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中高年ひきこもり

2020.11.25 公開 ポスト

「家事手伝い」が隠れ蓑に。表面化しにくい女性のひきこもり問題斎藤環(精神科医)

「ひきこもり」といえば、若者というイメージを持っている人も多いだろう。ところが今、40~64歳の「中高年ひきこもり」が増えているという。その数、推計で61万人。「8050問題」とも言われるこの状態を放置すれば、多くの家族が孤立し、親の死後には困窮・孤独死にまで追いつめられていく……。そう警鐘を鳴らすのは、この問題の第一人者である斎藤環さんだ。斎藤さんの著書『中高年ひきこもり』より、一部を抜粋しよう。

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女性のひきこもりは意外と多い?

かつては私もひきこもりは男性のほうが圧倒的になりやすく、男女比は7:3ぐらいだろうと推定していました。いまでも、多くのひきこもり調査では、そういう結果が報告されがちです。

しかし近年、女性のひきこもりの存在が注目され、これまで想定されていた以上にその数は多いのではないかと言われ始めています。

たしかに、女性のほうが男性よりも表面化しにくいことを考えると、女性の割合はもっと多いと考えるべきでしょう。

(写真:iStock.com/kitzcorner)

たとえばニート(NEET=Not in Education, Employment or Trainingの略。15~34歳までの、家事・通学・就業をせず、職業訓練も受けていない者)の統計を見ると男女はほぼ半々ですから、ひきこもりも実際は半々に近いだろうと見ています。

女性のひきこもりが統計や実例などの形で表面化しにくいのは、「通学や就業をせずに自宅にいること」がさほど特別なケースではないからでしょう。女性の社会進出が声高に求められる時代になっても、日本社会にはいまだに女性の社会参加を強く望まない価値観が根強くあります。

そのため、たとえば学校を出てから働かずに家にいても、女性は男性ほど不思議がられません。「家事手伝い」という状態が、とくにめずらしくはないものとして世間に受け入れられています。

 

親も、そういう娘にあまり危機感は抱かないでしょう。実際にはひきこもりの状態で、親もやや不安を感じていたとしても、自治体のアンケート調査などには「家事手伝い」と回答する家族が多いと思います。

それと同様、「専業主婦」という立場も、ひきこもりという実態を見えにくくしているかもしれません。男性の「専業主夫」はまだめずらしい存在なので、ひきこもりの隠れ蓑にはなりませんが、女性は「専業主婦」の体裁を取りながらひきこもることができます。

支援を受けにくいひきこもり女性

だから女性のひきこもりは表面化しにくいのですが、最近は少しずつ目に見える存在になってきました。よく知られているのは、林恭子さんらが主催する「ひきこもりUX女子会」です。全国各地の自治体と連携して当事者の集まる会合を行っており、2016年からの約3年間で計80回、のべ3300人以上が参加しました。

(写真:iStock.com/Prostock-Studio)

こうした女子会の試みは、これまでにもなかったわけではありません。二千年代初頭にもいくつかありましたが、みんないつの間にか消えてしまいました。私の知るかぎり、その理由の1つはグルーピングです。女子会の内部に「仲良し集団」ができてお互いに排他的な関係になり、ばらばらになってしまうのです。

しかしUX女子会は規模が大きく、一度の会合に50人以上集まることもあるので、グルーピングが問題になりません。この発想は完全に「コロンブスの卵」でした。長続きするという意味でも、それだけ多くのひきこもり女性がいることを明らかにしたという意味でも、これは画期的なことでした。

では、女性と男性では何か違いがあるでしょうか。

 

私が感じていることの1つは、女性のほうがひきこもり状態から抜け出しやすい面があるということです。たとえば、異性との出会いによって抜け出す人は、男性より女性のほうが多い。そこにも男女の社会的な立場の差が関係しています。

身も蓋もない言い方をしてしまえば、いまの社会では働いていない男性はなかなか女性にモテません。しかし女性のほうは、仕事や収入がなくても接近してくる男性はいるわけです。支援者の男性と結婚した女性の話も時折耳にしますが、これと逆の事態、支援者女性と結婚した男性の話は聞いたことがありません。

とはいえ、一概に女性のほうがひきこもり状態を解消しやすいとも言えません。「家事手伝い」や「専業主婦」といった隠れ蓑によって問題そのものが見逃されてしまうことが男性よりも多いからです。

この違いは、偏見にさらされにくいという意味では、ひきこもりから抜け出すことを容易にしている面もあるでしょう。反面、周囲からは社会的に不適応な状態だと見なされない(つまり「女性としてふつうに暮らしている」と見なされる)ので、支援の手が差し伸べられることもありません。

しかし本人は「このままではいけない」と自責の念にかられて苦しんでいるかもしれないのです。

関連書籍

斎藤環『中高年ひきこもり』

内閣府の調査では、40〜64歳のひきこもり状態にある人は推計61万人と、15〜39歳の54万人を大きく上回る。中高年ひきこもりで最も深刻なのは、80代の親が50代の子どもの面倒を見なければならないという「8050問題」だ。家族の孤立、孤独死・生活保護受給者の大量発生――中高年ひきこもりは、いまや日本の重大な社会問題だ。だが、世間では誤解と偏見がまだ根強く、そのことが事態をさらに悪化させている。「ひきこもり」とはそもそも何か。何が正しい支援なのか。第一人者による決定版解説書。

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中高年ひきこもり

「ひきこもり」といえば、若者というイメージを持っている人も多いだろう。ところが今、40~64歳の「中高年ひきこもり」が増えているという。その数、なんと61万人。この状態を放置すれば、生活保護受給者が大量発生し、日本の社会保障制度を根幹から揺るがすことになる……。そう警鐘を鳴らすのは、この問題の第一人者である斎藤環さんの著書『中高年ひきこもり』だ。まさに「決定版解説書」といえる本書より、一部を抜粋しよう。

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斎藤環 精神科医

1961年、岩手県生まれ。医学博士。筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、精神分析、精神療法。「ひきこもり」ならびに、フィンランド発祥のケアの手法・思想である「オープン・ダイアローグ」の啓蒙活動に精力的に取り組む。漫画・映画などのサブカルチャー愛好家としても知られる。主な著書に『戦闘美少女の精神分析』『ひきこもりはなぜ「治る」のか?』(以上、ちくま文庫)、『アーティストは境界線上で踊る』(みすず書房)、『「社会的うつ病」の治し方』(新潮選書)、『世界が土曜の夜の夢なら』(角川文庫)、『承認をめぐる病』(日本評論社)、『人間にとって健康とは何か』(PHP新書)、『オープンダイアローグとは何か』(医学書院)などがある。

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