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和製ダ・ヴィンチ・コード『縄紋』

2020.07.10 更新 ツイート

【書評】神話か都市伝説か。真梨幸子という新たなジャンルへの誘い 内田剛

「イヤミスの真梨幸子はどこへ行った?」「女のドロドロが読みたかったのに」「いやいや、この衝撃のラストこそ一番のイヤミスだ」「真梨幸子さんの作品は初めて買いましたが、面白くてびっくり」「ウンチクにはまった」「縄文なんて興味ない」「いや、縄文にはまった!」と、

刊行後、賛否両論、刺激的な反応が続く、真梨幸子さんの新刊『縄紋』。あなたは読後、どのように感じられるでしょうか。

『縄紋』POPも作ってくださった、ブックジャーナリストの内田剛さんから、この定形外の刺激溢れる小説への熱い書評をいただきましたのでご紹介します。

*   *   *

 

『縄紋』はとてつもない物語である。はるか古の時代から今現在、そしてこれからの未来までも呑み込んでしまうような迫力がある。まさに言葉が渦となって読者である僕らを包んでしまうのだ。理屈では表現のできない文学世界。これぞまさしく物語の醍醐味と言えよう。かつて教科書では「縄紋」は「縄文」として教えられていた。旧石器時代から弥生時代を繋ぐ縄文時代。しかし新たな発見や解釈によって歴史観は変化している。教科書だって日々、書き換えられている。ダイナミックな息づかいで歴史は生きているのだ。『縄紋』は今を生きている名もなき僕らも、歴史を形成する登場人物の一人であり、歴史のうねりの中で生活しているのだという事実を教えてくれる。時間は常に止まらずに流れ続けており、今この瞬間も歴史の地層を確かに構成しているのだ。

著者の真梨幸子は今でこそ「イヤミスの女王」として揺るぎない人気を誇る作家であるが、下積み時代も長かった。遅咲きだったからこそ感性はとにかく読者の日常生活に近い。その筆力もまた異様なまでに研ぎ澄まされている。人間の闇の部分、陰となった真実を暴き出すテクニックに卓越しているのだ。視線はとにかく繊細にして大胆不敵。執拗なまでの描写力、細かな違和感を絶妙に膨らませて、欲に塗れた人間の素顔とこの世のすべてを容赦なく曝け出す。閉塞感に溢れ混沌とした時代の空気ともジャストフィットして多くの読者の支持を勝ち得た。今、最も信頼のおける作家の一人と言っても過言ではない。

そんな注目作家である真梨幸子が新作の題材として「縄紋」を選んだと知って驚きよりも、嬉しさを感じた。これはいわゆる「イヤミス」ではない。ジャンルの枠を超越した極めて上質なエンターテインメント作品なのだ。個人的な体験で大変恐縮であるが、数年前に雑誌での対談の後にコーヒーをご一緒させていただいた。世間話から今後の作品に話が展開したのだが、その時の会話は今でも忘れられない。まずはその旺盛な制作意欲に驚かされた。とにかく構想が溢れ出して仕方なく、しかも超大作を書きたいと。書きたい作品のテーマにも、「歴史の闇に埋もれているものを探っていきたい」という熱意にもまた凄味を感じた。都心の地形は平らではない。意外なほど高低差があり山の手の大地には、縄紋の時代から人が暮らしドラマがあったのだ。明るい光しかイメージできない高級住宅街にも埋もれた闇がある。現代の生活の場所にも遺跡や廃墟が同居しているのだ。何気ないその席で「古代人の人骨も発掘された」話題を小説のテーマとしたいという話も聞いた。独特の視点から歴史の真実に迫った梅原猛の『隠された十字架』のような作品を書きたいとも聞き、これはいつか物語で読みたいと思っていた。『縄紋』はまさに今や遅しと待っていた作品だったのだ。

『縄紋』には物語を読み解く鍵が続々と登場する。鳥居、カラス、犬、蛇、鏡、そして「ハハ」と「カカ」。それぞれのワードが言霊となって意味を持ち、そしてストーリーを動かしていく。言葉を追いながらいつしか時空を超えたスリリングな冒険の旅が始まっている。夢と妄想と現実を融合させたこの巧妙な企みもまた読みどころのひとつである。

『縄紋』はただの小説ではない。いまに蘇った神話であり新たに生まれた都市伝説でもある。世代を超えた壮大なスケールの輪廻転生をも感じさせるのだ。舞台はごく小さなエリアであっても、古代人の夢と現代人の幻を軸に物語は重層的に絡まり合う。この構成には目眩を感じるほど。生者だけではない死者からも、人類だけでない動物たちからも発せられた魂の叫びが重なりあって奇跡のハーモニーを奏でるのだ。日常で繰り広げられる喜怒哀楽の感情から生み出された人間たちの営みは、歴史という名の宇宙世界の中ではなんとちっぽけなものかと気づかされる。

歴史の闇、禁断の領域にも果敢に斬り込み、読者の心を確実に縛りつける『縄紋』は真梨幸子の新たな代表作であることに間違いはない。彼女の思考は常に今をそしてこれからに向いている。そしていかに読者を楽しませるかということに。「真梨幸子」自体がひとつのジャンルと言えるかもしれないが、この作家がさらにどんなテーマにチャレンジしていくか楽しみで仕方ない。唯一無二の驚きをこれからも大いに期待したい。

 

ブックジャーナリスト 内田剛

(プロフィール)本屋大賞実行委員会理事。2020年2月より約30年間の書店勤務を経てフリーランスに。文芸書レビューや販促物作成、学校や図書館でのPOP講習会などで活動中。著書に「POP王!の本」あり。

関連書籍

真梨幸子『縄紋』

縄紋時代、女は神であり、男たちは種馬、奴隷でした。 フリーの校正者・興梠に届いた自費出版の原稿。それは “ 縄「紋」時代 " に関する記述から始まる不可思議なものだった。読み進めていくうち、貝塚で発見された男女の遺体など、現在にも繋がる共通点が幾つも現れて.....。この著者の正体は誰なのか、「縄紋黙示録」に隠されているメッセージとは。やがて興梠たちの身辺でも異変が起こり始めーー。多くの文豪たちが暮らし、今も有名学区が犇めく東京・文京区を舞台に、過去と現代、そして未来が絡み合う驚天動地の大長編。これは小説か予言なのか。 世界まるごと大どんでん返し!

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和製ダ・ヴィンチ・コード『縄紋』

縄紋、と聞いて、「何それ?」と思ったあなた。

実は、あなたが欲しいマンションの価格も、日本人に糖尿病が多いのも、ヤンキー坐りの発祥も、神社に鳥居と参道があるのも、謎の病気が流行るのも、最近フェミニズムが台頭しているのも、隣りのあの人が消えたのも、殺人が起こったのも、ぜんぶ「縄紋」のせいかもしれません。

イヤミスの女王、真梨幸子さんの新刊『縄紋』発売記念特集です。

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