病院・施設

本当に残念なことですが、人はふとしたことで命を落とすものです。これだけ医学が進歩した時代にあっても、助けられない命は無数にあります。

もちろん、助けられる命は全力で助けることが医療であり、医師です。しかしそれでも、リスクは決してゼロにはなりません。なぜなら、繰り返しますが人は必ず死ぬからです。むしろ、第2章「人はウイルスとは戦えない」で述べたように、リスクゼロを追求すべきではない、と言ってもいいでしょう。

リスクをゼロにしようとする医療側の真摯な努力が、逆に諸々の弊害をもたらしてしまうことは、本書をここまで読まれた方にも容易に想像できるはずです。

医療によるゼロリスク追求が社会にもたらしてきた弊害で最大のものは、やはり「高齢者」に対する医療でしょう。

批判を恐れず率直に言えば、高齢者医療の現場である病院・施設は「ゼロリスク神話」による管理・支配によって、高齢者の収容所になりつつあります。

(写真:iStock.com/zetter)

誰しも高齢になれば自然に足腰も衰えます。転倒を避けるためには「歩くな」が一番の予防策です。そのため高齢者が入院する病院ではいま、ベッドに柵が張られていることが多いのです。トイレに行きたいときは看護師を呼んで車椅子で移動することを強いられます。すると筋力・体力は急速に落ちていきます。そうして寝たきりになり、排泄はおむつになります。

また、誰しも高齢になれば飲み込む力が落ちるので、食べては誤嚥し、肺炎を発症します。誤嚥性肺炎を予防するには「食べるな」が一番の策です。そのため高齢者が入院する病院・施設では、鼻から胃袋まで管を入れられたり、胃ろう造設されたりした高齢者が数多く存在します。

こうして高齢者は入院・入所した途端に行動を制限され寝たきりになっていきます。 世間や医療のゼロリスク神話はいともたやすく高齢者の生活を奪ってしまいます。リスクを恐れるあまり、多くの高齢者はいま「カゴの中の鳥」になっているのです。

こうした傾向は、今回のコロナ禍で確実に深刻化しています。コロナ感染予防のため完全に他者をシャットアウトした病院や高齢者施設も数多くあり、家族でさえ面会が困難な状況です。

そしてその状況に至るまでの道程の片棒を担いだのは、もっと言えば「先導」したのは、私を含む医療従事者です。

「命を守る」という名のもとの恐怖支配

「命を守る」「〇〇しないと死ぬ」という恐怖のメッセージは、医療側が想像する以上に効果的でした。この恐怖のメッセージは、高齢者医療から新型コロナウイルス感染予防へと場を移し、猛威を発揮し始めています。

中国ではスマホの位置情報で個人の行動が管理されています。韓国でもスマホの位置情報で感染者との接触情報が管理されていると言います。そして日本でもこの動きは少しずつ進展しています。医療が喧伝する死の恐怖は、まるで人々を徐々にカゴの中へ誘っているかのようです。

もちろん、一人ひとりの真面目な医療者は「医療による恐怖で世界を支配する」などということを、かけらも思っていないでしょう。しかし、今回のコロナ禍は「医療的な恐怖で世界を動かせる」ことを図らずも証明してしまったところがあるのです。

いま私たちは、新型コロナを理由に、これまで人類が何百年もかけて一つずつ獲得してきた様々な社会的な権利を、一時的にとはいえむしり取られるという前代未聞の体験をしています。

医療がまるで、「命を守る」という殺し文句だけで、これまで誰も持ち得なかった「人権さえも制限できる巨大な力」を持ってしまったかのようです。

死はいつも身近にあるものです。新型コロナウイルス肺炎だけでなく、インフルエンザでも普通の肺炎でも、がんでも心筋梗塞でも交通事故でも、人は死にます。世界に目を向ければ、3大感染症(結核・マラリア・HIV)で1日7000人もの人が亡くなっています。

自動車製造を止めれば、世界中で交通事故で死ぬ年間約100万人の命を救えたはずです。

しかし私たちは歴史の過程で、決してその選択をとりませんでした。それは自動車があることで得られる圧倒的な利益と、その代わりに失うもののバランスを無意識のうちに勘案していたからでしょう。意識するかしないかにかかわらず、私たちはリスクと共存し、それを許容して生きてきたのです。

新型コロナによる恐怖と医療従事者による「ゼロリスク」の先導は、世界中の経済を止め、生活を破壊し、人々は自らカゴの中に入ろうとしているように見えます。そして近い未来、医療が持つに至った壮大な力を巧みに利用する巨大な権力が現れるかもしれません。

それでは得るものに比べて失うものが大きすぎはしないでしょうか。バランスが圧倒的に悪すぎはしないでしょうか。

人は家畜になっても生き残る道を選ぶのか

「人は家畜になっても生き残る道を選ぶのか」

緊急事態宣言下、友人から発せられたこの言葉を聞き、私はすべての思考がストップし、友人との会話中でなければ泣いてしまったかもしれないくらい、心をかき乱されました。

それは、私が感じていた「この国の人々と医療の世界に蔓延するモヤモヤ」を言い当てられたからだと思います。

自分が何をモヤモヤと感じていたのか、なぜ友人の言葉にそんなに衝撃を受けたのか。それを自分なりに言葉にしたいと思ったことが、本書執筆のきっかけになりました。

そして本書を終えるいま、もう一度言いたいのは
「人は必ず死ぬ」
ということです。とても残念なことですが。

だから、高齢者がますます増える時代の医療では、「治す」だけでなく、それら必ず死にゆく人々の生活を、肉体的だけでなく精神的にも社会的にも、最後まで「支える」「寄り添う」ことが重要になってきます。

政治も医師も市民も、そこに立ち戻ることが、日本の医療を、「人を幸せにする医療」に建て直すための第一歩なのだと思います。

*   *   *

本文中に登場する「友人」は、著書『「健康」から生活をまもる』が話題の医師・大脇幸志郎さん。11月26日(木)19時から森田洋之さんと大脇幸志郎さんのトークイベントを開催します。

トークイベントに先立ち、大脇さんは、noteに「コロナはパンデミックではない、ならなんなのか」という記事を発表。「家畜になっても……」という言葉が出てきた背景を説明し、さらに森田さんへの「ちょっと意地の悪い質問ふたつ」を投げかけています。

はたして森田さんの答えは? テレビや新聞にはなかなか出てこない話題が飛び交うこと必至のおふたりのトークを、どうぞお楽しみに。詳細・お申し込みはこちらの幻冬舎大学のページからどうぞ。
 

森田洋之『日本の医療の不都合な真実 コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側』

新型コロナの感染拡大では、「医療崩壊」の危機が叫ばれた。 しかし、病院数も病床数も世界一多い日本で、なぜそんな事態に陥るのか。 そこには、「世界最高レベル」と称される日本の医療が、私たちの健康と幸福につながっていないという、根深い問題があった――。 著者は、財政破綻の結果、市内にひとつしかない病院がなくなるという「医療崩壊」が起きた夕張で地域医療に従事。 その経験を踏まえ、コロナ禍で露呈した日本の医療の問題点を明らかにする。

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日本の医療の不都合な真実

世界一病床が多い日本で、なぜ病院がすぐパンクするのか?
コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側。
人間を幸せにしない日本の医療の衝撃の実態が明らかに!

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森田洋之 医師・医療経済ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。医師、南日本ヘルスリサーチラボ代表。鹿児島医療介護塾まちづくり部長、日本内科学会認定内科医、プライマリ・ケア指導医、元鹿児島県参与(地方創生担当)。一橋大学経済学部卒業後、宮崎医科大学医学部入学。宮崎県内で研修を修了し、2009年より北海道夕張市立診療所に勤務。同診療所所長を経て、鹿児島県で研究・執筆・診療を中心に活動。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。2020年、鹿児島県南九州市に、ひらやまのクリニックを開業。医療と介護の新たな連携スタイルを構築している。著書に『日本の医療の不都合な真実』(幻冬舎新書)、『破綻からの奇蹟』(南日本ヘルスリサーチラボ)、『医療経済の嘘』(ポプラ新書)がある。

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